さて昨年、私が長いこと失業していたのはご存じの方も多いかとは思います。雇い止めが決まってからも仕事のある間は一日の仕事が終わるとそれだけでもう十分な気になってしまい、結局のところ就職活動を始めたのは実際に失業して暇になってから、しかるに新卒者が選り取り見取りの時代に敢えて無職のおっさんを雇おうとするような奇特な会社などあろうはずもなく、失業期間の最長記録を大幅に更新する羽目になってしまいました。そうなると徐々に条件を下げざるを得ず、給与なり勤務時間なり職種なり、あるいは雇用形態なりでどんどん妥協していかなければならなくなってしまったわけです。その辺の反省を踏まえて、これからは仕事のある内に地道に転職活動をしよう、新卒者が五月病で離脱し始める頃になったら少しは機会も増えるだろうと思っていたものですが――何ともやる気が起こりません。この連休中は時間があるだけに、何とか自分を奮い立たせて何社か応募はしてみるのですが、応募する段階でダメダメ感が漂っています。
ただでさえ超買い手市場なのに、今回の震災で一層の景気後退、それでも頑張って新卒採用を増やすと宣言している会社もありますが、その分だけ中途採用は減りそうな気がしてなりません。新卒で就業機会を逃したら終わりみたいな傾向は今後も輪をかけて強まりそうです。もっとも、こうした社会的要因もさることながら私個人の問題もあります。もう若くもなければ(少なくとも採用担当者にとっては)、輝かしいキャリアがあるわけでもない、もうちょっと自分を綺麗に見せる技術があればいいのかも知れませんが、これが苦手なのです。自分の考えを語るのは得意だと思っているのですが、「面接官に好かれそうな人間」を演じることには非常に困難を感じます。そう言えば昔は小説を書いていたこともあるのですが、自分とは異なる作中人物の考えを描き出すのは著しく下手でした……
『就活のバカヤロー』という、何故か売れたらしいのですが本当にくだらない本があります。まぁ、馬鹿コンサルの書く本の例に漏れず、要するに「悪いのは雇用側じゃない!会社は悪くない!」という著者の世界観が並べ立てられているだけなのですが、その過程では必然的に就活に望む学生が嘲笑の対象となるわけです。曰く「就活生はイタすぎる」と。そうなってしまう要因は採用側の要求にあるはずですが、『就活のバカヤロー』の著者は公然と「(学生は)もっと自分をさらけ出せばいいと思っている」と言い放ちます。ふむ、それを真に受けて成功する学生が果たしてどれだけいるのでしょうか。少なくとも私は、自分を偽らず正直に志望動機の類を書いたことがありますが(web上の応募ならタダですから、色々と捏造するのが面倒なとき、何度か全てを正直に書いて送信したことがあります)、ただ一度の例外もなく書類選考の最初の段階で篩い落とされています。
たぶん、この辺は男性から見た「女性の化粧」に似たところがあるような気がします。世論調査によると世の男性の多くは薄化粧が好き、軽めのナチュラルメイクが好き、スッピンも悪くないということのようですが(参考、残念、それはすっぴん風メイクの間違いだ)、じゃぁ正真正銘のスッピンや本当に薄いだけの化粧で男性の好感を得られるかと言えば、実はそう簡単ではないのではないように思います。「素」で本当に綺麗な一握りの容姿に恵まれた人であれば、スッピンでも薄いだけのメイクでも好意的に迎えられるのかも知れません。ですが大半の人は、自分を良く見せるための努力をしなければならない、できれば「メイクしたから綺麗(=厚化粧)」ではなく「大してメイクしていないけど綺麗(=ナチュラルメイク)」に見せるべく涙ぐましい努力をしているものではないでしょうか。
就活も然り、「素」で企業の採用担当者を惹きつけるような生まれながらの社畜であるならば、別にマニュアル本に倣わずとも、ただ自分をさらけ出せば済むわけです。しかるに、大半の人が素で勝負できるほど美人ではないように、大半の就職希望者もまた、素で採用担当者の歓心を買えるような社畜精神の持ち主ではありません。だから何としてでも就職せざるを得ない人々は自身の人格に化粧を施すのです。このように求職者は何とかして採用担当者に好かれようとしているわけですが、その厚化粧ぶりを見たコンサルから「就活生はイタすぎる」と嘲笑されているのが現状と言えます。「別に演技しているわけではないけれど会社向き」に見せなければならない、この難しい要求に応えようとすると、どうしても厚化粧になってしまわざるを得ないのですが、それをバカにするコンサルの傲慢さと無理解には反吐が出ます。
そうは言っても、超・買い手市場における就職戦線は絶望的なまでに雇用主優位です。どのような手を使ってでも採用側を誑かし、籠絡しないことにはどうしようもありません。素で綺麗な人はさておき、そうでない人は「イタすぎる」と言われようが目一杯化粧して自らを偽る他ないのです。こういう作業には果てしなく徒労感を感じるものですが、雇う側と雇われる側の力関係が変わらないことには、もうどうしようもないのでしょう。
まさに管理人さんの仰る通りです。難関の資格を持っているわけでもなく、有名校を出てるわけでもない。性格も明らかに会社向きではない。
そんな人間は本当に滑稽なくらい化粧をして、演技をしないと目も向けてもらえません。
あまりに自分からかけ離れた化粧に、最近は面接の度に自己嫌悪にかられております。
これに慣れるか慣れないかで社会不適合か否かが決まるんですかねぇ…。
個人的に、厚化粧をした人間に負けなければならない理由がわかりません。難関資格もブランドもないですけど。
結局、「社会人」を演じきれるかどうかが問われるようなところがありますからねぇ。私自身、色々と自分を偽らないとスタートラインにすら立てない有様で、本当に辟易します。そうは言っても仕事は見つけなきゃいけないわけで、何とも気が重いです。
>princessmiaさん
まぁprincessmiaさんも、厚化粧が必要な年になったら、厚化粧で頑張る人の立場もわかるようになるんじゃないでしょうか。
ぶっちゃけこれらは、若者論の代わりとして掲載されている面があると思います。
就活関係は俗流若者論よりも攻撃対象が絞られているせいか、なおさら乗る人が多いという点でもタチが悪いように思いますね。新卒者に近い年代の人でも、「あいつらはバカ」みたいな感覚で就活論に迎合する人が多いような気がします。