非国民通信

ノーモア・コイズミ

痛みを伴わない改革を目指せるか

2011-10-12 23:11:15 | 政治・国際

TPP、180議員が反対署名…大半は民主(読売新聞)

 野田首相が環太平洋経済連携協定(TPP)交渉について、参加表明の意向を固めたのは産業界の国際競争力強化により、経済成長を促す狙いがあるが、慎重論の根強い政府・与党内に深刻な対立を生む可能性もはらんでいる。

 首相にとっては、意見集約に向け、指導力が問われることになりそうだ。

 TPPを巡っては、反対する民主党議員らで作る議員連盟「TPPを慎重に考える会」(会長=山田正彦前農相)が署名活動を続けている。政府に交渉不参加を表明するよう求める内容で、8日現在で、署名に応じた国会議員の数は180人に上り、大半が民主党議員だという。

 山田氏は署名が200人を超えた段階で、政府に提出する考えだ。また、同議連として近く、大規模なTPP反対決起集会を開くことも検討しており、議連の役員は「不退転の決意で戦っていく」と述べ、推進派の説得には応じない考えを強調している。


TPP交渉参加、異論相次ぐ=意見集約は難航必至―民主(時事通信)

 民主党議員を中心とする「TPPを慎重に考える会」(会長・山田正彦前農林水産相)が同日、国会内で開いた会合には、TPP交渉への参加に否定的な約50人が出席した。山田氏は「(執行部は)早期に結論を出したいようだが、TPPがどういう内容なのか、われわれも国民も分かっていない」とけん制した。 

 さて、民主党内閣が参加を表明しているTPPですが、民主党議員を中心に反対派が結成されているようです。民主党は相変わらずですね。執行部が合意形成を軽視するのは小泉政権以降に共通のことであって今の民主党に限ったことではないにせよ、そこに民主党ならではの拙劣な党内抗争が絡むと、下手をすれば当の民主党こそが最も内閣の足を引っ張っているみたいなケースにもなるのでしょう。ともあれ反対派議連は「TPPがどういう内容なのか、われわれも国民も分かっていない」上に、「推進派の説得には応じない考えを強調している」とのこと。わかっていないから説明責任を果たせと迫るのなら筋が通りますが、どうもTPPを批判的に検討しようというのではなく最初に否定ありき、全否定の構えが取られています。これは手強い。

政府は自由貿易協定(FTA)交渉にしても、ちんたらやっているが、それではいけない。米国とも率先してFTAを結ぶべきだ。東南アジア諸国連合(ASEAN)はじめ農産物の輸出国とのFTA締結は農業分野が障害と言われているが、反対しているのは生産者ではなく、役所と関係団体にすぎない。コメなどの基幹農産物については、不足払いの仕組みをキチンとつくり、所得の補償を担保してやれば生産者は反対しない。米国とFTAを結べば、日本は得るものの方がはるかに大きい。FTAを結ぼうと、日本が本気で提案したら、むしろ米国の方が恐れるだろう。 ―――■小沢一郎ウェブサイト■

 巷のうわさによれば反対派には小沢一郎に近い議員も多いなんて話を聞きますが、言うまでもなく小沢は対米FTAを持論としてきたわけです。小沢シンパだったらむしろTPPには肯定的な方が自然に見えますが、それよりも小沢の仇とばかりに現執行部のやることなすことに反対するみたいな人が多いのかも知れません。まぁ、ある種の「反動」に沿って動いている人も少なくないのではないでしょうか。何かしら自分の嫌いなものに反対するためなら、それがダブルスタンダードになろうと全く気にかけていない様子の人も少なくありませんから。

 TPP参加に踏み切ろうとしているのが自民党内閣であったなら賛成に回る人や、あるいは小沢が民主党のトップであったなら賛成に回る人もいることでしょう。ある種の「党派性」みたいなもので左右されるところもあるはずです。一方、いつでも外国(周辺国)を日本に対する脅威と見なし、防衛手段の増強を訴えているような人がTPPに反対の姿勢を示すとしたら、それはそれで筋が通っているように思えるのですが、こういう人に対して反動的な態度を取っている人の場合はどうなのか、この辺に私は疑問を感じています。

 軍事力の強化に頼らずとも、話し合いで戦争は回避できると説く人もいるわけです。まぁ、私もそう考える1人ですけれど、しかるに外交努力によって軍事的衝突は避けられると主張する一方で、軍事「以外」の衝突に関しては話し合いによる解決の可能性を微塵も考えていないばかりか、むしろ外交関係の破談を自明の真理として論を進めたがる人が多いように思います。経済摩擦しかり、食糧問題しかり。

 「○○が攻めてきたらどうする」と我が国の先軍主義者は説きますが、ハト派は「そうならないように外交に力を入れなければならないのだ」と応えます。戦争が起こることを前提として軍事的手段による解決を目指すのではなく、まず戦争を起こさせないための努力をする、軍隊ではなく話し合いで物事を解決しようと考えるわけです。ところが、これが非軍事的な問題となるとどうでしょうか。とりわけ食糧問題では「○○が売ってもらえなくなったらどうする」と、軍拡論者のそれと酷似した前提に沿って話が進められがちです。私に言わせれば、そうならないように国際協調関係を構築していかねばならないのですが、どういう訳かハト派もしくは左派と目される人の大半は、外交関係が破綻した後に来る事態への防衛策を訴えるばかりで、衝突が起こる前に話し合いで解決しようという姿勢を垣間見せすらしません。どうやら外交努力によって回避できるのは戦争のみ、と信じられているようです。

 軍事的な面では諸外国を敵と見なす姿勢に反対の立場を取る人も、というより反対の立場を取っている人ほど、貿易や食糧問題に関しては諸外国を日本に対する侵略者として考える傾向が強いような気もします。そして戦争は話し合いで避けられると語るその口で、貿易や食糧問題に関しては正反対の態度を取るわけです。たぶん、軍隊好きの排外主義者に対する反動で動いているだけで、心の底では外交努力による問題解決の可能性など信じてはいないのでしょう。こういう人たちには率直に失望しますし、むしろ反グローバリズムを掲げたナショナリズムという形で排外主義に結びついていくところもあるように思います。

 国内に目を転ずれば、今さら栄光ある孤立を気取って門戸を閉ざしたところで、何も解決するものはありません。好むと好まざると世界の波の訪れは避けられない、その中でいかに上手く立ち回るかを考えるべきでしょう。現内閣が説くほどに急ぐ必要があるのかはさておき(ただ、受け身であるより主体的に関与していった方が日本の居場所は確保しやすいものと思われます)、いつまでも現状維持ではいられません。何を変革するにしても普通は「痛み」を伴うもので、その「痛み」を脅しに使って変革を止めようとするのが近年の政財界では標準的な振る舞いみたいなフシがないでもありませんが(派遣法改正や最低賃金引き上げ等々)、ともあれ日本だけが旧態依然としたままではいられないのです。

 時代の趨勢が不可避的に変化していく中で利益を得る人も出れば、不利益を被る人も当然ながら出てくるものです。利益を得る人にはしかるべく課税し、不利益を被る人にはしかるべく保障していくことで対応していくほかありません。しかるに、この変革に伴う「痛み」を金銭的に保障していくと、左派は「札束で頬をひっぱたくやり方だ」みたいに詰り(この傾向は原発事故後は目立って強まったように思います)、右派は「既得権益保護だ」と叫ぶわけです。変化に伴う不利益を被る人に保障をしていくのは、往々にして国民の幅広い層から反発を買うものとすら言えます。

 では、どうすれば反発を買わないのか。最大公約数的な支持を得た回答が「痛みに耐えよ」というものでした。金銭的な保障をしていくのではなく「(これは正しいことのためなのだから)痛みに耐えよ」と説く、こういうやり方を採った首相が最も国民の賛同を集めたわけです(もっとも、行われた改革はグローバル化に適応するためというより、ガラパゴス化を深めるためのものでしたが)。もちろん私はこうしたやり方に反対なのですが、世間はどれほどのものでしょう。口先では小泉政権のやり方に批判的であるかのごとく振る舞う人もいますけれど、一方で変化に伴う「痛み」を保障することに、やれ「札束で頬をひっぱたくやり方だ」、やれ「既得権益保護だ」と憤るとすれば、結局のところ「痛みに耐えよ」に行き着くしかないわけです。こうなると、不利益を被る人を切り捨てて世界の変化に付いていくのか、それとも「痛み」を脅しにして世界の変化に背を向けるのか、絶望的な二択になってしまうものなのかも知れません。

 

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12 コメント

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Unknown (amanojaku20)
2011-10-12 23:51:10
私が先日TPPに慎重的な文を書いたのは
自給率がどうのこうのと言うより(原油や肥料を外国に依存してる日本が100%自給なんて不可能でしょう)、

>>不利益を被る人も当然ながら出てくるものです。利益を得る人にはしかるべく課税し、不利益を被る人にはしかるべく保障していくことで対応していくほかありません。

>>やれ「札束で頬をひっぱたくやり方だ」、やれ「既得権益保護だ」と憤ると、結局のところ「痛みに耐えよ」に行き着くしかないわけです。

この辺りが不安なんですね。農産物の輸出入も自由化されると言う事は高い価格で売れる物を育てる農家は存続できますが、価格競争が激化する作物を育てる農家はやっていけなくなる訳です。当然その辺りのケアしていく必要があるのですが、その辺りこの国は不利益を被る人達のケアをちゃんと考えてやれるのか、自己責任論を振りかざさないかどうにも不安で、TPPを結んで大丈夫だろうかと慎重論になってしまうんです。


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Unknown (yasu)
2011-10-13 20:10:05
原発問題でも、「断固反対!!」ばっかりまじめにエネルギー政策のことを考えてる人って少ないところに弱さがあるんだと思います。
これも停電になったらどうするんだなと煽るのではなく普段から、どうやって確保・維持していくのか議論していくべきだと思うんですよね・・・
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Unknown (非国民通信管理人)
2011-10-13 23:31:19
>amanojaku20さん

 ただTPP断固反対と訴えたところで、何か事態が好転するアテがあるのか訝しく思うわけです。「痛み」を脅しにして世界の変化に背を向けるだって、十分に最悪の選択ですから。亀になって甲羅にこもり続けたところで周りは進んでいくわけで、もうちょっと主体的に自国の居場所を確保すべく行動した方が良いのではないでしょうか。変化に伴う「痛み」を保障することに関しては、TPP不参加であろうとも要求されなければならないものですし。

>yasuさん

 全否定と批判的検討は別物ですからね。ただ反対しておけば何かが好転するのか、とりわけ優勢な側、与党側であればその辺まで責任を持つべきだと思うのですが、ただただ相手を否定するばかりで、その先は何も考えていない人も多いようです。
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Unknown (頭痛の種)
2011-10-14 08:59:54
カイジで会長が貧困を解決したいなら、ビシビシ金を送れっと言ってましたが、一面の真理かと。
貧乏の薬は金銭であるはずです。
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Unknown (非国民通信管理人)
2011-10-14 23:08:32
>頭痛の種さん

 結局は金の問題、金さえあれば解決でいる問題が多いですからね。その人が金を稼げるよう取りはからえるような知恵が出せないなら、金を出せばいいのです。しかるに、金を出すより道徳論を振りかざす人が、どこでも幅を利かせているのですな。
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結論ありき (ヘタレ一代)
2011-10-15 12:07:17
農作物の輸入に関して外交的な考えをする人があまりいないのも不安ですね。

「~の野菜は入れるな。国産野菜が売れなくなる」
という自国のことしか考えず、それでその輸入国とどう付き合うのかということは考えないんですよね。

逆に推進派は特に輸出企業のことしか考えていない印象を受けます。他国との付き合い方や市場のルールが変われば国民生活も大きく変わるため、色々と準備が要るはずなんですが、推進ありきで犠牲は考えてないところがあります。

いずれにせよ自分のことしか考えず、全体としてどうするのかが見えないため、いつもの過ちを繰り返すだけで終わる気がします。
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Unknown (非国民通信管理人)
2011-10-15 15:11:27
>ヘタレ一代さん

 立場によって得をする人も損をする人もいますからね。その辺の意見を吸い上げて調整するのが政治の役割だと思うのですが、どうも昨今の政治は「どちらに肩入れするか」を判断するだけで、双方の意見を考慮して利害を調整しようという考え方はしないようです。
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Unknown (ルーピー)
2011-10-15 23:42:50
 何で小沢を支持しないといけないのか、未だに腑に落ちません。自分たちの言いたいことは全部共産党などがいっているのに、どうしてなんでしょうか。赤旗に全部自分の言いたいことが書いてあります。
 自分がインテリだと思っているようですが、好き嫌いのみで政治を騙っている(誤変換!?)人たちですね。「ワイドショー政治」をさんざん批判していましたが、自分が結局は一番そうなっています。「純ちゃーん」といっていたおばさんのことを愚民呼ばわりしているのが「賢者」なんですね。
 あと、そういう人は、この手の問題になると、かならずユダヤ陰謀説をもちだします。情弱って、一体誰のことでしょうか。
 私自身、強制起訴にもTPPにも反対ですし、原発に対しても管理人さんとは意見を異にするところがあります。
 しかし、反対派のなかにそういうどうしようもない人がいることも、原体験として知っています。人格攻撃や過大評価、フレームアップにダブスタで満ちあふれている人が知人にもいます。罵倒されたりしたこともありました。だからこそ、管理人さんの言うことは非常に説得力があると思っています。
 
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Unknown (amanojaku20)
2011-10-15 23:48:01
賛成派は利害調整なんか後でもいいから早く協定を結べって言ってる人ばかりで
反対派が賛成派のそう言う姿勢に対して態度が硬化して断固反対、絶対TPPなんて受け入れぬって感じの印象を受けます。まぁ中には賛成派の態度がどうであれ反対と言うカッチカチな人もいるようですが。

個人的な考えですけど、こういう場合得をする側、何としてもTPPを結びたいと思っている側が融和的な態度を見せるべきだろうと思うのです。

しかしながら、推進派の旗頭である経団連の米倉が慎重派の農相鹿野を弱腰となじったりしてますし、損をする人のケアの事が余り聞こえてこないので、ああ得をする側がこんな態度では慎重派反対派の態度が硬化するのもしょうがないなぁと思うのですよ。





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Unknown (非国民通信管理人)
2011-10-16 13:59:51
>ルーピーさん

 勧善懲悪的な世界観の持ち主ですと、誰かしら「正義のヒーロー」を信じずにはいられないところで、その信仰の対象が小沢になっているところもあるでしょうか。必ずしも支持者の思いと小沢の行動が一致しているようには思えないですけれど、その不一致を説明するものとして諸々の陰謀論が出てくるものなのでしょう。そうしてカルト的な世界観が構築されるわけですね。

>amanojaku20さん

 まぁ確かに、推進派は反対派のことなど歯牙にもかけていないようですから、反動的なモチベーションで動いているのは反対派とは言えるでしょうね。まぁ経団連を含めた利害関係者が、それぞれ自分の立場からものを言うのは仕方がないことで、それを調整するのが政治の役目です。
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