猫と千夏とエトセトラ

ねこ絵描き岡田千夏のねこまんが、ねこイラスト、時々エッセイ

お外はつまらにゃい!―ちゃめがうちに来た理由―(後篇)

2007年03月16日 | 
 子猫たちもキャットフードを食べるようになって、家の裏口の戸を細く開けてやると、すきまから中を覗くようになった。
 土間のところでネズミを動かして誘ってみると、やっぱり茶トラが一番に家の中に入ってきた。戸のすきまからこわごわと見つめる兄弟たちを尻目に、茶トラは何を怖がることがあるかと、ネズミを捕まえたりスリッパを蹴っ飛ばしたり、やんちゃ放題に遊んでいる。
 なかなか誘いに乗ってこない縞ぶちや黒に対して、根気よくネズミを動かしていると、やはり狩猟本能なのか、彼らもとうとう我慢できなくなって飛び出しては来るのだけれど、ネズミを押さえつけたところではっと我に返り、しまったとばかり、あわててドアのうしろに逃げ込んでしまう。
 茶トラは、家の中に興味を持ちだして、自分から探検に入ってくるようになった。私の部屋までやってくるので、そこでまたネズミのおもちゃで遊んでやると、外のことなんかすっかり忘れて、夢中になって追いかける。そうしてしばらく遊んでいると、突然母が恋しくなるのか、もう帰るとばかりにゃあにゃあ鳴き出すのである。
 この、好奇心いっぱいで警戒心のまったくみられない茶トラの子猫は、いったい頭がいいのだろうか馬鹿なのだろうかとみんな首をひねったが、とにかく愉快な猫であるにはちがいない。茶トラを家猫にしようということになって、ある日を境に、家の中にやってきた茶トラの帰り道を閉ざしてしまった。
 最初のうちは、ときどき外を思い出しては、お外へ帰るのだとにゃあにゃあ言って、そのたびにネズミのおもちゃで気をそらせていたのだけれど、しばらくすると、外の世界も母親のことも忘れてしまったのか、外へ出たがらなくなった。
 母猫は、茶トラが家に通い始めた頃から、この子の餌場はここにしようと考えて、茶トラを置いてときどきどこかへ出かけるようになっており、そのうちに、ほかの兄弟たちを連れて姿を消した。
 好奇心のかたまりみたいな、やんちゃな茶トラの子猫の名前は、「ちゃめ」と決まった。茶色い目の色に、茶目っ気をかけたのである。いまでは、外へ通じる扉が大きく開いていても、ちゃめは決して出ようとはしない。ちゃめにとっては家の中のいろんなことや、人間相手の遊びのほうが、外の世界で送る日々より楽しいのである。(了)