検証・電力システムに関する改革方針

「自然エネルギーですべての電力をまかなう町」の第2部です。

唐突な出馬要請 連載小説95

2012年09月05日 | 第2部-小説
 将太は松本課長が個人的な思いで行動しているとは思わなかった。松本を差配できる人間、恐らくそれは現町長ではないかと思った。将太も公平も京香もビールを飲むのをやめて松本の説明をまった。庭の虫の音が意外ににぎやかなのに気づいた。扇風機が軽い羽根音を立て、足元に涼風を送ったり、止まったりしていた。ほのかに蚊取り線香の匂いが漂っていた。
「この話しは私の一存ではなく、町長の強い意向です」と松本は口を開いた。
 将太はやはりそうかと思った。それにしてもと思ったとき、公平が口を開いた。
「わたしは町長と面識はないんだよ。会ったこともない、顔も知らないよ。そのわたしにどうして」
「町長の話をきいて、意にかなう人は太平さんしかいないといったのはわたしです」
「意にかなうといったって、わたしは町を出た人間だよ」
 公平の質問はもっともだと将太はききながら思った。京香は黙ってきいている。そして公平は言葉を続けた。

「なぜお前がでないのだ。普通なら後継者は副町長かお前だろう。町長はなぜお前でなくおれなんだ。そこがよく分からん」
 公平は松本に詰問するようにいった。
 それは的を得た疑問だと将太も思った。町長になりたい人間はたくさんいると思う。現に「次期町長はおれ」だと名乗りを上げて事前運動をしている男がいる。しかも占部町の町長はこれまで話し合いで決まっていた。町を出て、町政運営の経験もない人間を擁立して有力者の支持を得ることができるのか。ひと波乱もふた波乱を呼び込むような人選をなぜするのか。少し冷静に事態を見ると、公平に出馬要請は唐突だと将太は思った。
(写真:開花を迎えたトロロアオイ)