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アブナー伯父の叡智

2022年06月30日 | ミステリ
思い至って、持っていなかった、創元推理文庫版「アブナー伯父の事件簿」を古本屋で買う。
読んでみておどろいたのですが、これ、全然違う本なんですね。

ハヤカワ文庫版は作者ポーストの生前に出たものの翻訳で18編が入っています。、
創元版は、作者死後に発見された4編を入れて、先の18編から10編をセレクトしてまとめられています。
つまり、どちらかだけでは不完全だったわけです。知らなかったなあ。

死後に発見された4編は、先の18編より長く、重い話です。
ポーストがミステリとして書いていたかどうかは分かりませんが、
よりプロテスタント、アメリカン・マッチョ臭い。
長くなると、どうしてもそういう部分が前に出てきしまいます。
ハヤカワ版の短い作品ばかりのほうが、捕物帳的なミステリを楽しめますね。

創元版の解説には、ポースト存命時の合州国大統領ルーズヴェルトからのファンレターが載っています。
吉田茂が「銭形平次」のファンだったりするので、為政者とミステリという関係はさほど珍しいことではないでしょうが、
いま放送大学で宮本陽一郎先生が講義している「モダニズムの文学と文化」とシンクロしているような気がします。
たしか帝国主義と肉体改造、ギャッツビーとフィッツジェラルド、キングコングとアメリカ自然史博物館という関係が
ずっとつながっているというお話だったと記憶しています。うーん、よく理解していない証拠ですね。

アブナー伯父のプロテスタントでマッチョなヒーロー像は、アメリカ帝国主義の表徴ともとれます。
そうすると「ナボテの葡萄園」のラスト近くの場面も、また別の意味を持ってくる。
女性も有色人種もそこにはいない、白人男性しかいないわけです。
今の視点からの批判は無用だとは思うのですが、創元版の4編が重く暗いので、つい文句を言いたくなってしまいました。

アブナー伯父ものは事件発生順に並べた完全版とか、どこかで出ませんかね。
どういう容姿なのか、いまひとつ想像できないので挿絵込みで。
ハヤカワ版の表紙は、なんだかランドルフ判事に見えるんですよね。
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