NHKの番組が紹介した「水よりもお湯の方が早く氷になる」実験を巡り、ネット上の議論が盛り上がっている。早大の大槻義彦名誉教授はブログで、水の方が早く凍る実験結果を示し、NHKを再び批判。物理学者らの間でも関心が高まり、日本雪氷学会で研究者らが本格的に議論することになった。
■実験した大槻名誉教授が再びNHK批判
J-CASTニュースが2008年7月26日付記事で取り上げたNHK「ためしてガッテン」の実験は、その後も真偽を巡ってネット上の議論が沸騰。記事も、同ニュースサイトのアクセス・コメント両ランキングで、現在もベスト10の上位に入る人気になっている。
コメントを読むと、自ら実験したとの報告がいくつかある。いずれもNHKの実験結果とは異なるものだ。例えば、
「僕は試してみました。ポットの湯と水をそれぞれ50ccずつ、計4個の同じコップに入れて30分。先に凍り始めたのは水が入った2個のコップでした」(高草山さん)
「盛り上がっているので実際に自分ちでやってみた!容器を一緒に並べて置いたらやっぱり水のほうが早く凍ったよ!! 2回やったけど同じ」(ぱくさん)
ちなみに、J-CASTニュース編集部が社内の冷蔵庫で一度試してみたところ、同様な結果だった。
NHKを批判した早大の大槻名誉教授は、ブログの7月31日付日記で、「実験やったか?」と多くの批判を受けたと告白。お湯の方が早く凍るムペンバ効果について、「熱力学の基本法則からありえません」としながらも、重い腰を上げて実験に取り組んだことを明らかにした。
大槻名誉教授は、6区画の製氷皿、ペットボトル、プラスチック製まな板で実験した。冷蔵庫の冷凍室に入れた結果、1区画を除く製氷皿とペットボトルで、お湯より水が先に氷になった。これはコメントと同じ結果だ。お湯と同時だった1区画については、蒸発熱、過冷却など「偶然上の要因」と論じている。
一方、まな板では、お湯の方が早く氷になったという。しかし、「板の上に広く広がり、極端に蒸発熱が奪われ、また薄いお湯の層は、すぐ下地の板の温度になるため」としている。
結論として、大槻名誉教授は、「NHKの主張は正しくありませんでした」と断言している。
■複数の条件下ではありうると北大名誉教授
では、10回以上も予備実験に成功したとするNHKの論拠は何なのか。
NHK広報部では、「複数の条件で実験を繰り返した上で、高温水の方が早く氷ができ上がることを確認し、番組を制作しました」とだけ説明する。とすると、「複数の条件」以外では、ムペンバ効果が現れないということなのか。
「ためしてガッテン」の実験を監修した北大低温科学研究所の前野紀一名誉教授は、こう解説する。
「普通は、お湯が先に凍るということはありません。番組では、そういうことがあると言っているのです。それは、お湯と水などの温度の組み合わせ、容器の形や大きさ、冷凍室の温度、空気の対流といった条件によってです」
前野名誉教授はそのうえで、まな板ではお湯が早く凍ったとする大槻名誉教授の報告について、それはムペンバ効果が起こることを証明したと指摘した。
「効果的になるような条件を作って実験をやれば、ムペンバ効果が起こるということです。まな板と同じメカニズムが働くような工夫をすれば、ほかの容器でも起こりえます」
製氷皿の1区画でお湯と水が同時に凍ったことについても、同様だとする。「冷凍室の真ん中と左右では、空気の温度が違うはずです。また、食品があるかでも条件が違い、空気の動きを調べないと効果を否定できません」。ペットボトルについては、蒸発熱が発生しないので効果はありえないという。
一方で、前野名誉教授は、家庭で手軽に実験できるのがいい点としながらも、ムペンバ効果そのものの解明はできないという。「コンピューターシミュレーションでも解明できないような難しい現象が、単純な形で現れているからです。物理の専門家はいかに難しい問題であるかをよく知っていて、プロジェクトを組まないと分からないものなのです」。
そして、東大で9月24~27日に開かれる日本雪氷学会の研究大会で、関心ある研究者を集めて科学的に議論したい考えを明らかにした。
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