夢の中の猫

 朝、目覚めたときには思い出すことが出来ないが、起床してだいぶ経ったあと、何かがきっかけで、ふとその朝見ていた夢を思い出すことがある。
 今朝も起きたときには何も覚えていなかったけれど、朝食のあと、床に座って子供のパズルに付き合っていると、遅いお目覚めのみゆちゃんが向こうからやってきて、私たちのそばを横切っていった。その背中をすっとなでたとき、今朝見ていた夢の一場面がフラッシュバックみたいにぱっと現れた。紫がかった薄暗い背景に、細長いからだのみゆちゃんが二足歩行で横切っていく夢である。その前後はわからない。一瞬だけの映像である。みゆちゃんふくちゃんが夢に出てくることはたまにあるけれど、二本足で立っているのははじめて見た。
 前に実家にいたトラ猫のネロは、根は甘えん坊だったが、やんちゃでちっともいうことを聞かなかった。いうことを聞かないというのは猫の特長ではあるけれど、とくにネロの場合、怖いもの知らずで小さな暴君のようなところがあった(だからネロなのである)。母のお気に入りで、母とはうまくやっていたけれど(食事の準備のときには毎回攻防があった)、ときどき父とはもめていたようである。
 そのネロが最盛期の頃、父が見た夢である。夢の中で父は車を運転していた。うしろから追い越していく車があって、父の車の前に出ると、蛇行したり嫌がらせするような走り方をはじめた。父は腹が立って、抜き返そうとしたけれどできないままに、しばらく行くと前の車が止まった。文句を言おうと思って父も車を止めたら、前の車から降りてきたのはネロだった、という夢で、可笑しくて、みんなで笑った。
 近頃では、昨日ちゃめが夢に出てきてね、そのあと目が覚めて寝られなかった、と少し切なそうな声で、ときどき父は言っている。
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