(前回からの続き)
前回、もともとトレード・オフ(あちらを立てればこちらが立たず)の関係にある日本経済の二大常識「消費増税が必要」「円安は良いこと」の双方を実現しようと、「財政」サイドが消費増税を進めるなかで「金融」サイド、つまり日銀が無茶な円安誘導=国債等の過剰買い入れを強行しているため、市場では混乱が広がっている―――本来あるべき国債価格や金利水準等が分からなくなっている、といった見方を綴りました。
日銀「異次元緩和」開始前は、金利の上昇を恐れる国は国債を過度に振り出すことがないように歳入歳出のバランスを維持しようと意識しました。しかし、いまの金融政策のもとでは警告音が鳴らない(日銀が国債を大量に買うので長期金利が低いレベルにとどまる)ので、財政サイドも安全な範囲の発行額が分からず、為政者の都合で、ついつい国債を多めに振り出して、そのあげく歳出の大盤振る舞いに陥りかねない・・・。これは米英等の経常赤字国がやっている「中銀による国債の直接引き受け」=「放漫財政」の構図そのものです。別な言い方をすれば、円安環境を欲するあまり日銀は財政の放漫化に手を貸している、といったところでしょうか。
このように、わが国は「円安は良いこと」という常識を「金融」側から追求するあまり、もう一方の常識「消費増税は必要」が象徴する財政規律を実質的に失い、結果として国家経済の基盤である財政構造と金融システムを危険にさらしている・・・。「財政」「金融」共倒れのリスク―――このあたりがいま、「アベノミクス」のもとで起こっている危機的事態の本質であり、それを引き起こしている張本人が、何と驚くべきことに通貨の番人たる日銀―――そう考えています。
「どえらいリスク」―――この4月の消費税率引き上げの可否をめぐる議論が起こっていた昨年、引き上げ見送りをどう思うか、と問われたときの黒田日銀総裁のコメントです。そして先日、同総裁は、来年10月の同再引き上げが後送りされる可能性が高まっていることに関連し、財政規律が失われて対応不能となっても、それは政府・国会のせいであり、日銀の責任ではない、といった主旨の発言をされています・・・。
・・・そうでしょうか。本当に日銀に責任はないと言い切れるのでしょうか。上記のように、健全に機能していた国債マーケットを麻痺させ、何らの「出口戦略」(異次元緩和終了後の日銀のバランスシート縮小策)のイメージすら持たないまま、実質的な国債の直接引き受けに乗り出して政府に放漫財政を促すようなことをしているのは、ほかならぬご自身が率いる日銀なのでは・・・。
これって、まるで「麻薬」の売人。さんざん麻薬(QEマネー)を売りつけておいて、顧客が麻薬中毒(長期金利が制御不能となってQEをやめられなくなる状態)に陥ったら、「それは麻薬を乱用した側の責任であって、麻薬を売った私の責任ではない」と言うようなもの・・・。
どう考えてみても同罪でしょう―――麻薬を買う側(財政)も、売る側(金融=黒田日銀)も・・・。