検証・電力システムに関する改革方針

「自然エネルギーですべての電力をまかなう町」の第2部です。

原発再稼動で不透明になる固定価格買取制度 連載小説335

2013年07月19日 | 第2部-小説
 2012年12月の総選挙で自民党政権に交代しました。安倍首相は早々と原子力発電の再稼動に言及し、2013年1月、官房長官は記者会見で「1990年比で25%削減はとてつもない目標であり、実現不可能」だと述べました。温室効果ガス削減目標はゼロベースで検討し、11月にポーランドで開かれるCOP19で、新たな目標を提示すると言っています。

 ここで提示する目標は原発再稼動を前提にしたものになるだろうと思います。もしその通りになると昨年7月に実施された再生可能エネルギーの「固定価格買取制度」(FIT)はどうなるのか、不安が広がっています。
冨田がそう離した時だった。
「不安って」
 声が飛んだ。

「買取期間が終了すると制度もなくなるんじゃないかという不安です」
「私たちが始めた町おこしも影響があるとか・・・・」
「ありますね」
 冨田のパワーポイントによる話は途切れ、対話になった。


原発を増やし、稼働率を上げる計画は破たん 連載小説334

2013年07月18日 | 第2部-小説
「25%削減」の行程は原子力発電の平均稼働率(2008年度60%)を2020年までに80%に引き上げ、原子力発電所を54基からさらに9基増やして、総発電量に占める原子力発電の割合を36%から50%にするというものでした。

 2011年(平成23年)3月11日、東北大震災と福島第一原発の事故が発生しました。この事故で原発が停止し、火力発電の稼動を増やしたことで2011年度(平成23年度)の排出量は基準年比でプラス3.7%、前年度比でプラス4%に悪化しました。原子力発電に依存した民主党政権の「25%削減」目標はこの時点で破たんした。

 民主党はこの時点で「25%削減は無理です。できません。目標は取り消します」と言えば、まだ正直だった。ところが事故を受けて民主党は「原発ゼロ」をかかげた。原発をゼロにして25%削減をどうして実現させるのか。あまりにも支離滅裂。民主党への期待はいっぺんにしぼんでしまった。


GDPと連動している温室効果ガス排出量 連載小説333

2013年07月17日 | 第2部-小説
  冨田はパワーポイントの絵を切り替えた。
 「このグラフの実線は1990年を基準にしたGDPと温室効果ガス排出量の推移です。実線はGDP、破線は温室効果ガスの排出量の推移です。GDPの変動に沿って温室効果ガスの排出量も変化していることがわかります。
 しかし、注意して見ると、1990年から今日まで日本は産業空洞化といわれるほど産業の海外移転が進んでいます。私自身が働いていた会社も6年前、製造部門をベトナムに全面移転しました。多くの製造業が海外に移転している中で温室効果ガスの排出量は1990年より下がらない。日本の温室効果ガス排出量は一貫してプラスです。

 これでは世界に格好がつかない。そこで森林吸収量や京都メカニズムクレジットを加える奥の手を使って、1009年度、2010年度は基準年(1990年)を若干下まわるようにした。
そんな中で、2009年9月、自公政権から民主党政権に代わった鳩山首相は国連総会で温室効果ガス排出量を2020年までに1990年比で25%削減を表明しました。これまで全然減らしていない中でこの高い目標です。実績からすると驚くべき高い削減目標です。どうして達成させるのか。その削減の行程が後で分かりました。とんでもない計画だったのです。

エネルギー効率化の取り組みがない日本 連載小説332

2013年07月16日 | 第2部-小説

「この2008年、2009年を見て」
冨田はグラフの右にレーザポイントを当てると「ここではガクンと下がっているでしょ。1995年には大幅に上がり、2008年から9年は大幅に下がる。この年、なにがあったのかというと、2008年9月にリーマン・ショックが発生した」
「株価が大幅に下がった年だ」

「そうそう、世界的な金融危機が発生して日本の株価は7000円を割った。景気が急激に冷え込み、GDP(国内総生産)がさがった。それにそって温室効果ガスの排出量も下がった。このグラフからいえるのは、GDPが上がると温室効果ガスの排出量は増え、GDPが下がると温室効果ガスの排出量も下がる。これは日本の温室効果ガスの排出量はGDPと連動しているということです」
「それが何か問題なの?」

「今の質問、とてもいい質問です。ほとんどの人はGDPが上がると温室効果ガスも上がり、GDPが下がるとGDPも下がると思っています。だがおかしいでしょ。排出量を削減するためいろいろ取り組んできたわけでしょ。もし本当にそうであればエネルギー消費が増えても温室効果ガスの排出量は減らなければいけない。電力消費が増えても温室効果ガスの排出量は減らなければいけない。ところがこのグラフは、日本のエネルギー効率化は、すすんでいないということを明らかにしている」


日本の温室効果ガス排出は一貫してプラス 連載小説331

2013年07月13日 | 第2部-小説
「それはそうと、日本の温室効果ガスの排出量は減っていると思う」
冨田は占部和紙工房に集まった面々に質問した。
「減っているんじゃないの。マイバックやマイ箸、エコな生活が浸透していると思うから・・・」

 出席者からそんな返事が返ってきた。
「ほとんどの人がいま言われたような感じを持っていると思う。だが減っていない。温室効果ガスの削減を決めた京都議定書が締結されたのは1997年で、削減の基準年は1990年だが、日本は一度も基準年を下回ったことがない。それをグラフにしたのがこれです」
 冨田はパワーポイントの画面を切り替えた。
「温室効果ガス排出量、基準年比推移」とあった。
  グラフは1990年をゼロとした排出量の推移だった。
「1995年、1996年の排出量が急激に増えているのはどうして?」
 参加者の1人が質問した。
「1995年は阪神淡路大震災が発生した年、その前年の1994年は自社さ連立政権である村山内閣が発足した年です」
「世の中、結構、騒然としていた時だ」
「そうです。でもGDPは上向いた年でもある。95年度から10年間で630兆円の公共投資をする約束をアメリカにしたこともあって公共事業が一気に増えた。そして温室効果ガスの排出量も増えたわけです」
「なるほどそういうこと・・・・」
「いやいや、ここで納得されると困る」

猛暑日は増え、冬日は減っている 連載小説330

2013年07月12日 | 第2部-小説
 例えば、マウナロア観測所が400ppmを観測した5月9日、東京都環境科学研究所の屋上計測器は433ppmを観測、24年度の年平均は419ppmでした。

 気温の上昇にともなって、熱帯夜や猛暑日の日数は増え、冬日の日数は減っています。気候変動による影響被害額の試算研究も進んでいます。試算例は日本における平均気温上昇が3. 2℃の場合(21世紀末)、洪水、土砂災害、ブナ林の適域の喪失、砂浜の喪失、西日本の高潮被害、熱ストレスによる死亡リスクなど、被害額は、年あたり約17兆円と予測しています。

 地球温暖化は自然の生態系や人間社会に大きな影響を及ぼし、人類の生存基盤を揺るがす問題となっています。こうした取り組みをしているのが日本も参加している国連のIPCC (気候変動に関する政府間パネル)です。IPCCの人為的な気候変動のリスクに関する最新の科学的・技術的・社会経済的な知見をとりまとめた評価とアドバイスに真摯に耳を傾け、地球温暖化防止、二酸化炭素排出削減に全力をあげて取り組まなければいけません。



(図出典:気象庁HP)

猶予ならない地球温暖化の進行 連載小説329

2013年07月11日 | 第2部-小説
「主要な温室効果ガスである二酸化炭素の大気中濃度が、世界の指標となってきた米ハワイ・マウナロア観測所で今月、400ppmを超えた」(2013/5/22朝日)といいます。20世紀に入ってから二酸化炭素などの温室効果ガスが急速に増加していますが、世界の大気中濃度はついに産業革命(1760年代)以前の約280ppm から400ppm に増加したのです。一方、日本の平均気温は1898年以降100年あたり約1.1℃の割合で上昇しています。世界の平均気温は100年あたり約0. 7℃の割合で上昇しているといいますから世界に比べて日本の方が上回っています。
>(グラフ出典:気象庁Hp)

原発再稼動は自然エネルギーを排除する 連載小説328

2013年07月10日 | 第2部-小説
 ところが国と電力会社は原子力発電を「安全が確認できれば」逐次、再稼動させようとしています。理由として①原子力発電がなければ安定した電力の供給できない、②火力発電の追い焚きが増加して、電力料金が高くなる、③温室効果ガス排出量を減らすために不可欠、④日本の原子力発電技術を守るため――などをあげています。

 「原子力発電がなければ安定した電力の供給できない」の表向き説明は、夏や冬の急な暑さ、寒さのピーク電力需要対策に必要というものです。だがピーク需要問題は、この2年余の取り組みで解決済みの問題です。にもかかわらず電力需給検証小委員会は電力需給の方針を決める中で、「原子力発電が稼動停止する中で、電力需給は未だ予断を許さない状況にあると言える」と、供給不安をことさら強調するのは原子力発電の再稼動は必要だということを国民に印象づけるためです。

 しかし、原子力発電を再稼動すると太陽光発電や風力発電などを送電線に接続しなくても電力は電力会社で発電する電力量で間に合います。太陽光発電や風力発電は天候に左右され、電力会社で供給調整をするのはできない電源です。したがって電力会社は自然エネルギーが送電線に入り込むのを嫌い、排除したい電源です。実際、電力会社は自然エネルギーの接続にこれまで、徹底して抵抗してきました。

 再生可能エネルギー特別措置法(「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」)に基づいて2012年(平成24年)7月、「固定価格買取制度」が発足しました。法の原則は電力会社に「接続をこばんではならない」と明記しています。だが第5条付則で電力事業者に「電気の円滑な供給の確保に支障が生ずるおそれがあるとき」は接続を拒否できるとしました。北海道や東北ではこの付則に基づいて、風力発電の接続制限が起こっています。

 原子力発電の再稼動は、国民に広がっている太陽光発電などの自然エネルギーの普及を抑え、電力会社の地域独占とエネルギーの大量浪費をつづける宣言以外の何ものでもありません。

ピーク需要は多様な施策で克服できる 327

2013年07月09日 | 第2部-小説
 送電網を全国1つにして電力会社同士、融通し合えば電力は十分まかなえることは明確ですが別の方法でも確保できます。

 例えば価格メカニズムを利用したデマンドリスポンスや電気事業法27条にもとづく電力使用制限令で需要を抑制できます。そうした権限発動でなく、ゆるやかな方法としてBEMSアグリゲータ(エネルギー利用情報管理運営事業者)を活用した需要抑制、数値目標付きの節電要請をすることでピーク需要問題は解決できます。


電力はまかなえた 連載小説326

2013年07月08日 | 第2部-小説
 しかし、どの電力会社も供給不足に陥ることはありませんでした。1つは最大(ピーク)需要を過大に見積もっていました。政府・電力需給検証小委員会の需給見通しの数値は各電力会社の供給力と需要想定を合計したものです。だがピーク需要はその地域の温度(気温)の影響を受けますがピーク需要日は電力会社ごとに違います。
  実際、2012年夏季のピーク需要が同じ日に発生したのは2社だけです。仮にこのピーク需要がその電力会社の発電容量を超えたものだとしても他社から融通すればまかなうことができます。報道などを見ているとそうした融通でまかなった日があります。ところが電力需給検証小委員会は各社ごとに7%~8%の予備能力を持つことが必要だといっています。これは電力事業を地域単位の独占事業と肯定的に考えるからそうなるのです。
 ピーク需要は融通し合うことでまかなえることは説明した通りですが総需要も同じです。例えば、電力調査統計は「発電設備利用率(稼働率と同じ)」を毎月公表しています。
 原子力発電が停止している中で、2012年12月の火力発電の稼働率は北海道電力が最高の80.6%、最低は中部電力の56.4%です。多くの電力会社は60%から70%台で対応しています。これは、電力会社同士、電力を融通し合えばピーク需要だけでなく、総需要もまかなえる十分な供給力を持っているということです。

 2013年夏季の電力需給について電力需給検証小委員会は、計画停電や電力使用制限令は発令せず、節電の呼びかけで供給は大丈夫という判断です。ピーク需要を全国の電力会社が融通し合うことなく、「節電」で乗り越えることができるのですから原子力発電を再稼動しなければいけない理由はまったくありません。

(表は電力需給検証小委員会資料を加工)