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蛍の川

 蛍がたくさん見られるところがあるというので、京都の北、岩倉の方へ行って来た。
 通りから遠ざかるように川沿いを歩いて行くと、闇が濃くなるにつれて、二つ三つ、五つ六つと、川面に幻想的な緑色の明かりが灯り出した。街灯の光を避けるように、木々の陰や草むらに、蛍の数は増えていく。しばらく行くと、川の土手が少し開けたような場所があって、そこに、いくつもの蛍が、ふわふわと光の尾を引くように、飛び交っていた。蛍の乱舞とまではいかないけれど、たとえば蛍の名所として知られる哲学の道なんかよりも、たくさん飛んでいた。
 たよりげない光の粒が、ぼうっと明滅しながら、ただ静かに闇を舞う光景は、なんとも、浮世離れしているように感じられる。もっとも蛍にとってみれば、雄と雌のあいだで光の言葉を交わすこの夜は、まさに浮世そのものであるはずなのだけれど。
 蛍を捕まえて、かごに入れている子供がいた。子供の手の中で、二つほどの明かりが、ゆっくりと瞬いている。
 一緒に蛍を見に来た人たちは、可哀相に、捕まえるなんて酷い、放してやればいいのに、と怒っていたが、私は曖昧に相槌を打って、黙っていた。
 子供の頃、海でキャンプをしたときに、星の降るような砂浜で、一匹の蛍を捕まえた。ビニール袋に入れて枕元に置いておいたら、明かりを消した車の中で、弱々しい光を放っていた。
 袋に空気穴をあけておいたのに、次の朝に蛍は死んでいた。胸の上で足を折りたたんで、袋の内側をつるつると滑った。朝の明るい光の中に、蛍はただの甲虫となった哀れな姿を晒していた。とても悪いことをしたと思った。なんて儚い虫だろうと思った。
 あの子供も、家に帰る前に、蛍を夜の闇に逃がしてやっていればいいのだけど、と思う。
コメント ( 6 ) | Trackback ( 0 )
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子どもは仕方ないかも。 (のり)
2007-06-26 19:46:51
限りある命に対する自制心よりも
本能を刺激する好奇心の方が勝ちますからね。
特に昆虫は初期の犠牲者になります。
私も小学生の頃はカマキリやバッタ
カブトムシやクワガタなんかを何も考えず捕まえていましたし…。
結局秋を迎える前に死なせてしまうんですよね。
 
一説では生きものを責任持って飼える年齢は12歳を過ぎてからなんだそうです。
 
 
 
Unknown (カゼクサ)
2007-06-26 21:15:53
私も昔々子供の頃、蛍狩りに出かけ2,3匹捕まえたことがあります。
細かな金網でできた虫かごに水をたっぷり含ませた笹と一緒にいれ、笹が乾かないように霧吹きをこまめにかけてあげました。でも次の日の夜にはあまり光を出さなくなり、元気が無くなったと思い放してあげました。
今から思えば、ひょっとしてオスばかり捕まえたのかもしれませんね。
 
 
 
はじめまして (ゆう)
2007-06-27 17:33:06
露草の別名を蛍草と呼ぶそうです
おなじ露の季節に咲くこの花を虫かごに一緒にいれてあげると露を含んだ葉や茎が蛍の命をわずかでも長らえさせることができるそう
遠い日本人の優しさがこんな言葉に現れていますね
捕まるのはほとんどが雄です
雌は飛べずに葉陰で雄を待つだけです
他の虫と違って蛍はあの光を放つのに命を削るほど体力を消耗させて1週間も生きられないそうです
儚いからこそ美しいんでしょうね

 
 
 
のりさんへ (チナツ)
2007-06-27 20:07:23
12歳ですか…意外と大きくならないと、だめなんですねぇ。
私も、子供の頃は、虫に対していろいろ可哀相なことをしました。
子供って、わけがわかっていないぶん、残酷ですよね。
でも、そういう犠牲のもとで、命の大切さというものを、少しずつ学んでいくのでしょうね。
 
 
 
カゼクサさんへ (チナツ)
2007-06-27 20:10:47
子供の頃、ホタルを捕まえた思い出って、結構多くの人が持っているのかもしれませんね。
ホタルって、成虫になったら水しか飲まないから、水分は大切なんですね。
ホタルが死んでしまう前に逃がしてあげたカゼクサさん、優しい子供さんだったんですね。
 
 
 
ゆうさんへ (チナツ)
2007-06-27 20:16:51
はじめまして。コメントをどうもありがとうございます。
きれいなお話ですね。ただ水をあげるより、そうやって、同じ季節の、自然の草花を添えてあげた方が、長生きできる。勉強になりました。
蛍についても、いろいろお詳しいのですね。蛍の光を見ると、せつないような、胸が一杯になるような気がするのは、そういうことが背景にあるからかなあと思いました。
 
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