非国民通信

ノーモア・コイズミ

名ばかりコンプライアンス

2010-03-08 22:55:44 | 編集雑記・小ネタ

 もうクビになったので書きますが、前に勤めていた会社では毎月、コンプライアンス(法令遵守)教育とテストが繰り返されていました。まぁテスト内容は毎回ほとんど変化がないため、問題文を読まずに回答項目だけ見て答えを選択して送信すれば済む、実に単純な作業でもありました。要は「我が社では社員のコンプライアンス教育に力を入れていますよ~」というアリバイ作りみたいなものですね。毎月のテストで何か意識が変ったとか、そういう人はほとんどいないのではないかと思います。

 それはさておき、「業務命令ならば不法行為もやむを得ない」みたいな項目があったわけです。これはもちろん、不適切な行為として選択するのが正解です。建前上、不法行為はしてはいけないことになっていますから。しかるに「業務命令ならば不法行為もやむを得ない」を適切な行為として選択する回答者が常に一定数いたようです。だからテストの翌週には社内報で「間違えの多かった項目」として毎回のように取り上げられてもいました。そしてテストの解説によれば「会社が不法行為を命じることは絶対にありません」→「不法行為は決して行ってはいけません」とのことでした。

 本当かよ、と思います。そりゃ建前がありますから、単純に不法行為を行ってはならないと、そう主張するなら理解できます。「会社の命令なら~」と言い出す社員に「身も蓋もないことを言うな、建前ってものがあるだろ!」と説くならまぁ、ごもっともでしょう。しかし「会社が不法行為を命じることは絶対にありません」との理由はどうでしょうか? そりゃ自分の会社は現時点で不法行為を行っていないのかも知れませんが、会社が不法行為を命じた例なんて枚挙にいとまがありません。「会社が不法行為を命じることは絶対にありません」ってのは、また随分と強気に出た言葉です。

 本当に法令遵守を徹底したいなら、「会社が不法行為を命じることは絶対にありません」で済ませるのは甚だ不十分と言えるでしょう。リスク管理が出来ていない。会社側は「自分が不法行為を命じることなど絶対にない」と自信満々であり、不安要素があるとすれば「社員が勝手に不法行為に手を染める場合」だけだと考えているのかも知れません。だから社員さえしっかりと躾けておけばよい、となるのでしょう。しかし、誰にでも間違いや失敗があるように、将来的には自分の会社も不法行為を社員に命じることが出てくる可能性は決して否定できないはずです。そうなった時のリスク管理は出来ているのでしょうか?

 いざ会社が不法行為を命じた時に社員はどうすべきなのか、そうした場合の対応は教育プログラムに含まれていませんでした。会社の立場とすれば「会社が不法行為を命じることは絶対にありません」とのことですから、「会社が不法行為を命じた場合」とは起こりえない事態であり、考える必要もないということなのでしょう。ところが実際には、会社が不法行為を命じることは当然のように起こりうるわけです。そうした「起こりうる可能性」に対する備えを、私が受けてきた社内教育は決定的に欠いていました。

 本当に法令遵守を徹底したいなら、二重の構えが必要ですね。まず会社が不法行為を命じないこと、ここは建前ではあれ明示されていました。ただしそれだけではなく、会社が不法行為を命じても社員が自主的な判断で拒否すること、これもまた重要なはずです。もし会社が不法行為を命じても社員のところで食い止められるなら、その会社の法令遵守は概ね期待できると言えるでしょう。しかし、「会社が不法行為を命じることは絶対にありません」と居丈高に構えるばかりでは、いざ会社側が不法行為を命じた場合、その不法行為は速やかに実行に移されてしまうわけです。これでは法令遵守など期待できるはずがありません。むしろ業務命令を毅然と拒否できる社員を育てておくことこそが法令遵守の第一歩と思われますが、そこまで本気で取り組む会社はなさそうです。どこも熱心なのはコンプライアンスのアリバイ作りまでなのでしょう。

 

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6 コメント

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次元が低いけど (最下層公務員)
2010-03-09 01:18:03
私の仕事では作業車を使う訳です。
坂道に止めてお仕事です。
勝手に車が動き出して事故を起こす自走事故ってのが問題となりました。
残念な事に犠牲者も出てしまいました。
その為にしつこいくらい研修をしました。
ところが、サイドブレーキを引いてるのに起きる、メーカーサイドの事については何も言わないし、どうもしつこ過ぎると思ってました。
結局、余分な要素を取り除くと、これだけ私達は現場の人間に言って聞かせたのに奴らが守らないんです、との管理職のいい訳だけが成立してるんです。
なんの権限もない中間管理職が身を守らなくてはならないって事でしょうが、トップがネオコンだと余計にこんな傾向が強くなる気がします。
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どうしたらいいのでしょう (とーみん)
2010-03-09 01:30:20
法令違反かどうか、その確認をすること自体に障害がありそうです。確認可能な第三者機関が設置されているといいのですが...
何の話かというと、

・・・例えばの話

今の時期、コールセンターでは受験合否ヒアリング業務っていうのがあります。個人情報保護に敏感な昨今、受験生宅に電話をかけ、「どなた」と訊かれた際に、「○○塾の社員です」と(ウソを)言う(ように契約している)としたら・・・
これが法律違反なら拒否/告発すべきでしょうが、法律違反でなかった場合、誰かにそれを確認すること自体が、逆に「守秘義務違反」に問われる可能性があります(だから業務内容一切を口外してはならんという紙に一番初めにサインさせられる)。

・・・なので、上記は例えばの話です。
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あるあるあ・・・ (ベースケ)
2010-03-09 09:31:35
いや本当にありますよねこれ。
特にワンマン企業か、そうでなくとも家族経営的な一部の幹部が運営を牛耳ってる企業には。ていうか、「脱法的手法」を使っていながらそれが違法だと本人気づいていないというか、敢えて気づかないことにしとくというか・・・
「良心的兵役拒否」とか「国際法違反の命令に服従しない」とか、そういう活動の大切さを、「企業戦士」の皆さんも学ぶべきなのかも。
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-03-09 14:30:37
>最下層公務員さん

 現場の注意も大事なのでしょうけれど、車両側に欠陥があればどうにもならない部分もあるはずですよね。そこは双方の注意が必要なはずなのですが、片方にだけ指導を繰り返すのは、仰るように片方だけを「注意が必要な対象」として扱うことであり、その片方に責任を押しつける思惑あってのことなのでしょう。立場の弱い方に責任を押しつけて……

>とーみんさん

 法律に定めのありそうなものですが、意外にグレーゾーンとして温存されている部分もありますからね。あるいは、法律上はクロでも黙認が慣例化しているところもあるでしょうし。明らかに虚偽の回答をすることは問題がありそうですが、我らが政府を見ても「政府の方針通りなら嘘でも許される/政府にとって不都合なら真実でも情報漏洩」みたいなところがありますし。

>ベースケさん

 結構、法に照らしてどうこうというのではなく慣例として許されているかどうかで判断されている部分も多いと思うんですよね。本来なら世評を気にして違法/脱法行為は避けたがるはずの大企業でさえ、慣例的に黙認されていれば偽装請負などには平気で手を染めますし。結局は力関係、許されることなら違法かどうかは気にしない、社員側も会社の命令なら決して背かない、そういう人が育てられているようです。
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立て看板 (最下層公務員)
2010-03-15 20:09:33
不動産の社員が立て看で現行犯逮捕されて、看板を持たされて警官に写真をとられてる場面に出くわしました。
私の友人が工務店に勤めていた時、これでやはり捕まりました。
軽犯罪法違反だとか言ってましたかね。
立て看を立てて来いって業務命令されても捕まるのは社員だけ。会社は一切罪を問われないそうです。
「私は軽犯罪法違反をしたくありません。」って言ったら即クビですけどね。

これと似たケースで、ダンプ等の過積載問題は今は殆どなくなりました。
ダンプの過積載は、ダンプが個人経営(かつての持ち込み)だった場合でも、お客である方も連帯責任とした為に、それはもうピタッとなくなりました。
この法令改正前には正規のダンプは11立米(立方メートル)のところを21立米も積んで夜中にブレーキが効かない状態ですっ飛ばして稼いでいたなんて事もあった様です。
こうした事を止めさせるのってそれほど難しくないんですよね。
不動産や風俗の立て看なんてのは大して重要課題って訳ではないですから、民主党がこれに手を付ける優先順位には入ってないでしょけど。
トカゲの尻尾きりってのも自民党と同じ香りの民主党としては永遠に手つかずって事になりそうです。
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-03-15 23:20:28
>最下層公務員さん

 その辺もやはり、会社が不法行為を命じることはないという建前が幅を利かせているんでしょうね。雇用者側に責任を取らせるようにすれば、わざわざ社員が不法行為を行うこともなくなりそうなものですが、社員に責任を押しつけて会社を守る、それが基本路線のようですし。
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