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非国民通信

ノーモア・コイズミ

ファンタジーの方がむしろ

2014-06-15 11:22:02 | 社会

銃撃ゲーム、欧米過熱 ファンタジー主流の日本と別路線(朝日新聞)

 海の向こうで、ゲーム機用ソフトが暴力的に変化している。米ロサンゼルスで10日(日本時間11日)に開幕した世界最大のゲーム見本市「E3」でも、街中や戦場で敵を撃ち続ける描写がリアルな新作が人気を集める。ファンタジー色の強いゲームが多い日本との違いが際立っている。

 大画面の中の街が、黒煙に包まれた。重低音の銃声が体を揺らす。激しい銃撃戦の後で地面に血がにじんだ。ちぎれた兵士の左腕が落ちていた。「ウォー」。約1万人が詰めかけた会場は興奮に包まれた。

(中略)

 ゲームの暴力化と因果関係があるかはともかく、米国の現実社会では銃による事件が後を絶たない。E3会場と同じカリフォルニア州でも半月ほど前、銃の乱射事件が起き、6人の市民が死亡した。

 

 ……さて、朝日新聞の記者がなにやら勘違いした記事を披露して恥をさらしているわけですが、どうしたものでしょう。まぁ何事も「政治的に正しい」認識というものはありますよね。事実関係よりも世間で信じられている通りに語る方が何かと好まれるものです。経済誌だって歴史小説だってwikipediaだってそう、しばしば「お約束」を優先して現実とは矛盾した記述が採用されるのは至って普通のことです。そして「ゲーム」を巡る報道も然り、世間の「ゲームとはこういうもの」という偏見に添って作られた典型が、今回の朝日新聞記事と言えます。

 色々とツッコミどころはありますけれど、例えば見出しにもある「ファンタジー」はどういうニュアンスで用いられているのでしょうか。私なんかは概ね「現実ではない」という意味合いで使うことが多く、週刊ダイヤモンドや中日(東京)新聞などが典型的なファンタジーとして思い当たるところです。一方で「剣と魔法の世界」的な意味合いで使われることも多い、長くなるので引用は省略しましたが今回の朝日新聞記事も、どちらかと言えばそういう認識に立っているようです。しかし、実際の日本のゲームは「現実的ではない」という面においてこそファンタジー色が強かったりします。

 総じてリアル系の描写は日本の市場からは歓迎されない、もしくは日本のメーカーが作りたがらないところは否定できません(まぁムキになって「例外」を挙げたがるバカもいるような気もしますが)。リアリズムの追求は野暮なこと、ゲーム性を損ねるものと言わんばかりに訳知り顔で語る論者も少なくないところです。もっとも欧米で開発されたゲームにしてもリアリズムとゲーム性を都合良く使い分けているのが一般的ではあるのですが、ともあれ日本ではリアル路線は概ね好まれないとは言えるでしょう。

 「ゲームの暴力化と因果関係があるかはともかく」と逃げ道を作りつつも、朝日新聞報道はあたかもリアルなゲームと暴力/銃撃事件との関連性を想起させるような誘導を行っています。しかし私にはむしろ、ファンタジーに満ちあふれた日本のゲームの方を懸念した方が良いのではないかなと思われないでもありません。どっちが悪質とまでは言いませんけれど、何せ自国のことなのですから。

村上 龍      :野球は格闘技だ サッカーは戦争だ

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 リアルな表現や「結果」が描写されないだけで、日本のゲームだって銃撃やそれに類似した戦闘行為は盛りだくさんです。ただ日本のゲームでは刃物で斬り合い、兵器を撃ち合っても傷つくのは女の子の服くらいというだけの違いです。欧米で好まれるリアル路線のゲームは戦闘行為は少なからず「痛々しい」イメージもセットで付いてくるものですが、日本のファンタジー溢れるゲームにおける戦闘行為はあくまで「かっこいいもの(かわいいもの)」に終始します。

 

祖父の軍歴知りたい…厚労省に「軍人履歴原表」開示請求3割増 「永遠の0」「艦これ」影響(産経新聞)

 「祖父の軍歴を知りたい」。先の大戦での日本海軍の軍人・軍属の人事記録「軍人履歴原表」を管理する厚生労働省に、そんな問い合わせが増えている。終戦から時間がたつにつれ減少傾向だったが、平成25年度は前年度比3割増になった。その背景には、海軍航空隊を描き映画化もされたベストセラー「永遠の0(ゼロ)」や、日本海軍などの軍艦を擬人化したゲームのヒットもあるようだ。(道丸摩耶)

 岡山県に住む30代の女性は今年3月、海軍にいた祖父の軍歴の開示を厚労省に請求した。祖父は戦後間もなく死亡し、数年前に祖母も死去。祖父を知る人がいなくなる中、「祖父はどんな人だったのか知りたかった」と話す。

 当時の軍艦を擬人化したゲーム「艦隊これくしょん(艦これ)」でさまざまな軍艦を知り、祖父が乗っていた船に興味もわいた。インターネットで、孫であれば人事記録を請求できることを知り、血縁を証明する書類などをそろえて厚労省に送った。1カ月もたたないうちに、女性の元に祖父の経歴が記された軍人履歴原表が届いた。会ったこともない祖父が生きた証し。「知りたい情報が載っていた。取り寄せてよかった」と女性は喜ぶ。

 

 ちょっと掲載時期がずれますけれど、朝日新聞の記者にはこの辺の記事も読んで欲しいと思います。「ゲームの暴力化と因果関係があるかはともかく、米国の現実社会では銃による事件が後を絶たない」と匂わせるのも勝手ですが、せっかくですから日本のゲームと世論との因果関係辺りも考察されてはいかがでしょう。暴力性を見せない戦闘行為が当たり前の「リアルではない」ゲームは、冒頭の引用で取り沙汰されたような血まみれのゲームと比べて果たして安全なのかどうか。戦闘行為から暴力性を隠してしまえば、日本でもアメリカでも年齢制限からは免れられるのですけれど……

 

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Unknown (ノエルザブレイヴ)
2014-06-15 12:27:01
前に私の住んでいる県の地方紙が「戦争と世論」みたいな連載記事を打っていたんですけど、そこで「艦これ」がらみのエピソードとして県内の某大学生が「艦これ」で自分の好きなキャラの元ネタとなった軍艦について調べたら戦争で撃沈されておりキャラが死ぬシーンが頭をよぎって切ない気持ちになったもののその軍艦が沈められたことで数百人からの乗員が戦死したことには思いが廻らなかった、というのが紹介されていました。

ゲームでも小説でも漫画でも完全に現実を描写するのは不可能であり、そこで送り手・受け取り手双方に都合のいいつまみ食いみたいなものの発生する余地がどうしても出来てしまうんだろうな、と思うところです。
(その辺りのところはゲームなり小説なりを作ったり接したりする前にその対象をどう思っているのか、ということにもかかわってくると思います)
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Unknown (非国民通信管理人)
2014-06-15 23:58:50
>ノエルザブレイヴさん

 まぁ、総じて日本ではそうしたファンタジー色の強い戦争描写が好んで受け入れられてきたわけですが、不可能性を言い訳にして現実から目をそらして胸を張るような人には、ちょっと反感を覚えますね。
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