非国民通信

ノーモア・コイズミ

誰のためのセーフティネット?

2008-01-19 23:04:43 | ニュース

引きこもり:東京都がセーフティネット 予防に特化し支援(毎日新聞)

 東京都は08年度から、不登校経験者や中退者など引きこもりになる可能性がある若者の情報を基に、本人や保護者を支援する「ひきこもりセーフティネット」を始める。予防に特化した支援に行政が乗り出すのは全国初。

 都は区市町村に教育・福祉や、NPO(非営利組織)のスタッフらで構成する連絡協議会を設置。中学や高校から、退学したり不登校の生徒に関する情報提供を受け、支援が必要なケースでは積極的に保護者への相談に乗り出したり本人に訪問面談する。地域の特性も加えた独自の対策案を各自治体から募り、効果が高いと判断した3カ所をモデル事業に指定する。

 また、引きこもり予防のため、家族を支援する「対策マニュアル」も初めて作成する。保健所、NPO、都立校など約720機関と約50人の経験者を対象にした07年度のアンケートや面談による調査結果を活用し、予防に役立てる。都は08年度予算に「若年者自立支援経費」として2億円を計上する。

 何なんでしょうね、セーフティネットだそうですが、誰の安全を守るためのセーフティネットなんでしょうか。こちらのブログでも軽くツッコミが入っているわけですが、字面だけから考えるなら、そこに落っこちたときに安全でいられるように機能するのがセーフティネットのはず、しかしここに引用した記事を読むだけでも、セーフティネットというよりは投網に見えます。

 要約すると、第三者からの情報提供に基づき引きこもりになる可能性がある若者を訪問、施設や保健所などに放り込むと言ったところでしょうか。この手の行為は先例も多く死者も出ているわけですが、一向に改められる様子がありません。戸塚ヨットスクールを支援する会の会長が君臨する自治体の肝煎りでそれが行われるとなると、相当に暴力的な、強制的な形で執行されるものと予測するのが自然でしょうか。

 「引きこもり」が予防すべきものなのかそうでないのか、まずこの時点で議論の余地があります。しかしこの疑問を省略し、予防すべきものと断定した上での「支援」が強行されるわけです。そして「可能性がある」相手への措置であることも問題です。確かに可能性を類推することは出来ますが、かといって先のことは誰にもわからない、引きこもりにならない可能性もまたあります。そこで「可能性」のために「支援」が強行されるのはいかがでしょうか。「君は犯罪を犯す可能性があるので拘禁する」そんなところかも知れません。都知事や支持者が好みそうなところですね。

 この「支援」が第三者の情報提供に基づいて行われるところが、「支援」する側の思惑を象徴しています。つまり、当事者ではなく第三者の意思でそれが行われること、「引きこもり」本人ではなく、外部の意思がそれを主導していることです。引き籠もる本人の望んだ結果としての支援ではなく、それを取り巻く周囲が望んだ結果としての支援、それは少なくとも当事者のためではありません。

 「引きこもり」なり「引きこもりの可能性がある若者」にとって何が望ましいのか、彼ら自身は何を願っているのか、それを考慮に入れた上での「セーフティネット」ではないのは明らかです。そうではなく、支配する側が「引きこもり」やその予備軍を自分達に都合の良いように作り上げるためのセーフティネットではないでしょうか。つまり、低賃金労働者を多く必要とする社会にとって、働かない人間を抱えることは大きなリスクであり、そのリスクを回避するためのセーフティネット、それが「ひきこもりセーフティネット」の正体なのです。それが安全網であるとしたら、それはあくまで支配する側の人間にとってであり、「可能性がある若者」にとってのそれは自らを捕縛し獲物としようとする投網に過ぎません。

 

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