何を見ても何かを思い出す

He who laughs last laughs best

神の宿る山、わんこ②

2020-07-20 09:51:25 | 
ワンコが天上界の住犬になって4年と7カ月
恒例のワンコお告げの本も、最近ではその意図をすぐには理解できないことが多くあり、
先月はついに感想文報告書を記録するのを諦めるしかないと思ったのだけど、
そんな私にワンコは、強烈なメッセージでもって「再読せよ」と指令を出してきたね
ワンコが、再読を促すために送り付けてきた本が、直木賞を受賞したよ
 
「少年と犬」(馳星周)
 
本書はね、
いつも誰かを探しているように、ある方向を見つめる迷い犬と、その犬とひと時を共にする人たちとの短編集なんだよ
現時点で、出版から間もないし、直木賞受賞直後ゆえに結末を書くのは控えるので、意味不明な感想となることを許しておくれ ワンコ
 
さて内容だが、
 
東日本大震災後、
年老いた親を抱え、生活費を捻出するために良からぬことに手を出す男と、
その男が偶然であった犬の話「男と犬」から本書は始まる。
男は、偶然出会った犬を、ガーディアン・エンジェル守護天使、守り神といって大切にするのだが、
事情はどうあれ、良からぬことはいつまでも続かず、
分かれの時がくる。
 
一章の男と犬が分かれる原因となった泥棒と、
その泥棒に連れ去られた犬の、その後を描く第二章。
かなりの悪党・泥棒のくせに、というべきか、泥棒にならざるを得なかった境遇から当然というべきか、泥棒は心の底に寂しいものを持っている。
そんな泥棒は、第一章の男から分捕った犬を、自分の守り神と崇めるのだが、
犬が本当の神であれば尚のこと、泥棒の片棒を担ぐような守り神にはなるはずもない。
ただ、その寂しさと人生の結末に寄り添ってやり、次の旅へ出る第二章「泥棒と犬」
 
二章で泥棒の結末を見届けた犬が、探し求める人に向かう旅の途中に出会った夫婦を描いた第三章。
夢を諦めきれない夫と、それを惰性で支える妻。
違う一歩を踏み出さねばならないと分かっているのに、それを話し合うことも実行もできない夫婦の胸の内を聞き、次の旅へと向かう第三章「夫婦と犬」
 
第三章の夫婦と別れた犬が次に出会ったのは、身も心も男に捧げボロボロになってしまった滋賀の女。
岩手から西を目指して旅を続けボロボロになった犬と、ボロボロの心身に秘密を抱える女を描いた第四章「娼婦と犬」
 
ここまで読んでくると、ある種の不安が生じるのだが、それを決定的にするのが、第五章「老人と犬」
娼婦のもとを去り、更に旅を続ける犬が次に出会ったのは、すい臓がん末期の猟師だった。
優秀な猟犬を飼っていた猟師は、その犬が真の家族を探す旅の途中であることに、すぐ気づく。
猟師は、憔悴しながらも家族を探して旅を続ける犬が、なぜ山奥で孤独に暮らす自分の元に身を寄せたのか考えるのだが、
そこで浮かんだ答えが、本の帯や、カバー折り返しに記されている言葉で、
それこそが、ワンコが私に贈ろうとした言葉だと確信している。
 
本の帯より引用
『人という愚かな種のために、神が遣わした贈り物
 傷つき、悩み、惑う人々に寄り添っていたのは、一匹の犬だった』
 
本のカバーの折り返しより引用
『人の心を理解し、人に寄り添ってくれる。
 こんな動物は他にはいない。』(老人と犬より)
 
ねぇワンコ
ワンコ(自分)が私を一番分かってるから、お告げする本を再読せよ考えよ と伝えたんだろう?
 
そういうワンコの意図はよく分かったのだけど、
単純に作品の感想を云えば、
正直なところ、犬と人との関りをこうまでネガティブに書いた作品の読後感は、そう良いものではないよ
 
本書の犬と人は、かならず孤独と死に包まれている。
本書では犬は、孤独や死の匂いを嗅ぎ分け、その孤独や避けられない死を迎える時のために、人に寄り添い続ける。
それは、犬が真の家族と出会えた後ですら、続く。
犬と人との関りが、このように表現されることに、私は釈然としないものがある。
 
氏の作品には、豊かで厳しい大自然のなか犬と人が共存する素敵な作品が幾らでもあるので、
直木賞受賞がよりにもよって本作でなくても良いのではないか、とは思うが、賞にはその年どしの事情があるので仕方がない。
 
だが、本書の『人の心を理解し、人に寄り添ってくれる。こんな動物は他にはいない』『犬はガーディアンエンジェルだ』という、犬とともに暮らしたことがある人なら誰でも知っていることを、本書を通じてワンコが改めて示してくれたおかげで、
ワンコお告げの本を再読し、応援の在り方について真剣に考えることができたのは、本当に有難かったよ
今の私にとって、命令指導と応援の仕方を考えることは、大切なことだからね
 
そう思いながら、本書の犬の名前を注意を向けると、
今の自分にとって大切なことが、もう一つ見えてきたよ
 
本書の犬はね、旅の途中で出会った人によって、色々な名前で呼ばれるのだけれど、
もともとは、多聞という名前なんだよ
そして、この犬は名前のとおりの犬生を送るんだよ
孤独に苛まれる人や、死の淵に立つ人の心の声に耳を傾け続けるんだよ
 
今の時代、人は自分の思いばかり口にし、呟きすら世界を一周するので、
他の言葉に耳を傾けることが極端に少なくなっているかもしれないね
そんな、沈黙や余白の重みや意味に、思いを巡らせることができなくなってしまった現代人にとって、
黙って人の話を聞いてくれる犬は、ありがたい存在なんだね
 
私も随分ワンコに愚痴を聞いてもらい、助けてもらったね
ワンコにだけは素直に、いろんなことを話せたね
時には頬を伝う涙を、ワンコは温かい舌ですくってくれたね
 
だけど、犬に思いや愚痴を聞かせっぱなしでは、いけないんだね
黙って聞いてくれることを切っ掛けにして、自分に向き合うというしんどい作業をしなければならないんだね
でも、未だ成長してないので(そろそろ老成という言葉を使うべきかな?)
これからもワンコに色々相談させてね・・とお願いしていると、
今月の本で答えをくれたね
それについては又つづくと思うよ
 
ところで、最近では信州の山と犬を描くことが多い氏だけど、
本書を読んでいる時に、長年手に入れることができなかった信州のお酒を、入手したよ
      
                
 
御大が学生時代よく訪ねたという諏訪湖のほとりの日本酒で、御大にとって思い入れのあるお酒
それを、本書を読んでいる時に、偶然入手できたのは嬉しいことだったよ
忙しくてなかなか皆で食卓を囲むことができないけれど、
久々に、本の話を肴に美味しいお酒の時間だったよ
そんな時間を贈ってくれたワンコに感謝だよ
 
これからもよろしくね ワンコ穂高

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