ブルームバーグ等の報道によれば現在、英銀最大手のHSBCホールディングスが本拠地を現在のロンドンから英国外へ移すことを検討しているそうです。同行は利益の多くをアジア関連の業務から得ていることなどから、1993年まで拠点としていた香港を含むアジアのどこかに戻ることを考えているらしいのですが・・・
で、このHSBCの動きは英国政府の課税強化を嫌気した株主の提案を受けてのもの。同国当局は今年、銀行税の通算8度目の税率引き上げを実施しています。この税金は銀行のバランスシートに課税するものなので、資産規模が大きなHSBCにとってはそれだけ支払額が増えることになります。そこで、英国よりも納税負担の少ない場所に移転して株主利益を守ることにしよう、ということになったとのこと。
英国の銀行が本拠を他国へ移す―――それだけでは大したニュースに聞こえないかもしれませんが、個人的にはこれは現在の世界金融システムにおける深刻な問題の表れのひとつだと思っています。それはこれらの銀行、つまりグローバルに業務展開する大銀行(≒「大きすぎてつぶせない(Too Big To Fail:TBTF)銀行」)―――の監督とかサポートを誰がするのかがますます不明確になっている、ということ。この点のあいまいさは今後、危険な状況を引き起こす可能性があると心配しているわけです。
本ブログであれこれ綴っているように、日米欧中の主要中銀の緩和的な金融政策によって、いま世界各地で巨大な資産バブルが発生しています。歴史を振り返れば分かるとおり、いずれこのバブルは崩壊し、激しい資産デフレが市場を襲うでしょう。そして同時に起こるのが金融システムの機能不全です。多くの銀行が不良債権を抱えて過小資本状態、ひどい場合は債務超過に陥って破綻に瀕します。このとき何もしなければ経済恐慌は不可避に・・・。
で、本来ならばここで政府が登場し、議会や納税者の了承を得て大量の財政資金を銀行に注入します。一方で救い難い銀行の倒産は容認して株主責任を取らせ、ペイオフを実施して預金者保護を行います。これらの施策を通じて金融システムの信用維持とリセッションの深刻化防止を図ります。このあたりは不動産バブル清算の最終局面で日本が実施してきたことで、当たり前ですがその救済等の対象になったのは邦銀だったわけです・・・
では、同じ事態が外国のTBTFに降りかかった場合、どうなるか? もちろんロンドンに本店のある英銀のどこかが経営危機に直面したときは英当局やイングランド銀行(中銀)等が自然と上記の対処をするでしょう(うまくいくかどうかは別問題!)。でも・・・顧客の多くが英国人なのに本店を英国外に置く銀行が破綻しそうになったら、いったいどこが必要かつ責任のあるアクションを起こすのでしょうか・・・?