非国民通信

ノーモア・コイズミ

外交能力がない

2010-09-26 22:58:26 | ニュース

中国船長釈放、仙谷官房長官が政治介入を否定(朝日新聞)

 仙谷由人官房長官は24日夕の記者会見で、那覇地検が尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件で逮捕した中国人船長の釈放を発表したことについて「検察の決定後、本日午後に那覇地検が記者会見という方法で発表するという連絡を法務省から受けた。検察が捜査をとげた結果、身柄を釈放するという報告だ」と述べ、釈放は那覇地検独自の判断であり、政治介入はなかったとの認識を示した。

 那覇地検が会見で「(釈放は)日本国民への影響や今後の日中関係を考慮した」と発表したことについては、「検察官が総合的な判断のもと、身柄の釈放や処分をどうするか考えたと言えば、そういうことはあり得ると考える」と語り、検察の判断を容認する考えを示した。

 なんと言いますか、民主党の語る「政治主導」とはどういうものかを端的に表しているような気がします。実際に政治介入があったかどうかはさておき、国民のウケが悪いことは官僚や検察のせいにして済まそうとする、これぞ政治主導の典型です。「何を」決めるかではなく「誰が」決めるかにこだわってきた、官僚や司法ではなく官邸が物事を決めなければならないのだと主張してきたにも関わらず、難しい局面では検察の決定ということにしてしまう、いやはや政治主導とは便利なものです。

「政府は間違った判断した」=中国人船長の釈放決定を批判―石原都知事(時事通信)

 東京都の石原慎太郎知事は24日の記者会見で、尖閣諸島沖での中国漁船と海上保安庁巡視船との衝突事件で、公務執行妨害容疑で逮捕された中国人船長の釈放を那覇地検が決めたことについて「政府は非常に間違った判断をした」と批判した。また「尖閣で向こうから体当たりしてきたという保安庁の言い分が正しいかどうか、保安庁の持っているビデオを公表してもらいたい」と語った。

 さて、この辺は橋下とか自民党をはじめとする野党議員とか、そして民主党内部からも似たような非難が出ているわけですけれど、とりあえず代表して慎太郎さんのコメントを取り上げます。「政府は非常に間違った判断をした」と中国人船長の釈放に噛みついているのですが、どうしたものでしょうね。確かに民主党政府の対応はクレバーとは言いがたいものですけれど(ちゃんと裏で取引しているんでしょうか?)、ただ国内に向けて日本政府側の対応の正当性を訴え続けるよりは、ずっとマシな対応のような気がします。慎太郎さんを初めとして国内世論的には、ひたすら自国の正当性を(国内に向けて)訴え続けていた方がウケが良さそうですが、それこそ政治の責任放棄というものですから。

日本は“船長トラップ”に乗せられた!? 
尖閣沖衝突に「自民党ならこうはならなかった」の声も(DIAMOND online)

 「売られたケンカはかわすのが普通、だがそれを買ってしまった」――。

 上海では、在住の日本人からも中国人からも「自民党ならばこんな展開にはしなかったはずだ」という発言が聞かれ、民主党への批判も高まっている。

 巡視船と中国籍漁船の衝突事故は7日に起こったが、8日後に迫る民主党代表選挙で配慮が行き届かず、「政治的解決」が後回しにされてしまったことも想像に難くない。

 「結局この間、判断を現場に任せざるを得ず、当の現場は責任問題を恐れ、“ごく普通の司法手続き”を踏んでしまったことが問題をこじらせる発端になった」(前出のA氏)。

 また、同氏は民主党内のタカ派がこれを利用していると見る。

 「『中国漁船も来るから沖縄には基地が必要だ』と、タカ派は沖縄にも米国にも強いシグナルを送ることができる。一石二鳥だ。」

 2004年に中国の活動家が尖閣諸島に「不法」上陸した際、当時の首相であった小泉は「大局的な判断」と称して拘束した中国人活動家を送検せずに帰国させています。何かと外交面でも後退が目立った小泉時代ですが、そういう側面もまだ残されていたようです(今の自民党ですら谷垣は「問題を深刻化させないことが一番大事だ。直ちに国外退去させた方が良かった」と述べていますし)。そして当時の野党や世論は、この小泉の判断にどう反応していたのでしょうか? あまり大きな問題にはならなかった、とりたてて当時の内閣が非難を浴びるようなことはなかったような気もしますが……

 「古い自民党」の元、日本はアパルトヘイト政策で国際的に孤立していた時代の南アフリカと付き合い続けて「名誉白人」の称号を贈られるなど、外交面では「理」よりも「利」を優先させてきたわけです。何が正しいか間違っているかではなく、その外交関係が日本の国益に叶うかどうか、後者の方を大事にしてきたはずです。それがいつの間にか損得よりも勝ち負けを優先する外交に変わってきてはいないでしょうか。どこの国とどのように付き合えば得になるか、それを考える代わりに「自分は正しいのだ」と主張することに重点がシフトしてきているように思います。

 かつて北朝鮮がミサイル実験を強行したとき、安倍内閣の支持率は大きく上昇し、当時の外相であった麻生太郎は「金正日に感謝しないといけないな」と漏らしました。私からは外交上の失敗にしか見えない結末だったのですが、国内世論的にはむしろ外交とは失敗した方が好ましいものなのかも知れません。そして現役の外相である前原はと言えば、尖閣諸島は日本領であり領土問題は存在しないとの建前にしがみつき、今回の問題を国内問題として処理する、すなわち外交を放棄する構えを見せるなど、相変わらず政治が役目を果たしていないわけです。

 ここで仮に日本側の主張が全面的に正しいとしても(往々にして領土に関する当事国の主張は怪しいものですが)、現に他所の国と揉めている以上、これは外交問題なのです。ひたすら自国の正当性だけを訴えておけば国内の戦意は高揚するかも知れませんが、国益を考えればこそやるべきことは別にあります。しかるに、今や外交を損得ではなく勝ち負けで考える時代であるとするなら、たとえそれがどれほど日本の経済や社会に悪影響を与える結果になろうとも、相手国に一歩も譲らないことの方が望まれるものなのかも知れません。

 日中の関係が本当に互恵的なものであれば、日中関係の悪化は中国にとっても打撃になります。とりわけ輸出入によって利益を得ている財界筋からすれば、領土問題などさっさと幕引きしろ、我々の商売の邪魔をするなといった思いが少なからずあるでしょう。しかるに日本側ばかりが利益を得るような関係であったならば、日中関係の悪化によって困るのは日本側ばかりということにもなります。日本への輸出や日本からの輸入によって中国サイドが利益を得ているのであれば必然的に中国側の行動にもブレーキが掛かりますが、中国側に利の薄い関係であったのならば、中国にとって日本を切り捨てることなど簡単です。経済面でも勝ち負けを競う、自国優位の関係を築きたがるところは少なからずあるはずですが、自国優位の関係(=日本側ばかりが利を得る関係)になるほど外交面では弱みを握られることにもなる、その辺のバランスの取り方も考えるべきでしょうね。

 ともあれ、今回の一件で露呈したのは日本の外交力の不足、とりわけ菅内閣の前政権にすら劣る外交力の弱さと言えます。そしてこの外交力の不足を、軍事力によって補おうとする輩も出てくるわけです。引用元でも挙げられているような民主党内のタカ派に限らず、自民党を初めとする野党筋やネット世論もまた、外交力ではなく軍事力をこそ積み増すことを説くでしょう。そして世論の支持を失うであろう菅内閣が、それに靡かない保証などどこにもありません。

 

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9 コメント

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Unknown (ノエルザブレイヴ)
2010-09-26 23:18:22
外交能力の不足を思う人は管理人さんばかりではなく沢山いると思われるのですが、その中の少なからぬ人が「外交能力とは相手をひれ伏させる能力である」的なことを考えているであろうことは頭が痛むところです。
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-09-26 23:36:57
>ノエルザブレイヴさん

 お互いに良好な関係を築くのではなく、勝ち負けを争うのが外交と勘違いされているフシがありますよね。それこそ相手国に少しでも利を与えたら負けだ、みたいな感覚がネット世論ならずとも強い気がします。
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Unknown (ホルへ)
2010-09-27 00:41:55
外交やコミュニケーションは勝負をつける場所や一方的に相手を指導する場所やないないということを理解出来へん今の政治家及び官僚はほんまもんのDQN やと俺は感じたで。
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Unknown (まり)
2010-09-27 08:44:58
「外交を損得ではなく勝ち負けで考える時代であるとするなら、たとえそれがどれほど日本の経済や社会に悪影響を与える結果になろうとも、相手国に一歩も譲らないことの方が望まれる」この愚かしさ、したたかな交渉能力と妥協点を見いだす能力のなさ。原子爆弾を落とされてもまだ学習できないのかorz
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-09-27 13:43:32
>ホルへさん

 まぁその辺は世論も同罪です。外交の何たるかを理解しなくなった世論が外交力のない政治家の台頭を許し、そうして出てきた政治家が官僚に枷をかけるのですから。

>まりさん

 一時期までの自民党は損得優先でしたから、曲がりなりにも学習していたような気がしますが、小泉時代から安倍晋三にかけて、一気に退行したイメージがありますね。日本の侵略を肯定するような政治家は過去の失敗から学ばない政治家でもあり、その系譜が現政権にも繋がっているような気がします。
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1日経って思うこと (ノエルザブレイヴ)
2010-09-27 20:35:40
ただ、今日の週刊誌の見出しや新聞の投書を見る限りでは勝ち負けを忘れることは相当に難しいんだろうな、とも思います。
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本気で言っていたら (不肖の弟子)
2010-09-27 22:02:24
小泉時代と同じように「強制退去させてお終い」にしても自民党とかその支持層は文句を言いそうです。

外交を是非はともかく損得でなく「勝ち負けで考える」というのは対米追従の典型例と見なすことは言い過ぎでしょうか。
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-09-27 23:17:08
>ノエルザブレイヴさん

 損得は度外視できても、勝ち負けにはうるさいのが世論のようですからね。

>不肖の弟子さん

 今日の記事を書いてから見つけたのですが、産経新聞で谷垣発言を叩いてましたね。自民党内でも若手が何かと吹き上がっているとか。小泉や谷垣の方がマトモに見えてしまう状況って何なんだろうと思います。
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追加して思うこと (ノエルザブレイヴ)
2010-10-05 12:33:46
そういう観点から考えると先の参院選で自民党が「いちばん」なるキャッチフレーズを打ち出したのは戦法としては上手かったのだなあ、と思います。
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