東京新聞 6月17日
TOKYOWebから社説とコラム完全転載
社説】
大飯原発が再稼働へ 私たちの望む未来は
2012年6月17日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2012061702000124.html
政府は、大飯原発3、4号機の再稼働を決めた。
だが、私たちは日本の未来をあきらめない。
原発に頼らない社会を目指そう。節電の夏にも挑もう。
「福井県の決断に感謝したい」と、野田佳彦首相は言った。
まさか、危険を背負い続けてくれることへの感謝ではあるまい。
東日本大震災のあと、私たちはこの国を変えようとしてきたはずである。
何よりも命を貴び、災害に強い地域をつくる。
そのために私たち一人一人も変わろうとしてきたはずだ。
◆安全の根拠はどこに
原発の再稼働を、このような形で今許すのは、間違いだ。
新しい日本が遠ざかってしまう。
第一に、福島の事故原因がわかっていない。
まだ誰も責任を取っていない。誰もきちんと謝ってはいない。
そういうあいまいさの中での再稼働なのだ。
政府はまるでピンポンのように、「責任」というボールを地元に投げ付けて、
最終的には、野田首相、枝野幸男経済産業相ら関係閣僚の協議で決めた。
最後が政治判断というのは、間違いではない。
だが、それには大方の国民が納得できる科学的根拠が欠かせない。
政治判断のそもそもの根拠にされた安全基準は、
経産省の原子力安全・保安院がたった二日で作った即席だ。
福島第一原発事故の張本人で、間もなく解体される予定の保安院が作った安全基準を、
国民として信じられるはずもない。
新たな原子力規制機関の設置法は、まだ成立していない。
原発の安全をはかる物差しが、今この国には存在しないのだ。
ところが、関西電力が一方的に主張する「この夏14・9%の電力不足」
という予測だけを前提に、
流れ作業のように再稼働へと判断が進んでいった。
非常時の指揮所になる免震棟と放射性物質のフィルターがついたベント(排気)設備は、
それぞれ二〇一五年度、防潮堤のかさ上げは来年度にしか完成しない。
地表がずれて原子炉を損傷させる恐れがあると専門家が指摘する、
原発直下の断層に至っては、再調査の予定もないという。
後ずさりする政治をよそに、私たちは、今も変わろうと願っている。
政府がなすべきことは、綿密な節電計画を立てて、国民によく説明し、
協力を求めることだったのではないだろうか。
私たちは喜んで受け入れた。
◆世界はグリーン経済へ
太陽光パネルや家庭用燃料電池を取り付ける家が増えている。
装いは涼しく、エアコンは、ほどほどに。打ち水をし、風鈴を軒に下げてみるのもいい。
際限なき電力依存から抜け出そう。
モニターの数字を見ながら、ゲーム感覚で節電を楽しむ家庭も増えた。
多くの企業は、直接の経費節減につながり、ビジネスチャンスの宝庫でもある
省エネへの取り組みをやめるはずがない。
二十日からブラジル・リオデジャネイロで始まる
「国連持続可能な開発会議」もテーマに掲げたように、
世界の潮流は、省エネ、省資源のグリーン経済だ。
経済の繁栄は、原発ではなく持続可能性の上に立つ。
技術立国日本こそ、グリーン経済移行の先頭に躍り出るべきなのだ。
そのためには、原発の寿命を最大でも四十年と厳しく定め、
この間に風力や太陽光、太陽熱の効率利用に磨きをかける。
移行期間は水力や火力でつなぐ。クリーン・コール(有害排出物の少ない石炭燃焼)
技術などを駆使した小規模な発電所を、可能な限り地域に分散配置して、
高度な通信技術で需給の管理を図るエネルギーの地産地消が望ましい。
廃熱を利用し、蓄電技術に磨きをかけ、国内に豊富な地熱や
森林(バイオマス)などの資源も、もっと活用すべきである。
日本経済の未来をひらいてくれるのは、原発ではなく、積み上げてきた省エネ技術なのである。
国民は原発の立地地域にも、深い理解を寄せている。
原発の危険と隣り合わせに生きてきた地元の痛みを感じている。
原発マネーが支える暮らしは永続しない。
電力への依存をお互いに改めて、この国全体の体質改善を目指したい。
◆なし崩しは許さない
大飯原発3、4号機は、動きだす。
しかし、例えば四国の伊方原発、北海道の泊原発と、再稼働がなし崩しに進むのを、
私たちは恐れる。
安全と安心は立地自治体はもちろん、日本全体が求めてやまないものだから。
福島の教訓を教訓以上の成果にするため、私たちは立ち止まらない。
福島に報いることでもある。
原発推進、反対の立場を超えて、持続可能な新しい日本を築く。
【コラム】
筆洗
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2012061702000121.html
全国の原発がすべて止まったのは五月五日の「こどもの日」だった。
きょうの「父の日」を前にして、関西電力大飯原発再稼働が正式に決まったのはどこか示唆的である
▼福島第一原発の事故では、何万人もの人が故郷を失う代償を払った。
子どもの未来のために、原発に依存しない社会の実現を願う気持ちを、
強圧的な父権が経済原理で蹴散らす。
そんな構図が見えてくるからだ
▼大飯原発を皮切りに、野田政権は停止中の原発を順次、再稼働させたいようだ。
その理由も電力の不足というより、燃料費の高騰で電気料金が上がると、
国民生活に影響が出るという理由に変わってきている
▼消費税増税関連法案の修正協議は民主、自民、公明三党の
「密室の談合」で合意したが、増税の生活への影響は電気代の値上げの比ではない。
増税の大義名分が「子孫につけを残さない」というなら、
原発ほど膨大なつけを残す存在もないだろう
▼首相官邸の前などには連日、多くの人が集まり、再稼働に反対する声を上げた。
震災後に亡くなった岸田衿子さんの詩を引く。
<一生おなじ歌を 歌い続けるのは/だいじなことです むずかしいことです
/あの季節がやってくるたびに/おなじ歌しかうたわない 鳥のように>
▼震災の前に、時計の針を戻そうという流れが急速になっている。
それにあらがうには、歌い続けるしかない。
------ここまで転載文
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社説】
大飯原発が再稼働へ 私たちの望む未来は
2012年6月17日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2012061702000124.html
政府は、大飯原発3、4号機の再稼働を決めた。
だが、私たちは日本の未来をあきらめない。
原発に頼らない社会を目指そう。節電の夏にも挑もう。
「福井県の決断に感謝したい」と、野田佳彦首相は言った。
まさか、危険を背負い続けてくれることへの感謝ではあるまい。
東日本大震災のあと、私たちはこの国を変えようとしてきたはずである。
何よりも命を貴び、災害に強い地域をつくる。
そのために私たち一人一人も変わろうとしてきたはずだ。
◆安全の根拠はどこに
原発の再稼働を、このような形で今許すのは、間違いだ。
新しい日本が遠ざかってしまう。
第一に、福島の事故原因がわかっていない。
まだ誰も責任を取っていない。誰もきちんと謝ってはいない。
そういうあいまいさの中での再稼働なのだ。
政府はまるでピンポンのように、「責任」というボールを地元に投げ付けて、
最終的には、野田首相、枝野幸男経済産業相ら関係閣僚の協議で決めた。
最後が政治判断というのは、間違いではない。
だが、それには大方の国民が納得できる科学的根拠が欠かせない。
政治判断のそもそもの根拠にされた安全基準は、
経産省の原子力安全・保安院がたった二日で作った即席だ。
福島第一原発事故の張本人で、間もなく解体される予定の保安院が作った安全基準を、
国民として信じられるはずもない。
新たな原子力規制機関の設置法は、まだ成立していない。
原発の安全をはかる物差しが、今この国には存在しないのだ。
ところが、関西電力が一方的に主張する「この夏14・9%の電力不足」
という予測だけを前提に、
流れ作業のように再稼働へと判断が進んでいった。
非常時の指揮所になる免震棟と放射性物質のフィルターがついたベント(排気)設備は、
それぞれ二〇一五年度、防潮堤のかさ上げは来年度にしか完成しない。
地表がずれて原子炉を損傷させる恐れがあると専門家が指摘する、
原発直下の断層に至っては、再調査の予定もないという。
後ずさりする政治をよそに、私たちは、今も変わろうと願っている。
政府がなすべきことは、綿密な節電計画を立てて、国民によく説明し、
協力を求めることだったのではないだろうか。
私たちは喜んで受け入れた。
◆世界はグリーン経済へ
太陽光パネルや家庭用燃料電池を取り付ける家が増えている。
装いは涼しく、エアコンは、ほどほどに。打ち水をし、風鈴を軒に下げてみるのもいい。
際限なき電力依存から抜け出そう。
モニターの数字を見ながら、ゲーム感覚で節電を楽しむ家庭も増えた。
多くの企業は、直接の経費節減につながり、ビジネスチャンスの宝庫でもある
省エネへの取り組みをやめるはずがない。
二十日からブラジル・リオデジャネイロで始まる
「国連持続可能な開発会議」もテーマに掲げたように、
世界の潮流は、省エネ、省資源のグリーン経済だ。
経済の繁栄は、原発ではなく持続可能性の上に立つ。
技術立国日本こそ、グリーン経済移行の先頭に躍り出るべきなのだ。
そのためには、原発の寿命を最大でも四十年と厳しく定め、
この間に風力や太陽光、太陽熱の効率利用に磨きをかける。
移行期間は水力や火力でつなぐ。クリーン・コール(有害排出物の少ない石炭燃焼)
技術などを駆使した小規模な発電所を、可能な限り地域に分散配置して、
高度な通信技術で需給の管理を図るエネルギーの地産地消が望ましい。
廃熱を利用し、蓄電技術に磨きをかけ、国内に豊富な地熱や
森林(バイオマス)などの資源も、もっと活用すべきである。
日本経済の未来をひらいてくれるのは、原発ではなく、積み上げてきた省エネ技術なのである。
国民は原発の立地地域にも、深い理解を寄せている。
原発の危険と隣り合わせに生きてきた地元の痛みを感じている。
原発マネーが支える暮らしは永続しない。
電力への依存をお互いに改めて、この国全体の体質改善を目指したい。
◆なし崩しは許さない
大飯原発3、4号機は、動きだす。
しかし、例えば四国の伊方原発、北海道の泊原発と、再稼働がなし崩しに進むのを、
私たちは恐れる。
安全と安心は立地自治体はもちろん、日本全体が求めてやまないものだから。
福島の教訓を教訓以上の成果にするため、私たちは立ち止まらない。
福島に報いることでもある。
原発推進、反対の立場を超えて、持続可能な新しい日本を築く。
【コラム】
筆洗
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2012061702000121.html
全国の原発がすべて止まったのは五月五日の「こどもの日」だった。
きょうの「父の日」を前にして、関西電力大飯原発再稼働が正式に決まったのはどこか示唆的である
▼福島第一原発の事故では、何万人もの人が故郷を失う代償を払った。
子どもの未来のために、原発に依存しない社会の実現を願う気持ちを、
強圧的な父権が経済原理で蹴散らす。
そんな構図が見えてくるからだ
▼大飯原発を皮切りに、野田政権は停止中の原発を順次、再稼働させたいようだ。
その理由も電力の不足というより、燃料費の高騰で電気料金が上がると、
国民生活に影響が出るという理由に変わってきている
▼消費税増税関連法案の修正協議は民主、自民、公明三党の
「密室の談合」で合意したが、増税の生活への影響は電気代の値上げの比ではない。
増税の大義名分が「子孫につけを残さない」というなら、
原発ほど膨大なつけを残す存在もないだろう
▼首相官邸の前などには連日、多くの人が集まり、再稼働に反対する声を上げた。
震災後に亡くなった岸田衿子さんの詩を引く。
<一生おなじ歌を 歌い続けるのは/だいじなことです むずかしいことです
/あの季節がやってくるたびに/おなじ歌しかうたわない 鳥のように>
▼震災の前に、時計の針を戻そうという流れが急速になっている。
それにあらがうには、歌い続けるしかない。
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