林 住 記

寝言 うわごと のようなもの

家出のすすめ

2007-01-15 | 歌の翼に

  

  あなたの後ろ姿に そっと別れを告げてみれば
  あなたの髪のあたりに ぱっと明かりがさしたよな
  裏の木戸をあけて 一人夜に出れば
  灯りの消えた街角 足も重くなるけれど
  僕の遠いあこがれ 遠い旅は捨てられない

  許してくれるだろうか 僕のわかいわがままを
  解ってくれるだろうか 僕のはるかなさまよいを
  裏の木戸をあけて いつかつかれ果てて
  あなたの甘い胸元へ きっともどりつくだろう
  僕の遠いあこがれ 遠い旅の終わるときに

  帰るその日までに 僕の胸の中に
  語りきれない実りが たとえあなたに見えなくとも
  僕の遠いあこがれ 遠い旅は捨てられない

小椋佳作詞作曲歌の「木戸をあけて」である。
副題に「家出をする少年がその母親に捧げる歌」とある。
とても美しい旋律を、小椋さんが見事に歌い上げていたが、流行らなかった。

正月のTVで塩野七生女史と五木寛之先生が、「ローマ帝国の興亡史」について語り合う面白い番組があった。

番組の本筋からは離れ、五木さんが例の憂いを含んだお顔で深刻に、「近頃の日本はどうなってしまったんだろう。自殺、苛め、親子兄弟殺し..........」、と始めたら、塩野女史ニヤリと笑って、

 ・戦後60年、平和が続いた対価ですよ。
 ・苛めは昔からあった。私も、私の子供も苛められた。世界中に苛めはある。
  みんながひ弱になったのよ。
 ・戦争が始まれば、自殺を考えてる暇は無い。親子で殺しあうことも無いわ。
 ・死に値することなんか、何も無い。

と、五木先生を軽くいなしてしまった。
お二人は昔からの仲良しのようで、五木先生、ちょっとたじろいだが、結局塩野女史の話に合わせていった。

塩野女史、言いも言ったり、である。流石に勇気がある。
抗議のファックスが沢山届いたろうが、森男は塩野女史に同感だね。
ニュージランドでホームステイした韋駄天さんも大賛成だった。

さて、親子兄弟夫婦、家庭学校会社で行き詰まったらどうするか。家出をすればいいのである。特に扶養家族が無い若い人には、家出をお勧めしたい。
理由は「木戸をあけて」の中にある。

「花はさくら木」の作者の辻原登さんも、10代から20代にかけて、何度も家出をした、と話していた。
理由は歌の中のようなことであった。

家出をするには体力が必要である。
学校の勉強や、会社の仕事よりも、ノロウィルスにも負けない体力が必要である。
渡り鳥になるのだから、鳥インフルエンザにも負けない頑健さも必要だ。

また、自分の気持ちを整理して他人に伝え、他人の気持ちを理解するには、話し方、聞き方、読み方、書き方を身に着けておく必要がある。
外国ならその国の言葉である。まあ、外国はともかく、日本各地の放浪をお勧めする。

奈良の高校生も、渋谷の歯学部受験生も、家出をすればよかったのである。
夫をバラバラにした妻も、家出すれば、別の生き方がみつかったはずだ。
マスコミは家出文化を流行らせるべきである。

暖かくなったら、皆、どんどん家出しよう。
後のことなど、構うものか。

■老人だって家出する。(2/28追記)

ロシアの文豪トルストイも家出をした。御年82歳で。
理由は「悪妻」ソフィアにうんざり、という説が流布されているそうだが、ソフィアは「貞淑な良妻」だったとする説もあり、かって、正宗白鳥と小林秀雄が論争したこともあるそうです。

この度、シンガポール在住のふみ子・デイヴィスさんが、群像社から「トルストイ家の箱舟」という本を出版。
どうも、森男には難しくてよく分からないが、この本では小林秀雄説の「心が《人生に対する抽象的煩悶》で燃えていなかったらば、山ノ神を怖れる要も無かったであろう」に、軍配を上げているような、いないような........。

立派な本ですが、これを全部読まなければならないなら、森男も家出したくなります。
まだまだ春秋に富む貴兄は、どうぞご一読を。