非国民通信

ノーモア・コイズミ

市場に魅力がない

2010-06-24 22:57:04 | ニュース

 「飲めば一生、病気にかからなくなる薬が発明されました。最初の内は爆発的に売れましたが、しばらくすると全く売れなくなってしまいました。なんでだ?」

 ……こういうなぞなぞを聞いたことはありますでしょうか。有名なものなのか、ローカルなものなのかは知りませんが、ちょっと考えてみてください。なぜ「飲めば一生、病気にかからなくなる薬」は売れなくなってしまったのでしょう? 答えは、「みんな薬を飲んで、もう病気の心配はなくなったから」です。では応用編です。

「壊れにくく高品質な電化製品が発売されました。最初の内は爆発的に売れましたが、しばらくすると全く売れなくなってしまいました。なんでだ?」

「高品質で壊れにくい自動車が発売されました。最初の内は爆発的に売れましたが、しばらくすると全く売れなくなってしまいました。なんでだ?」

パナソニック採用の8割外国人 大学生就職深刻になる一方だ(J-CAST)

 日本人大学生の就職難が深刻化する一方で、外国人採用を増やす企業が相次いでいる。国内市場で成長が見込めず、アジアや新興国で事業を強化するためだが、日本の大学生の前途はますます厳しい。

 カジュアル衣料「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングでは、2010年の国内新卒採用者約200人のうち、外国人が約100人だった。11年も国内新卒採用約600人のうち、半数を外国人にする。

 ユニクロが外国人採用を拡大する背景には、海外出店の加速がある。10年8月期上期(09年9月~10年2月)に海外で売上げが倍増し、営業利益は4倍以上となった。5年後には海外事業規模が日本を越えるようにしたいと考えている。

 まずユニクロの例が挙げられています。新卒採用の半数は外国人枠だそうで、これは人件費抑制を狙った新興国の現地採用ではなく、国内採用の話です。人件費が安いから(現地で)外国人を雇うのではなく、敢えて日本国内で外国人(国籍が日本でないだけ、日本生まれで日本育ちの在日外国人は、どちらの枠で扱われるのでしょうね? 新卒採用ですから、外国人=留学生という扱いでしょうか)を優先的に雇っているわけです。つまりコスト削減のためではない、コスト削減のためではなく、海外市場を視野に入れての採用です。国際競争のためにと低賃金は致し方ないみたいな風潮が強いですけれど、どれだけ低賃金を受け入れても雇用が限られるときは限られるということなのでしょう。

参考、日本とは対照的

 中国ではストライキが相次いでいて、今までのように低賃金での労働力確保は難しくなっていると伝えられていますが、一方で撤退を考える企業はほとんどないとも聞きます。理由は、中国市場に魅力があるから。中国市場に魅力がある以上、労働コストが高くなっても中国での事業を続けると考える企業が多いわけです。そして海外市場に魅力があるから、低コストな人材確保ばかりではなく、海外市場向けの人材確保に力を入れる、ユニクロのような会社も多いのでしょう。裏を返せばそれは、日本市場に魅力がないから、国内市場に魅力がないから国内で切り盛りするための人材確保が二の次にされるということでもあります。

   パナソニックの場合、10年度新卒採用1250人のうち海外で外国人を採用する「グローバル採用枠」は750人だった。11年度は外国人の割合を増やし、新卒採用1390人のうち、「グローバル採用枠」を1100人にする。残る290人についても、日本人だけを採るわけではないという。大坪文雄社長は『文藝春秋』10年7月号のなかでこうした方針を示し、「日本国内の新卒採用は290人に厳選し、なおかつ国籍を問わず海外から留学している人たちを積極的に採用します」と述べている。

   同社は中期経営計画で、3年後の売上高を10兆円に設定している。このうち海外での売上げ比率を現在の48%から55%まで引き上げる考えだ。これは海外市場で年間5兆5000億円売ることを意味し、達成すれば海外での販売が国内市場を上回ることになる。2018年度には海外比率を60%以上まで伸ばしていく考えで、裏を返せば、日本の比重が急速に減っていくことになる。外国人採用枠の拡大は、グローバル化を図る上で、日本人よりも外国人が必要と判断したためだ。

 パナソニックの場合は、ユニクロと違って現地採用に近い形が中心のようです。ただ日本国内の採用は抑制方向にあるだけに、こちらの方が日本の求職者にとってはより深刻と言えます。しかしまぁ、特に自動車とか家電製品とか、その辺を主力とし続ける会社の海外流出は避けられないのかも知れません。自動車や家電製品がすぐに壊れるから定期的に買い換えなければならないとか、新製品が出たら古い製品を捨てて新しいものにどんどん買い換えるような消費文化の強い社会であるならともかく、すでに自動車や家電製品など「もの」が行き渡った国で、今まで以上に売上が伸びるなんてことはあり得ないですから。

 そうなったとき、進むべき道は二つあります。一つは、まだ国内に普及していない何か新しいものを生み出すこと、もう一つは、まだ自社製品が普及していない新たな市場に販路を見いだすことですね(それができなければ潰れるだけです)。アメリカの有名企業には前者も少なくない、つまり時代に合わせて主力商品を変えることで発展を続ける企業も多々ありますし、日本の企業だって過去にはそうやって大きくなったところも珍しくなかったはずです。しかるに、昨今の日本企業の場合は後者のパターンが圧倒的に多いように思われます。業態を変えない、「ものづくり」の美学を貫き通すために、業態を変えずに生きる道を選ぶ、そうして海外進出=雇用流出という結果を導いてはいないでしょうか。

 結局のところ、日本は給与所得の減少が続いて購買力は落ちるばかり、心許ない社会保障も相まって貯蓄性向が極めて強く、その上「もの」は普及している、日本の製造業の花形である自動車と家電製品を必要としていながらまだ購入していない人の数など限られているわけです。この三重苦にきっちり対応して、日本の市場としての魅力を取り戻さないことには国内雇用の継続的な増大など見込めないでしょう。欠けているのは企業の強さや個人の努力であるよりも、市場の魅力なのです。

 

 ←応援よろしくお願いします


コメント (7)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 阿久根は今日も最先端 | トップ | しわ寄せはいつも末端に »
最新の画像もっと見る

7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (princessmia)
2010-06-25 18:45:14
ユニクロの記事、新聞で見ました。最近頓に海外進出、グローバル化を目指す企業が増えているように思います。楽天も社内公用語を英語化したようですし、この先大企業を筆頭にこの傾向は強まるのではないのか?と思ってしまいます。特に国内外国人採用枠の増加は、大学生の私からすると困ってしまいますね。
返信する
在特会の出番かも (はぐれ者)
2010-06-25 20:41:10
はじめまして。
いつも見させていただいています。
日本生まれ、日本育ちの在日外国人はこういう場合は「日本人」扱いでしょう。
でも在特会あたりは「在日特権だ」とか言って大騒ぎするでしょうね。それでもって産○新聞や週刊○潮なんかは、極端な例外を探し出してきて「優遇される在日」なんて記事を書くのでしょうね。なんか目の前が暗くなりそう。
返信する
Unknown (非国民通信管理人)
2010-06-25 21:53:14
>princessmiaさん

 ますますもって「ふつう」の求職者には肩身が狭いですよね。海外進出の武器になるような何か(海外出身であること等々)がないと、ありつける職は限られてゆくばかりです。もうちょっと日本市場を開拓できるような、新しい商品を作れる会社が出てくればいいのですけれど……

>はぐれ者さん

 状況次第で日本人扱いだったり外国人扱いだったり、そんな不遇な立場も人によっては「優遇」されているとばかりに扱われてしまうのでしょうね。せめて一貫性があって欲しいところです。
返信する
マザー工場化は進んでいますね (TAMO2)
2010-06-26 22:55:56
自分が勤めている会社だけの話じゃなく、化学産業の現場から。(以下に書く話は他の会社にも言えているみたいなので)

今、色々と新規テーマに関わっていますが、1系列の生産工場をチマチマと日本に残し、ここで色々と各種検討をして、生産は海外で大規模にやり、そして大規模に販売するという流れになっています。

母語が英語や中国語の人間を圧倒的に本社採用し、日本で鍛え、海外で活躍させる流れもあります。

日本人も外国人も、新規採用者はそんなに実力的に変わりませんが、グローバル展開の「必要性」から、日本人採用は抑制され、外国人は増えているようです。
返信する
Unknown (非国民通信管理人)
2010-06-27 14:06:25
>TAMO2さん

 日本で売れない以上(日本国内の購買力が低下し続けている、日本でまだ普及していない製品を作ろうとしない等々)、そうならざるを得ないでしょうね。市場との問題を無視したまま、規制緩和や改革云々で乗り切ろうとする辺り、この傾向は変わらないでしょう。
返信する
工場から市場へと転換する中国を (貝枝五郎)
2010-07-31 09:34:26
本件に合致する事例として紹介します(7.31の「中国人労働者の賃金上昇~」)。

http://kitanotabibito.blog.ocn.ne.jp/kinyuu/cat958173/index.html

というわけで、外圧にたよってデフレをのりきりましょう。つーか「日本」にはもはや何も期待できん。ある程度の期間だったとはいえ、「日本」に多少なりとも期待していた自分を恥じる。
返信する
Unknown (非国民通信管理人)
2010-07-31 18:37:11
>貝枝五郎さん

 日本人経営者に任せたままでは永遠にデフレになりそうですからね。外的な要因でしか経済成長ができなくなったように、デフレ脱却も外的要因に頼るしかなさそうです。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

ニュース」カテゴリの最新記事