(前回からの続き)
PIIGS諸国のソブリン危機で揺れる欧州。その欧州でいまもっとも「さとり(差取り)」が意識されている国はフランスではないでしょうか。
通貨ユーロの信認を保つため、ドイツのメルケル首相と連携して厳しい緊縮策をとってきたサルコジ前大統領を決戦投票で破り、昨年5月、ミッテラン氏以来17年ぶりに社会党出身の大統領となったフランソワ・オランド氏。そのオランド大統領が主張する政策はまさに「さとり(差取り)」を色濃く反映するものとなっています。
まずは富裕層や金融機関に対する課税強化。オランド政権は100万ユーロを超える所得への税率を75%まで高めたり、キャピタルゲイン課税や相続税の増税を進めています。そしてトービン税(金融取引に課せられる税)の導入を提言するなど、金融機関や同取引への課税強化を計画しています。
つぎに指摘できるのは雇用対策。財政健全化が求められているなか、オランド政権は教員の採用を増やすなどの政府部門の雇用増加を図っています。さらに、大手自動車メーカーのPSAプジョーシトロエンが発表した大規模なリストラ計画に対して見直しを強く訴えるなど、政府として民間部門の雇用維持にも関与する姿勢を示しています。雇用を増やしたり失業率を改善させることで格差の緩和を図ろうという意図が感じられます。
「さとり(差取り)」つまり格差是正をめざすオランド政権のこれらの政策ですが、早くも厳しい局面を迎えています。
たとえば、富裕層への課税強化策に対して「さとりたくない(差取りたくない)」富裕層の一部は、これらの課税から逃れるためにフランスから資産課税の少ない国々へ国籍等を変更し始めています。すでに有名ブランドのルイ・ヴィトンのCEOや人気俳優などの著名な資産家がベルギーやロンドンなどに移ったそうです。これに関連し、階級社会の国(要するに相続税や贈与税などを通じた富の再配分が十分に機能していない「さとりたくない(差取りたくない)」国?)であるイギリスのキャメロン首相は、同国にやってくるこうしたフランスの富裕層を「手厚く歓迎する」と発言しながら、オランド政権の「さとり(差取り)」政策を批判しています。
そして先月末、フランスの司法機関である憲法会議が、今年度予算に組み込まれていた上記の高額所得75%課税に対して違憲判決を下しました。この増税策は財政再建や「さとり(差取り)」を進めるオランド政権の目玉政策のひとつだったために、この判決は同政権には痛手となりそうです。
さらにそんなオランド政権にとってつらいのは、オランド大統領の支持率が低迷していること。昨年10月末時点で発表された同支持率は36%と、政権誕生から半年時点の支持率としては異例の低さとなっているとのことです。その原因は2013年の緊縮予算案を発表したためとみられています。実際、同予算案に上記のような富裕層増税等を盛り込んだものの、一方で財政赤字のGDP比を3%以下に抑制するために歳出を削減せざるを得ず、景気が低迷し失業率が高まるなかで、これが多くの市民の支持を失うきっかけとなったのでしょう。
といったわけで、オランド政権の「さとり(差取り)」政策の先行きには不透明感が漂ってきました。
そもそもフランス経済は、上記のプジョー社の苦境に象徴されるように、自動車などの基幹産業が国際競争力を失いつつあることや、主力金融機関がPIIGS諸国等への投融資に傾倒し過ぎたために金融システムが脆弱化していることなどから、以前から構造的な地盤沈下に悩まされています。それほどに難しい情勢のフランスで、増税と緊縮財政で国民に痛みを強いつつ、他方で雇用増加や経済成長をどのように達成していこうというのか・・・。
オランド政権が進める「さとり(差取り)」政策の成否と、フランス国内外からの「さとりたくない(差取りたくない)」勢力からの反撃(?)なども含め、どうやら今年はフランスから目が離せなくなりそうだと思っています。
(続く)
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