(前回からの続き)
本稿一回目で、来春で任期を終える黒田東彦・現日銀総裁の後継者は、「悪いインフレ」を起こさないような金融政策を実行すると期待される人が望ましい、と書きました。その意味で前回ご紹介した白川方明・前総裁は最適任のお一人と考えています。
で、上記候補として次に推薦したいのは、イェンス・ワイトマン(Jens Weidmann)氏。ドイツの中銀であるドイツ連邦銀行(独連銀:ブンデスバンク)の現総裁であり、欧州中央銀行(ECB)の理事会メンバーでもあります。
ワイトマン氏が次期の日銀総裁にふさわしいと考える理由は、冒頭に記したことをそのとおり実行できる腕力をお持ちの方とお見受けするからです。ご存知のように、同氏が総裁を務める独連銀はインフレファイターの異名が示すとおり、悪いインフレつまり長期金利のコントロールが困難になるリスクを早い段階から感知し、これを政策的に徹底排除することで通貨の信認を守ってきました。いうまでもなくこのスタンスは、第一次大戦後のドイツ経済が通貨当局の無節操な通貨供給策で巻き起こされたハイパーインフレによって壊滅、ナチスの台頭を許したとの後悔と反省の念に基づくもの。これ、前述の白川前総裁も講演等で指摘している、セントラルバンカーならば誰もが第一に肝に銘じるべき中銀史の苦い教訓です。
さて、そんな独連銀ですが・・・(おそらくすべての独連銀の役職員にとっては)残念なことに(?)現在はインフレファイターとして振る舞うことができなくなっています。金融政策の最終的な決定権を自身の上位組織であるECBに握られているためです。まあたしかに独連銀はEUの盟主国ドイツの中銀で、ECB内での影響力こそ大きいですが、ECBが数多くの国々の経済事情に配慮する立場にある以上、その政策の内容はおのずとEU全体を平均したものになりがちです。
で、EUはいまどんな具合か、といえば、ギリシャやイタリアなど、金融危機勃発寸前の加盟国が目白押し(?)。ということでECBはいま、これらアブナイ国々のほうをサポートする必要からどうしても緩和的な政策を採用せざるを得ない状況にあるわけです。実際にECBは昨年12月の理事会で、今年3月までとしていたECB版QE(量的緩和策)といえる「資産購入プログラム」の期限を同12月まで延長することを決めました。さらにイタリア人のマリオ・ドラギECB総裁は、テーパリング(QE縮小)は話題にならなかった、と述べることで、この緩和策が12月以降もさらに続く可能性をほのめかしています(?)。
このECBの政策スタンスに異を唱えたのが独連銀のワイトマン氏です。報道によると同氏はこの理事会で本プログラムの延長に反対を表明したとのことです・・・って、ドラギ氏の上記説明と食い違っていますが・・・。まあともかくそのあたりにも、ワイトマン氏の安易に周囲と妥協しないインフレファイターとしてのブレのない信念を感じるわけです。