(前回からの続き)
このほど米トランプ政権が決定した輸入鉄鋼等に対する高率の関税ですが、先述のように対米輸出国ばかりかアメリカ自身にもダメージが及ぶ策となることは明白でしょう。その意味でも今後、あちこちから非難の声が上がるとともに中国を含む相手国が何らかの報復措置を打つ懸念も強まりそうです。
そうしたリスクを先刻承知で実施に踏み切ったのは、アメリカ第一主義を掲げる同政権としては、自国相手に貿易黒字を稼ぎまくる国にはとにかく我慢がならない、ということなのでしょう。そのあたり、まあ分からなくもありません。外国製品が大量に入ってくれば、自国メーカーは市場からの退出を余儀なくされ、その社員の多くは解雇等されかねませんから・・・
さて、世界最大の消費市場であるアメリカがこうして自らのマーケットに関税障壁を設けようとしているわけです。その無茶ぶりの是非はともかく、わが国はあらためて輸出に過剰な期待は寄せられないことを思い知る必要があります。
「円安誘導による外需狙い」―――以前「アベノミクス」のことをこう表現しました。アベノミクスとは日銀「異次元緩和」とほぼ同義です。これ、為替レートを円安ドル高方向にもっていく意図がありますが、実体経済面における通貨安のメリットはほぼ「輸出に有利」の一点だけ。アベノミクス前まで対米輸出額1ドル=80円だったものが同120円とかになるから、円建ての収益利益額は膨らみます。それに1ドル80円のときに原価が70円だったとしたら、同120円になって原材料円建て価格が上がっても原価を90円くらいに抑えることができれば0.9ドル(108円)で安売りしても差し引きの利益は(10円→18円に)増えるし、販価を1ドルから0.9ドルに下げられるから価格競争面でも有利になって相手国の市場シェアを奪うこともできそうだし・・・(って、ここでは受け取る円の実質価値が1円=1/80ドルから同1/120ドルに低下していることのマイナス面には触れていません)。
アベノミクス関係者がこの円安輸出振興に期待をかけてきたのは明らかでしょう。具体的な中身はここでは省きますが、最近の株式市場で、円安になると輸出企業の株価が上がり、円高になると逆に下がる、といったところはそのあたりの反映だと思っています。何度も指摘していますが、じつはアベノミクスは「カブノミクス」(私的造語)すなわちそのプラス面は「株のみ」です。で、現状のマーケットはこのとおり、円安→株高、ということで、カブノミクス的にはどうしても円安を歓迎し、株安をともなう円高を忌み嫌う、となりがちです・・・ってこれ、こちらの記事等で綴ったとおり実体経済の感覚とはかけ離れるわけですが・・・