非国民通信

ノーモア・コイズミ

追い風は都合良く吹かない

2012-01-29 11:23:37 | 社会

 さて東京電力の値上げ計画は予想通りの反発を買っているわけですが、半年と少し前を思い起こすと、値上げ案がむしろ電力会社に否定的な人々の側から上がっていたような気がしないでもありません。電力不足に対応すべく需要ピーク時の電力使用を抑制しなければならない、そのためにはピーク時間帯の電力料金を値上げすれば良いのではないかとか、そういう提案をする人もいたはずで、この値上げ計画に関して囂々たる非難が寄せられたということはありませんでした。どちらも値上げには変わらないのですが、どうしてでしょうね。

 結局のところ、電気の利用を制限するためとか原発を潰すためとか、そういう動機での値上げは社会的に許容されるけれど、電力会社を存続させるという面が表に出ると、社会を支えるインフラの安定に責任を負うはずの政治家からすら強い反発を買う、そういうものなのかも知れません。誰か(何か)を罰するためならば許されることでも、誰か(何か)を助けるためと目されれば国民の怒りを買う、そして政治家もそれに迎合するというわけです。電気を「使わせない」ための値上げはアリでも、今後とも安定的に電気を「使えるようにする」ための値上げはネガティヴにとられるのですから、まぁ嫌な話です。

 

北海道の風力発電所、10年で廃止…コスト重荷(読売新聞)

 オホーツク地方で唯一の風力発電施設の北海道興部おこっぺ町風力発電所が修繕費調達難のため、完成から約10年で廃止となった。

 東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故後、風力発電が注目されているが、小規模風力発電施設が直面するコスト高の課題を露呈した格好だ。
 
 同町の風力発電所は2001年3月に完成。風車1基で、建設費約1億9000万円のうち独立行政法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」がほぼ半額を、町が約5000万円をそれぞれ負担した。町の農業研究施設に電力を供給、余剰分は北海道電力に売電し、売電収入は約9年半で計6170万円。6430万円の維持管理費とほぼ均衡していた。
 
 しかし10年10月に欧州製の部品が破損。交換には高所作業も必要で、修理に約4000万円かかることが判明した。修理費は全額町負担で、町は「コスト面で運転再開は困難」として、昨年11月に発電所廃止を決めた。風車を固定し、モニュメントにする予定だ。

 別に小規模なものでなくとも風力発電の採算性は微妙のようで似たような事例には事欠きませんが、この風力発電が変に期待されるようになっているのですから大変です。独立行政法人の類が金を出してくれるからと安易に風車を立てたところで維持管理費だって安くないのですから、もうちょっと建設はシビアに考えるべきなのではないでしょうか。昨今では電力の自由化だの新規参入だのが喧しい一方、発電した分を発電した分だけ自動的に既存の電力会社に買い取らせようと、規制緩和とは全く逆行する動きも強いわけです。ただ本当に自由になったら既存電力会社側に「今は電力は足りてるので買い取りません」と判断する自由があって当然と言えます。ダブルスタンダードが基本の我が国でそのような事態が起こるとは考えにくいにせよ、風力発電をアテにするのはどうなんだろうと思わないでもありません。将来へ向けての研究開発や試験運用を続けるのは良いことですが……

 日本語で「リストラ」と言ったらとにかく人員削減や給与カットを指し、現に東京電力が強いられているのもこれでありますが、経営再建のために切り捨てられるのは従業員だけではないわけです。なんだかんだ言って風力発電なり太陽光発電なりへ積極的に金を出しているのも東京電力など既存の電力会社で、これが経営合理化を迫られるとなるとどうなるのでしょう。ある意味、広報活動の一環としては悪くない投資なのかも知れませんけれど、必要なときに発電できるとは限らず採算性も微妙な代物をどこまで維持拡大できるのやら。電力会社を追い詰めた結果として風力発電や太陽光発電の縮小を招くとしたら、何とも良いお笑いですね。

 それはさておき「日本は資源がないから~」との枕詞は頻繁に聞かされます。まぁ、化石燃料資源に乏しいのは確かです。だから化石燃料に頼らぬ方策を検討しなければならないということになるのでしょうし、とりあえず特定の資源への依存はどこの国であろうと避けるべきものだとは思います。ただ、日本にも資源はある、エネルギー源としての資源はあるはずです。地熱? いえいえ、いかに火山国といえど日本の人口規模からすれば地熱もまたアテにできるレベルの代物ではありません。そんなものではなく、豊富な雨量と高低差に富んだ地形、これこそ資源なのではないでしょうか。

 つまり、水力発電です。豊富な雨量と高低差に富んだ地形は水力発電にはうってつけです。水力発電は既に開発限界に達したとの声もあります。ただ開発限界とはコスト概念を含んだものと理解していますが、違うでしょうか? 石油が枯渇すると言われ続けて数十年、価格は高騰しながらも石油の流通は続いています。地面に穴を開ければ湧いて出るようなレベルの資源が枯渇して原油価格が高騰すると採掘のために投入可能なコストが増える、そうなると地底や海底の奥深くから石油をくみ上げても採算が取れるようになる、結果として化石燃料は枯渇すると言われながらも流通を続けてきました。

 レアアースなんかはもっと典型的で、実は世界中の広いエリアで採れるらしいです、コストをかければ。しかるに中国でコストをかけなくても簡単に採掘できる鉱脈が開発されると、中国から買った方が圧倒的に安くなる、レアアースのために中国から買う以上のコストを投入するのが難しくなる、レアアースが中国でしか採れなくなる――みたいなことになるわけです。もしレアアースの価格が金のような貴金属と同レベルにまで高騰すれば、再びレアアースに投入可能なコストが増えて、世界中の広い範囲で採れるものになるとされていますね。そして水力発電もこれと似たようなものがあるはずです。火力発電や原子力発電と比べてコスト的に遜色のない範囲でという条件付でなら、とっくに開発限界に達しているのでしょう。ただし、化石燃料価格の高騰や、安全管理というより国民や政治家の「理解」の問題で火力や原発のコストが増大することは確実です。そうなれば水力発電に投入可能なコストは必然的に増加する、開発の余地は広がるはずです。

 もっとも、ダム建設ともなるととかく国民の理解が得られない時代でもあります。原子力ルネサンスの次はダム開発ルネサンスの時代が来ても良いのではないかと思うところですが、たぶん無理でしょう。加えてダム開発ともなれば時間も相応にかかります。目下の電力危機を乗り切るための対策としては別のものが求められるところです。まずは原発を含めた震災以前の体制への復旧が先と言わざるを得ませんし。

 用水路などを活用した小規模水力発電なんてのもあります。巨大風車や太陽光パネルを敷き詰めるのに比べれば「環境に貢献してます」アピールこそ弱いものの、効率と安定性では圧倒的に優位です。小規模な設備を分散化させてしまうと管理が大変なことになりますけれど、ここは一つ「特定郵便局長」ならぬ「特定水力発電所長」でも任命したらおもしろいのではないかという気がします。つまり、地主なんかと持ちつ持たれつで設備を運用していくわけです。口を開けば「利権が、利権が」とやかましいカイカク馬鹿には忌み嫌うべき制度になるかも知れませんが、展開の早さ、地元との協力体制の構築、業務委託によるコストの切り離しと、匙加減は問われるにせよメリットは決して小さいものではないと思います。

 

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6 コメント

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脱原発ならコストも負う覚悟を持つべき (プチ左派)
2012-01-29 22:05:27
私は「国民は原発安全神話を信じ込まされていた」というのこそウソだと思っています。
「みんなウソだった~」などという歌がもてはやされていますが、原発の危険性などチェルノブイリの例や敦賀元市長の暴言を見れば分かりきっていることです。「騙されていた」などと言う人は記憶力がないのでしょう(笑)。
本当は「危険性は知っていたけど見ないふりをして認めてきた」だけです。
国が悪い、東電が悪いと○○のひとつ覚えのように繰り返す人達は、その責任がブーメランのごとく自分に返ってくることを理解するべきでしょう。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/post-b33a.html(EU労働法政策雑記帳)

本当に政府も脱原発・代替エネルギー開発に向かうつもりがあるのなら、一時的にしろ国民に負担増になる可能性も訴えなければならないとおもいますが、なんせ今の政権は「世論調査」だの「支持率」だのの人気取りばかりに奔走している政党ですからそれもできないんでしょう。
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Unknown (非国民通信管理人)
2012-01-29 22:49:20
>プチ左派さん

 昔から危険性を訴える人には事欠かなかったはずですよね。むしろ私など、そういう人の言うことを少なからず真に受けていましたし。ひとたび事故が起これば大騒ぎですけれど、それは単にバッシングの格好の標的を見つけただけなんじゃ……と思ってしまいます。そして代替エネルギー開発に相応のコストもかかるわけですが、そのコストを負担する覚悟は一切なし、上手く行かなければ電力会社を責めれば良いと、政治家も有権者もそんな感覚なのでしょうか。
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「国が悪い」でもいいでしょう (fnorder)
2012-01-31 12:15:53
国(というより政府)や東京電力を「悪い」と言うのは別に構わんと思いますよ。

問題は、実際に誰かが悪者だったとしても、そいつを責めただけでは事態は解決しない、ということじゃないでしょうか。

そして実際には「悪い」とは言えても「悪者」とまで言えるものでもなかったりしますが、それはまた別の話で。
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Unknown (やす)
2012-01-31 14:48:23
水力は見落としてましたマジでw
そうですね。

あれだったら安定してますね
ただ環境団体が騒ぎそうですが大きく見れば、原発推進(Co2 25%削減)に比べればリスクは少なさそうですね。
あとは世論ですね・・・
極端に傾く、この世論が・・・
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Unknown (やす)
2012-01-31 15:00:08
プチ左派さんも、言われていますがみんなウソだった(ツイッターでよく見かけますよね、叩かれても開き直ってますが。苦笑)馬鹿は、同時にすでに指摘されていた共産党の議員さん達に対しては、どう思ってるんでしょうね。
社会主義が何しろ「極端な」悪者探しの指標とされるこの国において、彼らはどういう立場を取るのか、気になるところですね。


その水力だって首にされる東電の社員の再雇用の問題にしても。
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Unknown (非国民通信管理人)
2012-01-31 23:13:26
>fnorderさん

 改めるべき点は政府にも電力会社にもありますからね。それはメディアにも国民にも同様ですが。ただ問題は誰かを(今回は東京電力を)「悪者」として名指すことで、責任転嫁していたり、むしろ問題解決を遅らせていたりすることにあります。

>やすさん

 むしろ脱原発の文脈で言われていることこそ「みんな嘘だった」のではないかと思えないでもありません。「原発安全神話を信じ込まされていた」と言うことこそ、全くのウソなわけですし。でもまぁ、自分たちが「悪者」と認定した相手を叩くためなら、捏造も差別も何でも構わないと、その「悪者」を倒すためなら正義なのだと、そう信じ込んでいる人がいるわけですよ。その辺は在特会もオウム信者も、そしてカルト化した反原発論も同じだなぁ、と。
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