羊日記

大石次郎のさすらい雑記 #このブログはコメントできません

うしおととら 1

2015-11-28 20:55:03 | 日記
(俺が、弱かったばっかりに。お役目様は俺を守る為に死んだ)芙玄寺に戻った潮が部屋で茫然としていると「潮っ! そろそろ見切りってやつを着ける時らしい」床を透過してとらが現れた。「今、おめぇはブチ殺しやすそうだ。忘れていたろうが、ワシはおめぇを、喰らうのよッ」とらは歯を剥き出した。襲い掛かってきたとらに2階の窓ガラスを突き破って外へ吹っ飛ばされる潮。「こんな時にまた元の関係かよぉっ!」落下しながら連打され、槍の柄で防ぐ潮。「やられっぱなしかよッ?!」肩口に一撃入れられ寺の敷地に倒れ込む潮。とらは抉り取った潮の血を舐めた。「おうおう旨ぇなぁ、おめぇの血はよぉっ!」笑うとら。
「さっき、『こんな時にぃ』とかぬかしたな! 化け物が時と場所を選んで人を襲うかよ? それとも何か? 婆ぁ一人見殺しにした弱っちい僕を甘えさせてってかぁッ?!」煽るとらに潮は変化して突進した。「でぇえあぁっ!!」「そうだぁ、本気を出してみろぉッ!!」とらは大きく息を吸い込み、炎を吐き出した。槍を構えたまま焼かれる潮。「どうした? おめぇはこんなに弱ぇのかよっ?!」「そうさ、だから負けたんだ。強く、なりてぇよっ。俺は強くなりてぇよッ!!」焼かれながら、歯をくいしばって炎に焼かれる潮はとらに突き掛かった。
片手で受けるとら。刃先は手の甲を突き抜けたが歯で加えて止めた。「これで獣の槍は使えねぇよっ。やっぱりおめぇは槍がなきゃダメなんだなぁ!!」「でぇおおおうぅッ!!」槍を手離し、変化が解けながらとらの頬を殴り付ける潮。槍は地に落ち、潮は肩の傷の痛みに動きを止めた。「歯応え無ぇなぁっ」唾を吐き捨てるとら。「やめだやめだ! 今の弱っちいおめぇが旨いはずがねぇっ! 強くなったら来てやらぁっ!!」「とら」傷口を押さえながら、潮は飛び去ってゆくとらを見上げていた。
     2に続く

うしおととら 2

2015-11-28 20:54:53 | 日記
光覇明宗本山では若い僧を中心に、霧雄が主張する獣の槍不要論が広まり始め、懸念を示す和羅に「この件、私にお任せ下さい」紫暮が対応に名乗り出ていた。一方、芙玄寺の潮は突然金縛りの結界に捕らわれた!「うわっ?!」「お兄さん、獣の槍をもらいに来たよ」鎌を持った霧雄が現れた。若い僧達が潮を囲み、結界を張っている。「どういうことだよ?!」「このエレザールの鎌ならいっぱい造れて、皆で持てるんだよ? だけど、和羅さん達は僕らの言うことを聞かないんだ。だから目を覚まさせる為にも、槍を壊しちゃうことにしたんだよ」槍に触れようとする霧雄。
「やめろぉッ!!」金縛りの結界を槍で斬り裂く潮。霧雄は跳び退いた。これに若い僧達は錫杖で襲い掛かってきたが、潮は簡単に蹴散らした。見ていた霧雄は懐から『赤い布』を取り出し、槍に放った。『赤い布』は吸い寄せられるように槍に絡み、力を奪った。「んんっ!」霧雄に槍を引っ張られるが上手く対抗できない潮。「この布は、獣の槍を封じちゃうんだってさっ!」槍を奪い取る霧雄。「僕の勝ちだね? 槍はもらったよ。ふふふっ、後は僕らが壊してあげるから」「ちくしょうっ!」霧雄に飛び掛かった潮は僧達の放った三日月の陣に捕らえられ、吹っ飛ばされていった。
不満顔で川の上を適当に飛んでいたとら。「あーあっ、面白くねぇ」川沿いの道の上まで滑る用に出るとバイクが走り込んできた為跳び退くとら。乗り手は流だった。「よぉ、今日は一人かよ」流にメソメソする潮を見限ったと悪態をつくとら。「ワシはおめぇに取り憑いてやろうかとみてんだよっ」「俺に? フフッ、おめぇはやっぱり潮が気になるんだ」「バカ野郎っ!」「でも退屈しなかったんだろう?」「ぐっ」言葉に詰まるとら。当の潮がまだ三日月の陣に捕らえられていると「情けない! 一人で結界も外せないのか?」
     3に続く

うしおととら 3

2015-11-28 20:54:44 | 日記
現れた日輪が金克木の術で三日月を解除した。「やっぱり獣の槍が無いと全然ダメね」例によって挑戦的な物言いの日輪だった。やや遅れて流ととらも芙玄寺に着き、砕かれた法具と霧雄の匂いから事態を察していた。
本山では和羅達が改めて若い僧達を諌めたが、僧達は不満顔だった。そこへ、獣の槍が奪われた知らせが入ると座は騒然とした。「おじさん! 獣の槍を取り返したいんだ。どこにあるか、心当たりない?!」潮が駆け込んできた。即、日輪に殴られ、頭を押さえ付けられる日輪。「僧正様になんて口利くのよっ!」「あの槍は、何度も俺や人の命を救ってきた。ギリョウさんや、ジエメイさんが変化した槍なんだ!」「槍を助けてやりたいっ!」押さえ付けられたまま強引に顔を上げる潮。それを見ている和羅。
和羅は別室で潮と日輪に『引狭』という武法具の開発に長けた僧の話を聞かせた。「彼は次第に、道を誤り始めたのだ」引狭は「強ければ強い程いいじゃないか? そう、獣の槍より強くったってなぁっ!」と言い出し、西洋の魔導の術にのめり込み、破門されていた。そして山に籠った引狭は2年前、鎌を持った子供を連れて再び本山に現れた。「潮よ、全ての責任は我らにある」「引狭が籠った所ってどこだよ?! 霧雄がいるかもしれない!」潮は勢い込んだ。
「『囁く者達の家』、霧雄の産まれ育った所だ」流は引狭の山深い隠れ家にとらを連れて来ていた。巨大な洋館。「おそらく槍はここにある」「九印とかいうヤツもここにいるんだな?」荒れ果てた館に立ち入る二人。「早速おでましか」醜い姿の者達が階段を降りてきた。「へっ、めんどくせぇなっ!」「何でここが囁く者達の家って言われているか知ってるか? アイツらは親も生命も存在理由も無ぇ。囁くのよ、『人間めぇ、羨ましい、妬ましい』ってなぁ」「人間がそんなにいいもんかよぉおッ!!」飛び掛かるとら。
     4に続く

うしおととら 4

2015-11-28 20:54:33 | 日記
多くは姿も定まらない様な者達を力任せに八つ裂きにしてゆくとら。「おーほほっ、すげぇすげぇ!」面白がる流。「人間なんて化け物の喰い物じゃねぇかっ!」手近な『囁く者達』を殺し尽くしたとら。「小突いただけでくたばる人間が羨ましいかよっ? そんなのにワシゃなりたかねぇなぁっ!」「そういうおめぇこそ人間っぽいぜ?」「何をぅ?!」「そうやってムキになるとことかよぉ。ホントにおめぇは面白ぇなぁ」新手の『囁く者達』が襲ってきた。
「やかましいぜっ!」切り裂くとら。「俺は面白ぇもんが大好きでよぉ」錫杖で倒す流。「あ?」「俺は大抵のことはそこそこできるヤツでよぉ、気が付いたら周りに面白ぇと思うことが無くなってた。だから法力僧になったのよっ! 化け物とでも戦ってなきゃあ、退屈で死んじまうぜ?」戦いながら館を進み、語る流。「だから獣の槍持って、白面とでも戦えれば、面白ぇかと思ったが、もっと面白ぇもんがあった。それがおめぇと潮よ」「変なヤツだ」軽く『囁く者達』を焼き払ったとら。「でもマジにてめぇが危険になったら、俺はすぐに逃げるぜ? 土克水ッ!!」大型の『囁く者』をとらの雷と合わせ術で滅ぼす流。と、流ととらは崩れた壁の向こうに量産されたエレザールの鎌らしい物を見付けた。
ここで『囁く者達の家』の上空にヘリで来た潮と日輪が飛び降りていた。流と鎌の並んだ部屋に入り「こんなもんゴミ屑さっ!」とらは量産鎌を砕いた。「霧雄の持ってた鎌はスゲェ力なんだぜ?」(そうだ、なぜ霧雄の鎌だけ特別なんだ?)自問する流は、剥がれた壁紙の向こうに閉ざされた隠し部屋の入り口を見付けた。「ほらよぉ」「ああ?」振り向いたとらの鼻先に「んん~っ!」流は『ちむ』っとふざけてキッスをした。震え上がるとら。「何しやがんでぇッ!!!」とらは激怒し、避けられた攻撃で閉ざされた隠し部屋の入り口はブチ抜かれた。
     5に続く

うしおととら 5

2015-11-28 20:54:25 | 日記
「あー、穴開いた。サンキュー」「おめぇはなぁっ!」怒るとらだったが、隠し部屋にいた者にすぐに気付いた。椅子に座り、動かない。「見覚えがある。コイツは、引狭だ」引狭のミイラだった。近くの机にはノートの切れ端が数枚あり、その1枚に『あの女』とだけ書かれていた。引狭に気を取られていると部屋の奥から機械の作動音が響き、振り向くと巨大な人型の機械の様な者が動き始めていた。別ルートで館を進む日輪と潮。槍を持たない潮は戦力にならない為、日輪が櫛の技で『囁く者達』を打ち倒していた。
廃院した小児科の様な部屋に通り掛かると「こんなとこで霧雄は父ちゃんと暮らしてたんか?」「すぐ感情を表に出し、それに流される。君の悪いところね!」平常運転で手厳しく潮に言っていると、床に落ちていた日記帳を見付ける日輪。「引狭の日記だ!」日記の開かれた項には鎌の作成に失敗しつつもホムンクルス『九印』を完成させたことが綴られていた。(しかし、肝心なモノができない。私の本当に作りたいモノ、マテリア)とも綴られていた。(10月10日、女が来訪。名は斗和子)魔導に精通していた斗和子が来たことで研究は進んだ。
「凄い! 凄いぞッ! ありがとう斗和子殿っ!」鎌も完成した。『囁く者達』簡単に斬り裂く。「12世紀の学者、ホルムス・エレザールが考案した方法です」斗和子は引狭にしなだれ掛かった。「ですが、皆、引狭様の研究あってこそ。ですわ」「そうか? はっはっはっ、ではこの鎌をエレザールの鎌と呼ぼう!!」引狭は浮かれていた。すぐに鎌の量産に入った斗和子。なぜ力を貸すか尋ねると「白面の者が恐ろしいのです。獣の槍1本では心許ない。たくさんの強い武器があればいいではありませんか? それを光覇明宗の方が理解しない時は、目を覚まさせておやりなさい。獣の槍を、破壊してあげるのです」答える斗和子。
     6に続く