非国民通信

ノーモア・コイズミ

Co., unLtd

2012-04-08 11:00:47 | 社会

東電、福島の木くず拒否…積み上がり発火恐れも(読売新聞)

 東京電力福島第一原発事故の影響でがれき処理が問題になる中、製材で発生する木くずでも、受け入れを巡り業者が苦境に立たされている。

 一部で高い濃度の放射性セシウムが検出されたこともあって、行き場を失った木くずは福島、栃木両県で計約2万5000トンに上る。業者は東電の火力発電所で燃料として使ってほしいと要請したが、東電は拒否。林野庁などは「風評被害をあおりかねない行為」として、近く東電に受け入れを要請する。

 「このままでは工場の操業がストップしてしまう。廃業に追い込まれる業者も出るだろう」。福島県内の製材業者など約200社で作る県木材協同組合連合会(福島市)の幹部は頭を抱える。

 悩みの種は、木を切り出し、製材する過程で剥がす樹皮。通常は、堆肥や家畜の寝床用に1トン1000円前後で引き取られる。

 だが、原発事故後の昨年8月、林野庁の調査で一部の樹皮から1キロ・グラム当たり最大約2700ベクレルの放射性セシウムを検出。その後は同200~300ベクレル程度に下がり、国の定める堆肥の基準(同400ベクレル)より低くなったが、それでも、毎月4000トン発生する樹皮のうち、引き取ってもらえるのは4分の1程度だ。

 連合会によると、現時点で計2万トンが業者の敷地内などに仮置きされている。圧縮しても高さ4~5メートルほどに積み上がり、発酵して発火する恐れもあるという。同様の問題は隣接する栃木県にも及び、3月時点で十数業者の抱える計約5000トンが処理できない状態だ。

 

 この辺は各地で受け入れ拒否を訴える人が騒いでいるガレキ処理の問題と似たところがありますね。いかに線量が基準値を下回ろうとも、それを忌避する人は後を絶たないようです。そんなわけで計2万トンが仮置きの状態となっており、時に発火の恐れもあるとか。反原発論に煽られるがままに放射線の影響を誇張して語っては世間に恐怖と偏見を振りまいてきた人々の害は、こういう場面でも顕著と言えます。

 しかるに、「業者」とやらが「東電の火力発電所で燃料として使ってほしいと要請した」そうです。これが特定業者の暴走なのか業界団体の総意なのか報道からでは情報が不足しており不明ですけれど、端的に言えば不当要求の類でしょうか。だいたいにおいてクレームとは何もないところから発生するのではなく、店舗なり業者なりに何らかの非があって、その非を過剰に咎め立てては店舗/業者側の責任範囲を大きく上回る補償を要求するみたいな形で発展していくわけです。この「非」の部分は謝罪するなり弁償するなりの対応が求められるにせよ、だからといって無限に相手を責めることが許されるものではないことはご理解いただけることと思います。発端はクレームを受ける側にあっても、時にクレームを申し立てる側の方が悪質になることもありますが、今回もその例に漏れないようです。

 もしかしたら問題の「業者」は本気で火力発電所の燃料に木くずを使えるとでも思っていたのかも知れません。木くずなどを材料としてバイオマス燃料を作る動きはあったにせよ、それはどこの火力発電所でも可能なことではないわけです。皮肉なことに、福島にある常磐共同火力(東京電力と東北電力の共同出資)の勿来発電所では「東北初の本格導入」として「2011年3月から」木質バイオマス燃料を使った発電を始める計画「だった」と伝えられていますが、今はどうなっているのでしょうか。ともあれ原料の一部が木くずであろうとも、まずはペレット状に加工しないと燃料として使えないことは言うまでもありません。火力発電所にいきなり木くずを持ち込まれても、それは業務妨害にしかならないのです。原発と原爆の区別すら付かない人が目立つ昨今ですから、火力発電所と焼却場の区別を付けられない人がいたって不思議ではないのでしょうけれど……

 しかるに「林野庁などは『風評被害をあおりかねない行為』として、近く東電に受け入れを要請する」そうです。林野庁の人の頭の中身が心配です。日頃は脚光を浴びることの少ない地味な官庁だけに、ここで一つ東京電力に噛みついて世間に存在をアピールしてやろうとでも思ったのでしょうか。民主党議員の無責任体質が官僚にまで伝染したとなると、ことは大いに深刻です。もちろん木くずの処分を拒む業者や反対運動を起こす住民に対して林野庁が指導するなら分かりますが、東京電力に対してその対応は、いくら何でも無理が過ぎます。何もかもを東京電力の責任に帰してしまえと言うのが政府の方針であるにせよ、実際に風評被害を煽っている人や、煽りに乗った人にだって問題はありますし、電力会社に金銭的な補償と求めるだけではなく木くずを燃料として使えなんて不可能な要求を飲めと迫るようでは、それこそ悪質なクレーマーと大差ありません。

 犯罪者に人権などない、犯罪者には何をしたっていい~みたいなのと丸っきり同じ発想が昨今の電力会社を巡る言論には表れています。犯罪者であっても無限に罰せられるべきものではなく刑は罪に応じたものでなければなりませんし、未成年犯罪者や親族のプライバシーが興味本位で晒される類のことはあってはならないことのはずです。そして電力会社に対して金銭的な補償を求めるにしても、それは適切な範囲というものがありますし、同様に電力会社には何をしても許されるわけではありません。にも関わらず、不可能であることが明白な要求を東京電力が拒んだからと林野庁が「風評被害をあおりかねない行為」と称して強権を振るうとあらば、それはすなわち「おまえに反論する権利はない、おまえは何を言われても黙って受け入れろ」と迫っているのと同じことです。

 

東電、依願退職460人=例年の3倍超―若手中心(時事通信)

 東京電力の2011年度の依願退職者は、合計で約460人と、例年の3倍を超える人数に上ったことが6日分かった。関係者によると、そのうち半数程度が30歳以下の若手社員。福島第1原発事故に伴い、同社は年収カットを含む経営合理化を迫られている。さらに公的資本注入による実質国有化などで、会社としての将来像が不透明になっていることが、依願退職の増加の背景とみられる。

 東電は事故後、管理職は25%、一般社員は20%の年収カットを実施。今春に続き、来春も新卒採用を中止するほか、夏のボーナスの支給取りやめも検討している。このまま大量の人材流出が続けば、電力の安定供給や賠償支払い業務などへの影響も懸念される。 

 

東京電力、今夏の賞与見送りへ 近く労組に提案(朝日新聞)

 東京電力は、この夏の社員へのボーナス支給を見送る方向で検討に入った。昨年の夏と冬の賞与は前年比で5割カットしていたが、1兆円の公的資本受け入れや値上げに理解を得るには、さらに経費を削減する姿勢が必要だと判断した。

 近く労働組合に提案する。東電と政府の原子力損害賠償支援機構が今月中にまとめる予定の総合特別事業計画にも、10年間で3兆円を超えるコスト削減策の一環として盛り込む。

 

 一口に修正主義者という過去の歴史を歪曲しようとする人々が思い浮かびますが、世間で「修正」の対象にされるのは旧日本軍の行為ばかりではありません。極右であれば日本軍による殺戮行為を「なかったこと」にしようとする、経済誌を受け売りする知ったかぶりであればバブル崩壊後の専ら中高年を狙い撃ちにしたリストラの嵐を「なかったこと」にしようとする、ポピュリストであれば公務員の給与水準が年々下がり続けていることを「なかったこと」にしようとする、そして昨今は東京電力で進行中の給与カットや人員削減をを「なかったこと」にしようとする人がいるわけです。いかにコストが増大して従来の電力料金での運営が不可能になろうとも「自助努力が足りない、リストラでやるべきだ」と馬鹿の一つ覚えで現実に向き合おうとしない人が喝采を浴びたりもしています。こうした現実に起こったことを「なかったこと」にする否定論者が世間に受け入れられてしまうことには危機感を覚えるばかりです。

 それはさておき、世間的な同情を集めている人間の人権を擁護するのは簡単です。「無垢な」子供であったり「一方的な」被害者であったり、こうした立場に味方する人はいくらでもいます。でも、何らかの「非」や「負い目」のある相手に対して我々の世間は冷たいものです。例えば犯罪の加害者もしくは容疑者のであったり、社会保障の受給者であったり等々、こちら側の人々に対してはむしろ拳を振り上げるのが正義みたいなノリも少なくありません。だからこそ、問われるものもあるのではないでしょうか。世間的な非難を浴びている人の人権をも尊重できるかどうか、そこで本物かどうかが問われます。世間の同情を集めている人の人権しか尊重できないようであれば、それは幼稚な正義感を振りかざす野蛮人でしかないと思うのです。

 JALの大規模リストラの時だって、必ずしも労働者側に十分な同情が集まったわけではありませんが、それでも一方的な給与カットや年金の減額、退職強要など労働条件の不利益変更の類には反対の声を上げる人も多少はいたものです。しかし、同じことが電力会社に対して行われている今、そこに異議を唱える人がどれだけいるのでしょうか。電力会社社員にも負い目があってなかなかリストラ圧力に抗いにくい環境であろう今こそ、周りの人間が声を上げる必要があるはずです。しかし、犯罪の「被害者」の人権は尊重できても「加害者」の人権は蔑ろにする人と同様に、日頃は労働者の権利を重んじる風を装いつつも電力会社社員の労働者としての権利を無限に否定している人が溢れています。それが正体なのでしょう。あなたの会社が世間の非難を浴びるようになったとき、あなたの給与を好きなようにカットできる、もしくはあなたを首にできる、そういう社会を目指して我々は突き進んでいるようです。

 

 ←応援よろしくお願いします


コメント (6)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 橋下がそう思うんならそうな... | トップ | 万年課長はどこへ消えた? »
最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (プチ左派)
2012-04-08 14:38:32
労働者叩きが公然と行われるようになったのはここ数年のことではないでしょうか?
ポピュリズム政治家が、正規労働者や労働組合を既得権と称して叩き始めたのがきっかけのように覚えています。
2ちゃんねる以下の糞溜めと言われているのを知りながらヤフーコメントを見ると、本当に無知をさらけだす馬鹿者ばかりで頭がクラクラします。

先日、神戸市の労組が経営する喫茶が未許可だったということが大々的に叩かれていました。未許可はそうなんでしょうが、あれは職員のみにコーヒー等を出す店。不特定多数を相手に営業していたわけではない。いわばどこの会社にもある「コーヒー会」の延長のようなものです。
その程度のものに目くじら立てる必要があるのか?と思います。

とにかく今は労働者を既得権扱いして叩いておけばウサが晴れるといった風潮。東電がそれで実害が出始めているように、そんな杓子定規なバッシングをしているといずれは自分の首を絞めることになることすら理解できてないようです。
返信する
Unknown (非国民通信管理人)
2012-04-08 18:48:10
>プチ左派さん

 ある意味、労働者を打倒すべき階級敵と見なしているかのごとき世界観が蔓延している感じがしますね。労働者の権利をことごとく否定して、全てを雇用主の御心に任せよと、それが「改革」と称して説かれている有様ですから。そして、この類に批判的だった人まで、ことが電力会社に及ぶと労働者を叩く側に回っているくらいですし……
返信する
Unknown ()
2012-04-08 23:06:44
先日橋下大阪市長に関してのコメントと微妙にかぶりますが、「どうすれば物事を円滑に解決するのに最適な方法となるだろう」という視点が昨今は著しく欠けているように強く感じます。物事が倫理観、それも悪者と見なしたものを叩くという視点ばかりで進められていることは強く危惧します。

原発事故以降、東電の担う仕事は事故以前よりも遥かに困難なものが増え、全体の仕事の量もまた増えているでしょう。そうである以上、たとえペナルティを課したい衝動に駆られたとしても、その困難な仕事をこなせる態勢を作ることが事態を打開するための最善策のはずです。しかしながら、現実にはペナルティを課すことばかりが重視され、人材流出などにより東電の業務遂行能力は低下する方向にばかり動いています。

給料は下がり、世間からは悪魔のように扱われ、仕事はより厳しいものになっている・・・これでは(楽に転職できるほどに)高い能力を持つ人材ほど流出するのは当然でしょう。しかし仮にそれで物事が上手く運ばなかったとき、ペナルティを課すことばかり主張していた人達が「あの判断は間違いだった」と言うのならまだいいですが、彼らはきっとそのときも「東電の奴等は何をやっているんだ。真面目に仕事しろ」と言うであろうことを考えるとクラクラしますが。
返信する
Unknown (非国民通信管理人)
2012-04-09 00:03:10
>毛さん

 そうなんですよね、起こっている問題、課題をどう解決するかではなく、「犯人」をいかに罰するかに重点が置かれている気がします。勧善懲悪の世界に生きている人にとっては「悪い奴」をやっつけさえすれば、全ては救われるのかも知れませんが、実際のところは電力供給や賠償業務をも妨げかねない事態を自ら招いているのですから、頭が痛くなります。
返信する
断罪の社会 (不備)
2012-04-10 01:08:25
 他人の些細な失態を厳しく断罪する人程、
互いの事情や考え方を尊重すれば、およそ出てこないような言葉や態度を無配慮に表出さて他人を詰りますよね。しかも、無難に済ませることを良しとせず、相手が反論しない・できないことを見越して詰る。

 この、安全な所からノーリスクで叩ける相手を徹底的に叩く、というスタイルが、今の社会や生活に蔓延してあたかも是とされているようなことに吃驚し、不思議に思います。

 他者の「瑕疵」を断罪することで、自分の価値が上がることなどないのですが、ネットやメディア等の媒体で「賛同」は得られ易いからか、他者の罪を責めるものは何をしても良い、という誤った認識が蔓延しているように思えます。
返信する
Unknown (非国民通信管理人)
2012-04-10 22:34:45
>不備さん

 しかも、こうした他人の断罪にばかり積極的な傾向を批判的に見ていたはずの人々ですら、その少なからずが原発事故後は「転向」したのか嬉々として電力会社叩きに回っている感じがするんですよね。ある意味、挙国一致状態なんだなぁと、まぁ笑い事ではないのですが……
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

社会」カテゴリの最新記事