みちのくの山野草

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2678 賢治、家の光、犬田の相似性(#2)

2012-05-29 08:00:00 | 賢治・卯・家の光の相似性
《1↑『「人首町」の通り』(平成24年5月26日撮影)》


2.佐伯郁郎と人首 
 5月26日人首(奥州市江刺区米里人首町)を訪ねた。
 当地は佐伯郁郎の出身地であることを過日知り、その実家やいわゆる「人首文庫(ひとかべぶんこ)」等を直接見てみたかったからである。
 最初その場所が分からず、そのあたりとおぼしき通りを歩き回って探してみた。もちろん、幾つかの賢治にまつわる案内等があり、それがまずは目立った。




               <いずれも平成24年5月26日撮影>
 さて、肝心のこと。佐伯郁郎の実家の場所だが、それは直ぐに分かった。地元の方にお聞きするとやさしく教えてくださったからである。
 その屋敷は、江戸時代に人首城主沼辺家の家老職のを勤めたという佐伯家だけあって、往時を偲ばせる歴史と格式が感ぜられる豪勢なものであった。
 最初、開いている玄関で声をお掛けしたのだが返事がなかったので、いつでも来訪者に開放しているのだろうと勝手に判断して私は建物の中に入らせてもらった。その各お部屋の造りの立派さや、掛けてある多くの掛け軸の格調の高さ、そして窓越しに広がるお庭の見事さに感心しながらお部屋等を回らせていただいた。
 誰にもお会いできなかったのでお暇しようと思ったならば、母屋から男性の方が現れて中へどうぞと仰ってくださった。ご厚意に甘え再度建物の中に入り直してお話をお聞きした。その方は、「人首文庫」の館主の佐伯研二さんであり、今まで私が知らなかった幾つかの貴重なお話等をお聞きできた。
 そして、近々の再訪をお願いしてお暇した。

3.佐伯郁郎のある証言
 さて、なぜ私が佐伯郁郎のことに関していま興味関心を持っているかというと、〝賢治、家の光、犬田〟を結びつけている人物の一人が佐伯郁郎だと思っているからである。
 例えば、佐伯研二氏は次のようなことを『佐伯郁郎と昭和初期の詩人たち』で紹介している。
 わたしたちは、実は花巻でも、講演し、釜石でもするはずであった。前者は、わざわざ花巻到着時間を電知し、せっかくの好摩の盆踊りも見ないで、やって行ったのに対して主催者側の不手際から、どこでどうやればいいかもわからぬ破目になって、阿部、米内、村井、加藤の四氏に御迷惑をかけて花巻遊園地むなしく(実は非常に愉快であったが)一日をくらしてしまうこととなり、釜石へは白鳥氏の急用のために果たさないでしまった。折角の機会、殊にも、犬田氏は多忙中を、わざわざやって来てくれたのに対して、只一ヶ所の講演は実に残念ではあった。…(略)…
これは、啄木会主催『農民文芸会盛岡講演会』を終えて、「感謝の言葉」と題して「岩手日報」(大正十五年七月三十日掲載)に載っている記事の一部であるという。もちろん、この〝啄木会主催『農民文芸会盛岡講演会』〟とは、例の大正15年7月25日に仏教会館で行われた講演会である。
 この証言を知って、やはり活字は怖いなとまず思った。というのは、以前〝大正15年7月末の白鳥省吾来県〟において、以下のような大正15年7月31日の岩手日報の記事

 釜石て白鳥氏講演
(宮古支局)釜石年聯名辯論後援會並びに仝町白鳥省吾後援會の両會が主催となつて二十七日午後六時より釜石町錦館に於て佐伯女子高等學院教授並びに農民文藝協會の白鳥省吾犬田卯の両氏を聘し文藝講演會を開催したが盛會を極めた
を報告したのだったが、もしこの佐伯の証言が正しければ当然矛盾がそこにあることになる。
 では真相はどうだったのか。この佐伯の証言の詳しさと具体性からはこちらの方がおそらく事実であったのであろうと判断できるのではなかろうか。となれば、岩手日報は見込みで記事を書き、その事実確認を怠っていたということにならざるを得ない。そして事実は
   花巻どころか、釜石でさえも講演会は行われていなかった。
ということなのであろう。当時の新聞記事は鵜呑みに出来ないこともあるという一つの証左なのかもしれない。活字になっているものはついついそれは事実と思いがちな私だが、そういう訳にはいかないということのようだ。
 そして、やはり賢治は白鳥や犬田とは会っていないこともこの証言から確認できそうだ。定説どおり、事前に会う約束はしていたが千葉恭を使いとして賢治は面会を断った、と。とはいえ、事前にしたという面会の約束も、この花巻の講演会中止と同様もしかすると何等かの不手際でそうなったのかも知れない。正式に約束していた面会を賢治がいくら何でも〝ドタキャン〟するということはありえないという立場に立ってみれば…。

 その他にもこの佐伯の証言は多くの意味と示唆を含んでいると思うのだが、そのことについてはおいおい投稿していきたいと思っている。

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