福祉センターで自主開催するじじばばの手作り昼食会のメインディッシュは、みんなでこしらえたコロッケだった。
松茸の土瓶蒸しや、しめじの茶碗蒸しよりずっと美味かった。
締めは、恒例の童謡の斉唱である。
今回は「十五夜お月さん」を満月のように大口を開けて熱唱した。
季節外れな歌になったのは、集まったじじばばが季節外れだから仕方がないよ。
ところであなた、この歌の歌詞をはっきり覚えていないでしょ?
じじばばたちもあやふやだったけど、指揮者のアグリーじぃさんが歌詞を配ってくれた。
◎ 十五夜お月さん 野口雨情作詞 本居長世作曲
十五夜お月さん ご機嫌さん 婆やは お暇(いとま)とりました
十五夜お月さん 妹は 田舎へ貰(も)られてゆきました
十五夜お月さん 母(かか)さんに も一度 わたしは逢いたいな
歌い終わって、ひと騒ぎになった。
何て暗い歌だったんだろう、アタシ、知らなかった/そうねぇ、このお月さんって、可哀想だわ。
と言うおばばの発言をきっかけに、
お母さん死んじゃったのね/いや若いツバメと駆け落ちしたんじゃないの?
お月さんの家、婆やがいたなんて相当裕福だわ/でもお暇を取ったのは破産したのさ、きっと。
妹が田舎に貰われたそうだけど、養子縁組じゃなく子守か便所掃除なんかだと思うよ。
お月さんって、可哀想。・・・・がやがや、わいわい。
やっぱり、亀の甲より歳の効。野口雨情も裸足で逃げだす凄い妄想力だね。
若いじぃさんが言った。
こんな歌詞だったかなぁ。お嫁に行くのに傘があるとか無いとか言ってたようだけどなぁ。
う~ん、そうだったかもしれない。・・・・がやがやわいわい。
別の爺さんが言った。
そうだっ! こんな歌だったと思う。別ん家のお月さんだよ。
森生は帰宅してから調べてみた。作詞は雨情だけど別の歌だった。
● 雨降りお月さん 野口雨情作詞 中山晋平作曲
雨降りお月さん雲の蔭 お嫁に行くときゃ誰とゆく
ひとりで傘(からかさ)さしてゆく 傘(からかさ)ないときゃ誰とゆく
シャラシャラシャンシャン鈴付けた お馬にゆられて濡れてゆく
でも雨降りお月さんと十五夜のお月さんは、同一人物だったのかもしれない。
傘も無く、付き添も無い哀れなお月さんだった。
挿絵は氏原忠夫卓上暦から。
171110