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晩秋の野良猫たち

 夕方、猫タワーのかごの中で寝ていたみゆちゃんが、電光石火のごとくタワーを駆け降り、窓辺へ走り寄ってじっと外を見つめた。ふくちゃんはよく裏庭や隣家の屋根に遊ぶ小鳥ににゃっにゃっと呼びかけているけれど、みゆちゃんのこの動きは珍しい。反対に、ふくちゃんはいま、一緒に寝ていたかごの中に起き上がって、きょとんとしている。
 みゆちゃんの横に並んで外を見ると、裏の家の一階のトタン屋根の上に、大きな猫が二匹、対峙している。一匹は近所でよく見る黒猫、もう一匹はトラ猫だった。
 この黒も相当大きくてふてぶてしい面構えの猫だけれど、トラの方はさらに黒が小柄に見えるほど大きく、毛はばさばさでえらの張った、野良の中の野良といった感じの猫である。
 二匹は微妙な距離を保って動かずにいたが、そのあいだの空気は意外と緊迫したふうではないように見えた。ふたりはすでに知り合いで、それを確認しようとしているのかしらと思ったが、しかし猫のことなので、突然飛び掛らないという保証もない。
 人が見ているとわかったらけんかはしないだろうと思って、窓を開けて、ケンカしたらダメよと呼びかけたら、二匹ともこっちを向いた。その隙に、黒はするりとトタンの塀の陰にまわって、そこに素早くマーキングをして、あとを追ってきたトラと一瞬睨み合ってから、塀と家屋のあいだの細い隙間にするりと飛び下りて見えなくなった。
 トラは、黒が消えた隙間に自分も下りようかと迷った様子で、数回前後に足踏みをしたが、えらの張った頭では入りそうもなかったのか、結局塀の外側へ降りて、これも姿を消した。
 しばらくして、みゆちゃんがまだ窓の外を気にしていたのでまた見たら、トラはまだそこいらをうろうろしていたらしく、瓦屋根の上にいた。その日は、年の瀬の寒さと予報されるほどよく冷えて、日が暮れた薄墨色の中に立つトラが哀れに思われたが、当の本人はそんなことは気にもしていない様子で、ごわごわした虎毛の背中を瓦屋根の上にしゃんと伸ばし、にゃおにゃお、と鳴いた。
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