「12の歌・地球は歌っている」
武満徹のボップソングCD「翼」を出した石川セリさんは、ご主人の井上陽水さんから、武満の会合に誘われた時、武満の取っ付き難さに気が進まなかったそうだ。
会ってみたら、歌が大好きな楽しい人だったそうだ。
武満夫人の浅香さんは、折角陽水さんが目の前で歌ってくれるだから、貴方黙ってらっしゃい、と言っても、負けずに歌い出したばかりではなく、陽水さんの歌唱力に嫉妬していたそうだ。
篠田正浩監督の番組(3/20夜)には、武満の寛いだ笑顔が沢山紹介されて、森男が八ヶ岳の音楽祭で接した取り付く島もない様子からは想像できないものだった。
あの時は、音楽監督はリヒテルだったが、実際は武満。マチネーからナイトキャップコンサートまで、5日間も気配りしていて緊張していたのだろうし、音楽祭には素人の森男たちのヘマ続きに、うんざりしていたのだろう。
武満が音楽を志したのは、中学生の頃。埼玉県の軍需工場での労働に従事していた時、監督の将兵がこっそり、敵性音楽として禁止されていたシャンソンのレコードを聞かせてくれた時だった。感動で身体が痺れたそうだ。それ以来歌の虜になって、難しい現代音楽を作っている時も、黒澤明監督との仕事でピリピリしている時も、歌を口ずさんで周りを和ませた。
代表的なポップソングは「死んだ男の残したものは」だと思う。
この歌は「ベ平連」の要請に応えて、親友の谷川俊太郎先生が作詞し、武満が曲を付けた。いわゆる反戦歌である。
「君が代」もいい。アグネスちゃんでもいい。でも安倍晋三さんは、朝起きたら、先ずこの歌を口ずさんで欲しいものだ。美しい国を作るために。
「水の音楽」(3/18)で、石川セリさんが歌うこの歌に、嫌味を書いてしまった。
TV番組でも、あの厚化粧のセリさんが、少女のように可憐に歌う「明日ハ晴レカナ曇リカナ」や、「翼」を聴かせてくれた。良かったと思う。
だが、「死んだ男の残したものは」は、森男が言うように、森山良子さんが歌った。
これは、セリさんの所為ではなく、ボサノバに編曲して指揮をした服部隆之先生の技巧が勝ち過ぎたためだろう。服部さんなりに武満と格闘したのだ。
森進一さん、梓みちよさん、秋川雅史さん.....。その他多くの歌手が、この歌を歌い継いで貰いたい。
番組に映った武満や谷川俊太郎先生、陽水、みなみらんぼうさん.......。みんな若々しい青年の風貌だった。武満が好きになった。
死んだ男の残したものは
ひとりの妻とひとりの子ども
他には何も残さなかった
墓石ひとつ残さなかった
死んだ男の残したものは
しおれた花とひとりの子ども
他には何も残さなかった
着もの一枚残さなかった
死んだ子どもの残したものは
ねじれた足と乾いた涙
他には何も残さなかった
思い出ひとつ残さなかった
●「12の歌・地球は歌っている」は武満がギター曲に編曲した愛唱歌集。
演奏庄村清志、随筆谷川俊太郎、絵和田誠という豪華版。
東芝EMI発売番号TA-72039、レコード発売100年記念。
●収録曲
・ロンドンデリーの歌・虹の彼方へ・サマータイム・早春賦・失われた恋・星の世界・
・シークレット ラヴ・ヒア ゼア アンド エヴリウェア・ヘイ ジュード・ミッシェル・イエスタデイ・
・インターナショナル・