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バカすぎて 清明の夜

2020-04-12 23:53:05 | ひとりごと
ついにやってしまった。
 
緊急事態宣言を受け、一層リモート勤務が進むことが分かっていたので、とりあえず我慢してやり過ごそうと思っていたが、金曜夜のミーティングでブチ切れてしまった。
 
「バカすぎてpart2」で、自戒を込め「判断力」の重要性を書いていたが、ブチ切れてしまった時の自分に、冷静な判断力があったかどうかは、正確なところ分からない。だが、「判断力」の必要性を書いていた本は、もう一つなるほどと思うことを書いていた。
 
『大切なことと、目くじらを立てるほどでもないことを区別しているだけだ』
 
「隠密捜査8 清明」(今野敏) (『 』「隠密捜査8 清明」より)
 
神奈川県警刑事部長に着任した異色の警察官僚・竜崎伸也。着任早々、県境で死体遺棄事件が発生、警視庁の面々と再会するが、どこかやりにくさを感じる。さらに被害者は中国人と判明、公安と中国という巨大な壁が立ちはだかる。一方、妻の冴子が交通事故を起こしたという一報が入り……。リスタートで益々スケールアップの第八弾!
 
 
「隠蔽シリーズ」が初めて世に出たのが2005年。
最新刊の「隠蔽捜査8 清明」を含め、15年の間に10冊出版されているので、今更 個々の事件や特徴を記すことは難しいが、本書の見どころは、誰もが大なり小なり身に覚えのある出世欲・俗物感が満載のヒラメ刑事部長と、原理原則に基づいた徹底した合理主義者の主人公・竜崎の掛け合いだ。
 
根っこのところはお人好しでお調子者で憎めないが、とにかく自分の行動が人の目にどう映るのか、自分が出世するにはどう動くのが得なのか、それがヒラメ刑事部長の一番重要な行動指針だ。
そんな伊丹ヒラメ刑事部長は、今回の事件が公安と外務省の管轄に関わると知ると、早速政治力を働かせようとする。
 
「組織があるところには必ず政治があり、それをコントロールするのが官僚の務めだ」という伊丹に、『そうじゃない。そんなものは官僚の務めでも何でもない。官僚の務めは、国家の仕組みをできるだけ合理的に運用することだ』と言い張る原理原則主義者の竜崎。
それに対し、「お前が合理的だと考えることを、そう思わないやつもいる。それを従わせるには、政治が必要だ」という伊丹。
そこで出てくるのが竜崎の『必要なのは政治力ではなく、判断力だ』という言葉だ。
 
・・・私は人からどう思われるかを然程気にしないし、もとより出世欲もないので、何か事をなす時、伊丹ヒラメ刑事部長のように政治力を働かせようとは思わない。
そうかといって、竜崎のような徹底した原理原則に基づいた合理主義にも徹しきれないのは、自分の原理原則や自分が考える合理的が他の人と一致していると思うほどに、自分の「判断力」を信用していないからだ。
 
だから、私から見れば宇宙人の如く理解不能な後任二人の振る舞いも、頭ごなしに拒絶するのではなく、とりあえず保留という対応を長く取り続けてきた。
 
しかし、直接顔を合わせてのミーティングの機会が減るであろうタイミングでの金曜日夜は、我慢ならなくなってしまった。
 
あの私からすれば根拠がないとしかいえない自信は一体全体どこからくるのだろうか。
あの自分の権利を主張するにはよく回る頭をなぜ仕事を効率よく回すことに使えないのだろうか。
 
おそらく私が彼らを受け入れがたいのは、能力の問題ではなく  ばかりではなく、仕事振りから透けて見える価値観や行動原理なのだと思う。
それ故、この拒否感はもうどうしようもないところまで来てしまっているように思える。
 
金曜日夜のそれは、私の、「目くじらを立てるほどでもない」という臨界点を超えてしまった。
後任くんのうちの(能力的には)優秀くんの言動は、職務とその遂行の仕方において私が「大切」と「判断」している最後の一線を越えてしまった。
 
結果ブチ切れてしまった。
私のブチ切れは、静かで冷ややかで、ほぼ修復はない。
 
理解できない幾つかの点を糺し、相変わらず理解不能なことを残念に思い、静かに下を向き、再び上げた顔に笑顔を張り付け、「良い週末を」と言いその場を離れた。
 
これで、終わりだ。
 
本書では、『大切なことと、目くじらを立てるほどでもないことを区別しているだけだ』という竜崎を、「脇が甘い」と妻は心配する。
どこに竜崎の足を引っ張ろうと手ぐすね引いて待っている者がいるか分からないというのだ。
 
ややこしいことになるかもしれない。
 
子供の頃からの記憶をたどれば、幼稚臭い揉め事に巻き込まれることはあったが、自らが渦中に嵌ったことはないし、まして仕事を始めてこれほどまでに理解不能な対応を見せる人間に出会ったこともない。
 
理解不能だけにややこしいことになるかもしれない。
 
週末は、タイトルにもなった漢詩に導かれるかのように、お酒を飲んだ。
 
清明時節雨紛紛
路上行人欲絶魂
借問酒家何處有
牧童遥指杏花村
 
『清明の時節、雨紛紛。路上の行人、魂を絶たんと欲す。借問す、酒家いずれの処にかある。牧童、遥かに指す、杏花の村。清明の時節、つまり春ですね。雨がしとしと降っていて、道行く私はひどく落ち込んでいた・・・・・。牛飼いの牧童にちょっと尋ねる。どこか酒が飲めるところはないだろうか、と。牧童は、はるか向こうの杏の咲く村を指す・・・・・・。』
 
花散らしの冷たい雨が降る、春の夜
頼みもしないのに、御大が夕食のテーブルに置いたのは、日本酒の「酔心」
 
どんなアルコールもあまり美味しいとは思わないくせに、めっぽう強く、いくらでもイケてしまう私は、どんなに飲んでも酔心にはなれない。
 
また夜明け前に目が覚め、本書の言葉が浮かんでくる。
 
『警察官僚は侍だ。
 腹を切る覚悟はできている』

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