非国民通信

ノーモア・コイズミ

シャバの風は冷たい

2007-08-16 20:29:25 | ニュース

刑務所行き希望の64歳男、留置場で同房者の首絞める(読売新聞)

 留置場内で拘置中に、同房の男性を殺そうとしたとして、群馬県警太田署は15日、住所不定、無職碓氷昭夫容疑者(64)を殺人未遂の疑いで再逮捕した。

 調べによると、碓氷容疑者は14日午後10時ごろ、同署留置場の同房で寝ていた男性(30)を殺害しようと、ひも状にした布団カバーで首を締めつけた疑い。男性は軽傷を負った。

 同房にいた別の男性から連絡を受け、同署員が取り押さえた。調べに対し、碓氷容疑者は「以前、刑務所にいたが、食事もあり、生活が安定している。重い罪を犯して、また刑務所で暮らしたかった」と、供述しているという。

 チャップリンの映画で、刑務所から釈放されることになったチャップリンが追い出さないでくれと嘆願するシーンがありましたね、モダンタイムズだったでしょうか、外の風の方が冷たいよ、と。実際のところ刑務所はどこも満杯で、そう簡単に収監するわけにはいかない事情もあるようで、その辺を心得た今回の容疑者は留置所内での殺人に思い至ったようです。殺人の動機にはこういうものもあるのですね。

 凶悪犯罪云々と統計に反するイメージが煽られる傾向とは裏腹に、刑務所の中は高齢者と障害者で溢れています。社会的につまはじきにされた人が押し込められた先が刑務所、ある意味では「福祉の最後の砦」となっているのが実情です。カリフォルニアでは患者を路上に捨てることを禁止する法律が制定されたそうですが、これは病院が治療費の払えない患者を路上に捨てていたことが社会問題化した結果のことで、それが日本とは無縁であるかどうか? 不払いや「自立」のお題目で医療機関や福祉施設から追放された人が、最後の砦として刑務所にすがる、それは決して非現実的なことではないのかも知れません。

 刑務所には、決して受刑者を拒否できないという特徴がある。
 何らかの罪を犯し、裁判所で判決を受けた以上、「あなたは、ここにはふさわしくないし、十分な手当もできないから、福祉事務所か病院に行ってください」と追い返すわけにはいかない。何があっても、決して受け入れを拒否したり、たらい回しをすることができない。
 それが刑務所に与えられた使命である。
 こうした場所は、社会の中で刑務所しか存在しない。
 どのような受刑者であっても、正式に釈放の日を迎えるか、または死亡するまで面倒を見続けるほかない。(『
犯罪不安社会』浜井浩一、芹沢一也)

高齢受刑者の60%超が再入所 5年内、引受人なく生活に不安(共同通信)

 刑務所で服役した65歳以上の受刑者のうち60%超が、5年以内に再び罪を犯して再入所していたことが11日、法務省の法務総合研究所の調査で分かった。出所者の多くは親族らの引受人がおらず、法総研は「若年層に比べて高齢者の再犯リスクは高く、何らかの受け皿をつくるなど抜本的な施策が必要」と提言している。96年から01年に満期出所した65歳以上の受刑者計3157人を追跡調査した。

 再犯率のとらえ方には諸説あるようでして、概ね3%から40%と、非常に大きな幅があります。犯罪不安を煽りたい論者が最大値である40%を持ち出すケースが多いわけでありますが、その40%と比べても高齢受刑者の60%というのは非常に多いですね。65歳を過ぎたとなれば体も思うように動かないでしょうに、それでも老骨に鞭打って犯罪に手を染めるしかない事情があるのでしょうか。

 そもそも65歳以上ならもらえるはずの年金はどうなっているのでしょうか? 現役時代に年金を払えなかったような人には支給しない仕組みですから、やはり年金すらももらえない、65歳以上の前科者では仕事もない、生活保護を申請しても水際作戦で違法に追い返されるということで、結局のところは刑務所しか行き場がないということでしょうか。シャバよりもムショを選ぶ人が過半数の世の中ってどうなんでしょう? 無罪でいるよりも檻の中に閉じこめられていた方がマシ、そう思われる社会になってしまったのなら、もはや罪を犯した人を非難することもできませんね。

 

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3 コメント

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Unknown (Bill McCreary)
2007-08-17 12:22:00
私も、浜井さんの本は読んでいまして、彼が繰り返し強調する「刑務所は来るものを拒めないし、追い出すこともできない」ということは、言わずもがなのことですが、本当に重要なことだと思います。

現実に、刑務所が前科物の姥捨て山兼老人ホームさらには収容所みたいになっているわけでして、世の中の「厳罰主義者」の方々は、この辺をどの程度認識しているのかなと少々疑問に思います。刑務所の収容人数が増えるということは、行政コストの増大につながるわけですけど、一般的に「厳罰主義者」の方は、あんまり福祉とかには関心がないかなと。彼(女)からすれば、それとこれとは別なんでしょうけど。

基本的には、刑務所への入所を繰り返した人たちには、行政が生活保護の手を差し伸べる以外どうにもならないと思うんですけど、それすらも出し渋っているのが現状ですからねえ。どのみち行政コストから考えても、単純に「悪いことをしたやつは刑務所に入れろ」をやっていると、刑務所がパンクして、また新しい刑務所を作る・・・というお粗末な循環になりかねません。そのあたりも考えていきたいと思います。
選択肢 (Chic Stone)
2007-08-17 20:34:26
シャバはそんなにいいところでしょうか?
シャバだけがいいところなのでしょうか?
なぜ「この社会に」復帰しなければならないのでしょうか?

シャバ、ムショ、あの世のどれとも違う、第四の選択肢はないものでしょうか?
ある種のカルトはそれに近いかもしれません。
かつての西洋での修道院、日本での寺もそんな要素がありました。

シャバに居場所がない人間、力のない人間がムショもあの世も選ばずに済むにはどうすればいいのでしょう。
しかも宗教団体でもない、さらに別の選択肢が欲しいものです。
Unknown (非国民通信管理人)
2007-08-17 20:47:31
>Bill McCrearyさん

 どうも厳罰化を訴える人にはコスト意識が致命的に欠けているような気がしますね。野良犬を保健所に送るのと同じ感覚で捉えているのでしょうか、いずれにせよ今の刑務所は満杯の状態で、かつ要介護の人が多すぎて運営が回らない状況と聞きます、刑務所に入らなくても済む、「刑務所に入った方がマシ」などとは誰も考えない社会にならなくてはなりません。

>Chic Stoneさん

 「シャバが良いところであるかどうか」ではなく「シャバは良いところでなければならない」ですね。刑務所やあの世、カルトと比較されたときにシャバの方が素晴らしいと、自発的に選ばれるようでなければならないと思うのです。居場所のない人間にはシャバに居場所を作る、シャバを本当によいモノにしていかねばならないのではないでしょうか。

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