逝きし世の面影

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世界最悪のアメリカ合法麻薬(処方箋鎮痛剤)戦争

2017年08月28日 | 社会
オピオイド鎮痛薬「オキシコンチン」(2017年8月10日提供)

『米オピオイド鎮痛薬問題、中心に医師の処方箋』2017年08月28日 AFP/US

シーラ・バーテルズさん(55)は鎮痛剤510錠の処方箋を手にオクラホマ(Oklahoma)州にある主治医の診療所を後にした──同日後刻、彼女はこの鎮痛薬を過剰摂取して死亡した。
主治医だったレーガン・ニコルス被告は、鎮痛薬オキシコンチン(オキシコドン)などの過剰摂取により死亡した患者5人に対する第二級殺人の罪5件に問われている。同被告が患者らに処方したオピオイド鎮痛薬は、長期間服用すると依存症に陥る危険性が高い。
カリフォルニア州スタンフォード大学のデービッド・クラーク教授(麻酔学)は、「医師には『オピオイド・クライシス(鎮痛剤危機)』に対する大きな責任がある」と語る。
米国には現在、鎮痛剤依存症患者が200万人いるとみられている。
米国における鎮痛剤の過剰摂取で死亡する人の数は、1日平均90人。1999年以降では、米人気ポップ歌手プリンス(57歳)など18万人以上が命を落としている。

『大量処方する「ピルミル」診療所』
鎮痛剤を過剰に処方する医師がニュースとして取り上げられる中、専門家らは、オピオイド・クライシスが医師だけの責任ではなく、米国の医療制度そのものに問題があると指摘する。
鎮痛剤の依存患者が増えるにつれ、その需要に対応すべく「ピルミル(Pill mill)」が米国内の各地に登場し始めた。ピルミルとは、大量の薬を処方する医師や診療所の呼称で、金銭さえ払えば誰でも薬を購入できるのが特徴だ。
そのうちの一つが、オハイオ州の貧しい町ポーツマス(Portsmouth)にあった。以前は、他州との州境に位置するこの街に薬を求めて依存症患者が数多く訪れていたため、ピルミルは街の経済の一部を成していた。

オピオイド依存患者らは、合法的に処方された薬から依存症に陥った人々が多い。
米国では薬物の過剰摂取による死者が増加傾向にあり、2016年は6万人にまで上ったと推定されている。オハイオ州やウェストバージニア(West Virginia)州などで特にその数は多い。

『鎮痛剤依存症問題解決で検察が医薬会社を提訴』
オハイオ州のマイク・デワイン検事総長は、『医薬品会社は鎮痛剤依存症の拡大に対する責任がある。この問題を作り上げたのは医薬品会社だ。』
『これを解決するために、彼らが自ら手を打たなければならない時だ』と鎮痛剤依存症問題で医薬品会社を提訴したのだ。
 米紙ワシントンポストによると、少なくとも米国内の25の自治体が同様の手段を取っているという。
クラーク教授は「医師は自分たちの書いた処方箋が、鎮痛剤依存症問題の原因となっている事実を完全に受け入れていない」と米国社会を取り巻く状況について話し、また「これらの鎮痛薬が痛みを有効に和らげることができるという明らかな証拠は元々どこにも存在していない。特に、長期間にわたる有効性は分かっていない」ことを指摘した。
8月28日AFP(抜粋)

『7年間で5倍増した合法麻薬オキシコンチン(オキシコドン)』アメリカの製薬会社や保険業界が引き起こした麻薬戦争
★注、
アメリカ政府は最近7年間で5倍増した合法麻薬『処方箋鎮痛剤』オキシコンチン(オキシコドン)などのオピオイド鎮痛薬を2018年度には3割削減するとの方針を決めた。
ところが、ペット用に販売されていた同系の鎮痛剤の売り上げが爆発的に増えていた。(そもそもモルヒネの1000倍もの超強力な合成麻薬が合法的に国内で流通しているのですから怖ろしい)
『1999年以降では18万人以上が命を落としている』なら年平均1万人だが、『1日平均90人』なら1年間なら3万2千8百50人である。
ところが『2016年は6万人にまで上ったと推定されている』なら、倍々ゲームで爆発的に医師による処方箋合成麻薬による中毒死が増え続けている。
異色のトランプ大統領を生んだ今のアメリカの『医療』の中身とは、まさに麻薬戦争の真っ最中だったのである。


腰痛の手術後の鎮痛剤の過剰投与で薬物中毒になったゴルフのスパースター、タイガー・ウッズの悲劇

「オキシコドン」は、"警戒"するべき薬だった 『アメリカ人医師に聞く処方現場の実態』2015年07月07日 東洋経済 ジャーナリスト:長野 美穂

トヨタ自動車前常務役員のジュリー・ハンプ容疑者が麻薬取締法違反の疑いで逮捕された原因である錠剤の「オキシコドン」。日本のニュースでは、この薬は「麻薬」の一種と報道されていることが多いが、アメリカでは医師の処方箋があれば普通に手に入る強い鎮痛剤として一般的に知られている。
このオキシコドンとは一体どんな薬なのか。どんな患者に、いつ、医師はこの薬を処方するのか。末期のがん患者の痛みのケアにも詳しいデイビッド・グルブ医師に聞いた。

「膝の痛み」から薬物中毒になったハンプ容疑者
デイビッド・グルブ医師は40年以上の経験を持つ家庭医学の専門家、1986年オレゴン州「ベスト家庭医賞」を受賞
ドクターによっては慢性の膝痛緩和のために処方することもあり得る。
ただ、鎮痛剤としては非常に強い薬であり、依存性が高いので、ひとりの患者に対し、短期間に少量だけ痛み緩和として処方するのが普通だ。
飲むと、手術後の鋭い痛みが一時的に和らぎ、リハビリにも通うことができ、その意味では、素晴らしい薬だ。これは、米国のFDAが認可している、痛みに劇的に効く薬だ。
合法に処方された鎮痛剤で、非合法ドラッグではない。
ただ、数日で止めないと長期間依存してしまう。注意が必要だ。誰にでも処方できる薬ではなく、そこは警戒しなければならない。
ハンプは、逮捕される少し前に彼女は株主総会に出席していたとの報道があるし、その場で普通に歩けていたと仮定すると、私だったらオキシコドンは処方しない。
医師の中にも残念ながら金のために無責任な処方箋を書く人もいる。
マイケル・ジャクソンの主治医は1カ月に何十万ドルもの報酬を受け取る代わりに、多量の鎮痛剤の処方箋を書いていたと見られている。
よく知られている通り、米国では鎮痛剤中毒の問題は非常に深刻だ。マイケル・ジャクソン自身もはじめは中毒になろうと思って鎮痛剤に手を出したのではないだろう。強い鎮痛剤は、芸能人であろうが、企業の役員であろうが、全く関係ないく等しく危険だ。

たばこを吸う人には処方してはいけない薬
私の場合、絶対にオキシコドンを処方しないのは、たばこを吸う人、アルコール依存症の人、過去にアルコール依存だったことがある人だ。この3つにあてはまる人は、オキシコドン中毒になる傾向が強く、処方しただけの量では足りず、やめられなくなる可能性が高い。ニコチン中毒とオキシコドン中毒の過程は、実はそう変わりないものだ。
たばこは身体に悪い、病気の原因になるかも、とわかっていてもたばこをやめられないような患者に、オキシコドンを処方することは、私なら絶対にない。強い鎮痛剤の場合は、短期間、必要量だけを服用し、その後、すぱっと服用をやめられるかどうか、そこが一番の鍵だからだ。

オキシコドンには「逃避効果」がある
オキシコドンを服用すると副作用として一種の「多幸感」、本人が直面しているトラブルや心配事から一時解放されて、逃れることができる「逃避効果」が強い。
逃避のためにアルコールを飲んで酔っ払うのと基本的には似ている。通常、中毒になりやすい人の場合は、単に依存的傾向があるだけでなく、鬱的状況にあるケースが目立ち、現実から逃避したい願望がある場合が多い。

米国では、輸送会社のドライバー、工場の生産ラインで働く人などにはドラッグテストを定期的に実施するのが普通だ。薬でハイになっていたら事故を起こす可能性もあるし、危険なためだ。
ただ、役員クラスの社員にドラッグテストを実施するというのは米国では聞いたことがない。平社員がドラッグテストを受けなければならないのなら、エグゼクティブも受けるべきだ。
ハンプ容疑者の場合、GMやペプシコなどで出世し、トヨタでも役員という高い地位についた上級エグゼクティブでもオキシコドン中毒になってしまう。
どんなに知性の高い人でもたばこがやめられないケースと同じだ。
社会的地位、職業、学歴、知性、知識の量などと、その個人がドラッグ中毒になるかならないかには、全く関係がない。どんなに頭のいい人でも中毒になり得る可能性がある。
(抜粋)
2015年07月07日 東洋経済



『近代科学にとっての「客観性」とは、ほぼ「再現性」の意味だった』

幾ら奇跡的に素晴らしい事象でも、信じる者だけが成功して、信じない(疑う)ものが失敗するようでは科学でない。(客観的な科学的正誤とは、信じる信じないなど個人の主観とは無関係)
物理学者の大槻義彦の『再現性のない科学論文は科学ではない 』との主張は当然であり、今の人類の科学技術の範囲内では『繰り返し再現するような一般的な現象でないと科学で証明できない』。科学の正誤の判定とは、ほぼ『再現性』の事だった。(一生涯で1回しか起きないような珍しい出来事は、科学的な検証が不可能)
ところが、思わず勇み足で『科学で証明出来ないものは存在しない』から、科学的な機序(メカニズム)の説明が出来ない『鍼灸治療は偽科学だ』(鍼灸は詐欺的な行為だ)と言っちゃった。たしかに漢方薬とか鍼灸など東洋医学の歴史は4000年の経験から導き出されたもの(経験則)で近代科学の系譜とは別系統なのです。ところが、困ったことに近代科学の大事な構成部分である近代医学の『麻酔学』が科学的な機序(メカニズム)の解明が完全に出来ていない。
その意味で『麻酔』は鍼灸治療と五十歩百歩の『経験則』なのである。人体に対する機序はよくわからなくても鍼灸では穏やかに、麻酔薬(麻薬)では劇的に鎮痛作用があることは良く分かっている。
近代医学では機序が分からない鍼灸治療に対して偽薬(プラシーボ、プラセボ)効果ではないかとの声もあるが、韓流宮廷ドラマ『馬医』では人間だけではなくて動物に対して鍼灸治療が行われているが、今の中国では獣医によるペットへの鍼灸治療が大流行している。(人間だけではなくて言葉が分かるとは思えない動物にも効く鍼灸の効果がプラセボだとの主張は無理がある)



(おまけ)

『ジム通いもプロテインも不要な「塀の中の筋トレ法」が日本上陸』2017年8月25日(金)Newsweek_JAPAN (ニューズウィーク日本版‏)
刑務所に20年以上いた男が書いた自重筋トレ本『プリズナートレーニング』。相当マニアックでハードな内容に思えるが、、初心者にも入りやすい、意外と優しい構成となっている。
著者はこう喝破する。
メディアと一般大衆にとって、強く健康的な人の典型といえば、ジムにいる(中略)ボディービルダーだ。いまはそう考えられている。わたしには、この現実が狂気のように思える


アメリカ西海岸バークレイに住む映画評論家町山 智浩 (著)『アメリカは今日もステロイドを打つ USAスポーツ狂騒曲 』(集英社文庫) 2012/7/20 では、1980年代以降の『薬漬け』のアメリカ人の狂気の一部分が描かれている。
アメリカの10代のステロイド使用者数、30万人! プロスポーツ選手になれる人は、たった2400人しかいないのに。なぜアメリカ人は副作用を知りつつ、エストロゲンなどのステロイド(筋肉増強剤)で筋骨隆々の体になろうとするのか…。スポーツバカ大国・アメリカの真実。
ジム通いもプロテインも不要な『塀の中の筋トレ法』(プリズナートレーニング)。普通のアメリカ人にとっては(麻薬戦争中の今のフィリピンと同じで)全ての自由が剥奪された(薬物が手に入らない)刑務所の中が一番安全で健康的だったとのパラドクス。






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『合法麻薬の薬害』 (ローレライ)
2017-08-28 17:48:20
『合法麻薬の薬害』は誰が加害者か曖昧。アメリカでも無責任行政。

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