「世界一危険な飛行場」と言われる沖縄米海兵隊普天間飛行場の返還合意から24年、辺野古新基地建設問題もあって今も返還が実現できていません。
普天間基地の閉鎖・撤去、辺野古新基地建設ストップは、5月29日告示、6月7日投票でたたかわれる沖縄県議会議員選挙でも大きな争点です。
「普天間は政権次第で突破できる」と語る軍事アナリストの小川和久氏がこのほど「日刊ゲンダイ」のインタビューに応えた記事が2020年4月13日配信「日刊ゲンダイDIGITAL」に掲載されました。その記事を転載させていただき、紹介することにします。(サイト管理者)
以下、転載はじめ↓
注目の人 直撃インタビュー
<普天間は政権次第で突破できる>
小川和久氏(軍事アナリスト)
1996年の米海兵隊普天間飛行場の返還合意からもう24年になる。辺野古沿岸部への移設が決まってはいるものの、沖縄県民の反対と訴訟合戦、軟弱地盤の発覚と建設費の膨張など、解決のめどは全く立っていない。少女暴行事件に端を発した「普天間の危険除去」は、なぜここまでこじれてしまったのか。小泉、鳩山政権で首相補佐官就任の打診を受けるなど返還合意前からこの問題に関わり、新著「フテンマ戦記」(文藝春秋)で迷走の舞台裏と原因を明らかにした軍事アナリストの小川和久氏に話を聞いた(本文中の肩書は当時)。
◇ ◇ ◇
――24年間にわたって民間人として政府の普天間返還問題に関わってきました。どんなきっかけだったのでしょうか。
自民党総合政策研究所というシンクタンクの委員をしていて、政務調査会に助言する立場だったんです。96年4月2日に、2週間後に迫った日米首脳会談でどういう話を総理にしてもらうかを話し合う会合がありました。そこでテーマになったのが沖縄の米軍基地の負担軽減の問題。前年に少女暴行事件があったばかりで、「普天間を返してもらいたい」と日本側が96年2月に提案したのですが、その段階では米側に拒否されていた。しかし私は「取り返せるものを取り返せないようでは、独立国家の外交と言えません」と、山崎拓政調会長に迫ったのです。
■キャンプ・ハンセン陸上案に軍事的合理性
――実際、4月の首脳会談で返還が決まりました。
会合で、大蔵官僚出身の内海孚慶大教授が「政治が決断する時は、なるべく官僚の数は少ない方がいい」と助言しました。その先はどこでどうなったのか知りませんが、山崎さんが橋本龍太郎総理と話し合い、外務省北米局の田中均審議官だけが加わり、橋本総理がモンデール駐日米大使と会談して、全面返還となった。もともと私は、沖縄の米軍基地問題についてリサーチしていたので、普天間のことはある程度分かる。それで、キャンプ・ハンセンに移設するという構想を提案しました。
――それはどんな案なのですか。
キャンプ・ハンセンと隣接するキャンプ・シュワブを合わせると普天間が15個入る面積がある。そこの最適な位置に滑走路を移し、兵舎などは訓練の妨げにならないところに建て直せばいい、というものでした。これなら米軍基地内に普天間飛行場を埋め込む考え方ですから、新たな基地が出現するわけでもなく、沖縄県民の理解も得られるだろうと思いました。
――日米首脳会談後、96年8月には、本格的なハンセン移設案をまとめたんですよね。
まずは短期間でシュワブのほうに50機ほどのヘリが入る仮のヘリベースを造り、ただちに普天間を閉鎖し、危険性を除去する。本格的な移設先は、やはりハンセンの陸上部、一番南の海兵隊隊舎地区が最適だとなりました。恩納岳にぶつかることもなく、滑走路の長さも取れるし、民家の上もほとんど飛ばない。実は2009年ごろですが、海兵隊隊舎の地下に沖縄戦終盤に米海軍が造ったチム飛行場跡があることが分かったのです。戦時中の米軍も私と同じ考え方で最適な場所に飛行場を建設していた。軍事的合理性があるということです。ところが、当時の防衛庁の官僚はハンセンの「空き地」に飛行場をはめ込む発想しかなく、演習場の真ん中に滑走路を描き、「それでは訓練ができない」と米国側から一蹴されていたことが、後になって分かりました。
――結局、小川さんの案は採用されなかった。
構想を塩川正十郎総務会長に話すと「これで解決できるなあ」とうなずいていました。そして一緒に梶山静六官房長官に話しに行ったのですが、「普天間の問題は岡本(元外務官僚の岡本行夫氏)に泥をかぶれと言っているんだ」と言い、取り付く島もなかった。最も優秀な防衛官僚だと米国で評価の高かった高見沢将林氏は「これでいけると思います。ただ、官僚ではできません。政治がやらないと」と評価してくれたのですが。その後、橋本政権は岡本氏を首相補佐官にした。これが致命的なボタンの掛け違いとなりました。
■鳩山総理は判断力が致命的に欠けていた
――どうして辺野古になったのでしょう。
ひとつは防衛庁も外務省も岡本氏も、軍事的な基礎知識がゼロだったということです。ヘリが50機ぐらい入ればいいだろうぐらいにしか考えていなかった。有事にはその6倍ほどの規模になり、数万人の地上部隊を受け入れる必要があるのにです。もうひとつは政治的にだけでなくビジネスとして利害得失を考えなきゃいけない人たちが絡んでおかしくなった。岡本補佐官の時代に橋本総理が急に「海上ヘリポート案」を言い出した。その途端、いろいろな業者が来るようになったと、防衛庁防衛局長だった秋山昌広氏が後に語っています。メガフロート案とか、どれも軍事的には使い物にならない案なのに、それが独り歩きした。そういったものを造るには、辺野古も含まれる東海岸がいいだろうと、落ち着いた印象があります。
――解決のチャンスは、橋本政権、小渕政権、小泉政権、鳩山政権の4度あったと書かれています。特に鳩山政権の時は世論の大きな期待があっただけに残念でした。
前から鳩山さんを知っていたこともあり、09年の政権交代後、「県外なんて無理ですよ」と言いに行った。キャンプ・ハンセン陸上案も提案しました。その後、鳩山さんはいろんな人に相談していましたが、翌10年3月になって、小川にやらせてみよう、となり首相補佐官の就任を要請されました。しかし、それまでに「総理の案」なるものを米国に持って行っている人たちが多数いて、混乱していた。まずは民間人の立場で整理作業をやりたい、と言ったのです。米国側は了解しました。そうしたら、大型連休中の5月2日に、「ただちにワシントンに飛んで欲しい」という鳩山総理の指示があり、米国との交渉の最前線に送り出されたのです。
――電話一本の指示で、突然の話だったそうですね。
出張旅費も用意されず、スタッフ2人の分を含めて560万円を立て替えました。米国側との協議で印象に残ったのは、騙され続けてきたという日本政府への強い不信感でした。これは私の反省として本にも書いていますが、正式な立場に立っていない人間が持ってきた案であり、鳩山政権の案として一本化されていないじゃないか、と言うのです。最終的には、小川案に一本化してくれとのことでしたが、その段階で鳩山さんは連絡が取れなくなった。一方で鳩山さんは、私たちがワシントンで米国側と交渉していた5月4日に沖縄入りし、「辺野古回帰」を表明した。その前日に、岡本行夫氏と会って、全部ひっくり返ってしまった。錯乱したとしか思えなかった。鳩山さんには判断力が致命的に欠けていました。
■方針転換すれば3500億円でお釣りがくる
――普天間返還問題がここまでこじれたのは、なぜだと思いますか。
政治のリーダーシップの問題が大きい。普天間問題は国内問題です。リーダーシップを持った政権が本気で正面から問題提起すれば、簡単に突破できる。基地の返還には米国の同意が必要ですが、移設先は軍事的知識があればおのずと分かるし、米国も同意する。あとは沖縄県民の半分以上が「まあこれでもいいか」と思う構想を示す。例えば日米地位協定を改定するか特別協定を結んで、事故と犯罪の問題を抑え込む。負担を日本国民で等しく担うということでは、沖縄県民は無税にするとか、教育費や医療・福祉関係の費用を無料にするとか。そして沖縄に人と金が世界中から集まるような制度をつくる。米国にとっては、その軍事的能力が落ちず、沖縄県民が反米感情を持たなければいい。それだけです。
――このまま辺野古移設で突き進んでいいのでしょうか。
小野寺防衛相の時の14年に、総工費は3500億円と国会で答えています。それが今は、軟弱地盤問題などがあり、9000億円超に膨らんでいる。もっとも、他の飛行場建設の予算から見たら3500億円だって異常に高い。特別な工法はいらないわけですから。それを整理していくと、やはり今でも私が提案してきたキャンプ・ハンセン陸上案がベストだと思います。米国に前例がありますが、環境アセスを含めても4年以内に完成です。既に辺野古でかかった費用を業者に払ったとしても、3500億円の予算で800億円ほどのお釣りがきますよ。
(聞き手=小塚かおる/日刊ゲンダイ)
【おがわ・かずひさ】 1945年、熊本県生まれ。陸上自衛隊生徒教育隊・航空学校修了。同志社大神学部中退。地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。外交・安全保障・危機管理の分野で政府の政策立案に関わり、国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、総務省消防庁消防審議会委員などを歴任。小渕内閣ではドクターヘリ実現に中心的役割を果たした。2012年4月から静岡県立大特任教授。
【出典】2020年4月13日配信「日刊ゲンダイDIGITAL」
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