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風来坊の恋

 名はトラ。数年前、ぶらりと実家にやって来た風来坊である。
 頬の張ったふてぶてしい顔と鋭い眼光、野良生活で鍛え上げられたこの逞しい雄のトラ猫は、家の敷地内でいつもぬくぬくしていた我が家の外猫ポチとちゃぷりをあっという間に蹴散らして、その猫ハウスを分捕ってしまった。もちろん、外猫用のえさもトラが奪った。
 「来る猫は拒まず」が家の基本方針であるから、庭に居ついたトラを追い出すわけにもいかないが、あまり厚遇してポチやちゃぷりを追い出してしまっては困る。一定の距離をおいたトラとの共同生活が始まった。
 猫ハウスもご飯の場所も、トラとほかの外猫たちで別々にした。彼らがもめることはなくなったが、やはりトラの立場が強いらしく、ポチとちゃぷりは肩身狭く暮らさなければならなくなった。
 実家の庭を活動拠点とし、えさも寝床も用意してもらいながら、トラはなかなか人になつかなかった。トラが警戒心を緩めたのは、家に来て4ヶ月ほど経ってからである。朝と夜の一日二回、200回以上食事のたびに手を差し伸べることを繰り返し、ようやくトラに触れることができるようになった。
 そんなある日、トラが彼女を連れてきた。つややかな毛並みと緑色の目がきれいな、若い雌の黒猫である。クロは時々遊びに来た。二匹は見ていて微笑ましくなるくらいに仲が良かった。夜はひとつの箱で身を寄せ合って一緒に眠り、食事時にはトラは必ずクロに譲ってえさを先に食べさせた。クロのためにえさを催促することもあった。裏口のところでトラが鳴くので、ご飯はさっきあげたはずなのにと母が扉を開けてみると、トラのうしろに食事の時間にいなかったクロがちょこんと座っていた。
 クロからすれば、トラは強くやさしくて、頼りがいのある雄猫だったにちがいない。
 そのトラが、ある日忽然といなくなった。雄猫の本能で急に旅に出たくなったのか、あるいは事故で死んだのか。トラの消息はわからない。
 トラがいなくなったあともしばらくクロは家を訪ねてきたが、トラがいなくなったことで気の強くなったちゃぷりがクロを追いかけるようになり、やがてクロも姿を見せなくなった。



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