外国の砥石事情
中国をはじめ,アジア諸国では、それぞれ天然砥石が使用されているが
中砥中目級が主であって荒砥・中砥・仕上砥の三種が狭い地域で
発見された形跡がない現状から考えると日本のような最上の
刃物研ぎの砥石は異例だと思われる。
ヨーロッパにおける砥石の産出はベルギー1ケ所であり中砥中目級の品質である。
研ぎに対し砥石の不足を補う形で目のこまかいヤスリの使用も行われて来た。
また、刃物の憂さを極く低く抑え、金床や硬い石の上で刃を槌ち打ちし
薄くすることで刃をつくる方法も採られていた。
北アフリカ、トリポリ地方で産出した砂が研磨材として使用もされた。
これは固い脂・ロウ・ピッチ等でそれぞれの粒度別に練り固められ
木片にぬりつけたり、回転バフに塗って刃研ぎや研磨に用いられた。
その他サンドペーパー等の開発も行われていた。
良い刃を研ぐため、仕上げ研ぎの段階では硬く焼げた良質の赤煉瓦も利用された。
赤煉瓦の発色の基となるベンガラ(酸化鉄)の琢磨する力に気付いたのでしょう。
刃の琢磨には馬のなめし革も威力を示し、西洋かみそりを馬の革で
ラッピングしているのはその一例ですね・・・
(最近のレザーは替え刃になりラッピングなどしない)
アメリカ大陸が発見され開拓が進んでから、アーカソソー州で
天然の砥石が見つかった。 これは中砥、中目級であり非常に硬い砥石で力を
加えた研ぎにも耐える性格をもっている。
油を用いると砥粒の作用が減じ、仕上砥に近い作用をする。
手研ぎのための砥石よりも、むしろ工作機械用切削工具の研ぎに賞用された。
しかしアメリカで良質の砥石が発見されても、永いヨーロッパの刃研ぎの習慣に
馴染んだアメリカ人は、機械技術の改良には目を向けても
手でつかう刃物に対する研ぎ方の改善は現実として殆んど行ってはいない。
総じて諸外国では良質の天然砥石に恵まれなかったせいで、刃物の性能を
高める技の流れは途中で停滞したと云えそうです。
人造研磨材と人造砥石
近代工業技術は砥粒による研削(グラインディング)や
琢磨(バフィングやポリッシング、或いはミラーポリッシング)の必要につれ
焼き入れした鋼よりも硬い素材を人工的に創り出し、それを細かく砕き
ふるい分けして利用する技術を開発した。
これにより研磨砥粒を粘結剤と練り合せ、焼くことで様々の砥石をつくり出した。
一部は手で使う砥石として、刃物の研ぎのために。
ひとつは機械とセットにする工業用砥石である。
円形で高速回転をする人造砥石は次第に品質を高め天然砥石にとって替る
物になった。 人造砥粒の成分は珪酸系・炭化珪素系~アルミナ系
ジルコニア系・ダイヤモンド系等である。
これらは研削用に効果があり酸化クローム・酸化鉄・酸化セリウム等の
金属酸化物や、1ミクロン以下に厳選された各研削砥粒の徴粒子も
琢磨用として刃物の研ぎ以外にも広く使われている。
こうした事情は刃物の研ぎから考えると良い環境が整ったと言える。
人造砥石は天然産の研磨材や砥石とは一味違った性質を持ち、利用方法によっては
天然材をしのぐ成果が挙がるが、天然品のもつ徴妙な良さ、一味違う性能も
安易に捨てがたく、二つの素材の艮さをそれぞれに活かすことが大切である。
砥石も道具の一つなら、使い手の知識と技術で結果はまるで違う。
活かすも殺すも本人次第。
道具の状態は常に気にしてるわけですが、
本当に今、面が出ているのか不安になることも
ありますね。もっともっと道具への理解を深めねば、
と思います。