中野系

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ジョージ・マイケル -素顔の告白-

2005年12月24日 | 映画
映画でも行こうかと誘った連れから提案されたのがこの作品。クリスマスイブは「特別な日」と浮かれるほどに若くもないとはいえ…

ジョージ・マイケル、といえば元ワムのメンバー。その後もソロとしても成功しているのでご存知の方も多いだろう。あの「濃い」感じの色男。

洋楽に本格的に目覚めたのが高校生の頃。当時は海外ヒットチャートの動きまで追いかけたりしていた訳だが、ワムがチャートを賑わしていたのもちょうどその頃。20年以上経った今もクリスマスに必ず流れる「ラストクリスマス」が流行したのもこの高校時代、冬の話だ。

高校生の頃にはよくある事だけれど、洋楽を聴くと言う行為自体に憧れを持ち、そうすること自体が自尊心を満足させる、と言う部分も少なからずあった。なので多少の無理をしてまで、必ずしも好みでない音楽も積極的に聴いていた。そのような状況でも個人的にこのワムだけは「いけすかない」という思い強く、頑なに無視していたことを今でもはっきりと覚えている。

今になって分析してみれば、こういう姿勢はワムの音楽自体に対する否定ではなくて、その存在自体に対する否定であったのだと思う。ワム、というグループは「絵に描いたような」色男の二人組み、そしてそのターゲットは若い女の娘。中途半端な自我を持った男子高校生にとって、このような存在は「受け入れること叶わぬ存在」でしかないのだ。

実際、洋楽を聴くクラスメートでワムを好きだ、という男子生徒は皆無であったと記憶している。たぶん「少々他と違う性的嗜好」の人でもない限り、ワムは基本的に男性には好かれるグループではなかったのだ。

こういう状況もあって、ジョージ・マイケルのドキュメンタリーについてもさほどの感慨もなく足を運んだことになる。既に彼は「カミングアウト」しているので、その辺だけを興味本位で見に行った、というのが正直なところ。(これは提案してきた連れも同じ)

以上、前置きが長くなったけれど、実際に映画を見ての感想をひとことで表すと「思いのほか面白かった」。90分の上映時間は退屈することもなく、結構楽しめる。

これは誰にでも当てはまる事ではあるけれど、表面から見たものと実際の人生というのは思いのほかに隔たりがある。彼の人生に関わってきた人々の証言を聞きながらその半生を眺めていくと、ジョージ・マイケルについてもこの点に変わりがないことがよく分かる。彼も思いのほかに苦労しているのだ。

ワム時代、意図的に「マヌケな単パンを穿き、耳にリングをつけて」いた、なんて発言を見ると、なんだか20年前の自分が少しはずかしくすら思えてくる。この映画を見進めていくとジョージ・マイケルって結構いい人だな、と思えてくる。彼は基本的に実に素直な人間なのだ。邦題の「素顔の告白」というのもあながち嘘ではない。ま、彼が良く見えるように、と映画を作ったのは充分に承知しているつもりではあるけれど。

ドキュメンタリーの後半は「カミングアウト」にまつわる話が中心となる。当初はこのことばかりを期待していたわけだけれど、ジョージ・マイケルの人生をそこまで一緒に追いかけていくと、あまり茶化す気にもならずむしろ素直に応援したくすらなる。偏見に満ち溢れた自分にとってこれはよい刺激と反省を促してくれる事であったし、この点だけでも映画を見てよかったと思っている。

ワムのファンはもちろん、そうではない人にも楽しめる映画、というのが一応の結論。誰かの人生について丁寧に振り返ってみる作業を眺めること、というのは基本的には楽しいことなのだ。

あと、どうでもよいことだけれどワムの相方であるアンドリューの変貌振りには少々驚き。これもある意味一見の価値あり。彼とジョージが仲良く談笑する姿をみると、なんだか少し心温まるものがある。

★★★