非国民通信

ノーモア・コイズミ

溶けゆかない日本

2008-12-24 23:00:14 | ニュース

「にきびがつぶれた」でも救急車 増える不搬送(神戸新聞)

 要請に応じて救急車が出動したものの、現場で「緊急性なし」と判断し、搬送しなかったケースが二〇〇七年、神戸市内で千六百八十六件あり、十年前の約三倍に増えたことが分かった。「にきびがつぶれた」「ガラスの破片で指を切った」など明らかに緊急性がなくても、同市消防局は原則、現場へ急行。だがここ数年は安易な要請が全国で課題となっており、同局は「ほかの患者の搬送に影響する可能性もある」と頭を悩ませている。

 〇七年、同市内の出動件数は六万七千二百九十二件。このうち現場へ向かったが既に死亡していたり、引き返したりするなど搬送しなかったケースは約15%に当たる一万二百五十八件だった。

 一万二百五十八件のうち、現場で「緊急性なし」と判断し、救急隊員が要請者を「説得」したケースは千六百八十六件。一九九七年の五百二十八件から大幅に増えた。

 「モラルの崩壊」云々を信じたがる人も多いですよね。自虐現代観とでも呼びましょうか、産経新聞の「溶けゆく日本人」シリーズに象徴されるように、「日本人の道徳意識が低下している!」とあることないこと誹謗中傷を続ける「反日勢力」がいるわけです。ここで引用したような事例もその類で、「救急車はタクシー利用されているんだ!」と固く信じてやまない人が少なくありません。しかるにこの神戸新聞の記事、どう見ても変です。こういうレベルでしか実態を語れないのでしょうか? ゴマカシを重ねて印象操作を繰り返さないと、救急車のタクシー利用を描き出せないのなら、救急車のタクシー利用云々は都市伝説や被害妄想のレベルでしかないことを意味しているような気がします。

 出動件数が67292件、そのうち「緊急性なし」と判断されたケースは1686件です。全体の2.5%くらいですね。「にきびがつぶれた」等のエキセントリックな事例を持ち出すことで、あたかも「緊急性なし」=「不心得な119番通報」であるかのような印象づけが行われていますが(生活保護の受給者に対してよく使われる手です)、実際のところはどうでしょうか? 医療の専門家が見れば「緊急性なし」でも、心配性の素人が見れば一大事!というケースも多いでしょうから、「不心得な119番通報」はせいぜい1%あるかないかぐらいに見積もっておいた方が良さそうです。

 一応、「緊急性なし」と判断されたケースが10年前の約3倍に達しているということですが、これだってどうなのでしょう? 10年前はまだ、個人の権利を主張する人を「モンスター~」と呼ぶ風習などありませんでしたから、たとえ緊急性がなくとも「せっかくだから」とばかりに搬送していたのかも知れません。しかし昨今は悪者を作る方が好まれます。拒める人は出来るだけ拒む方向で運用した結果、「緊急性なし」と判断されるケースが急増したのかも知れません。この辺は軽犯罪の検挙数と同じです。警察がキャンペーンでも張って重点的に取り締まる、些細なことにも目くじらを立てるようになれば軽犯罪の検挙数は激増しますが、逆に凶悪犯罪に重心が置かれていた頃は軽犯罪の検挙数が少なかったわけです。要するに110番も119番も、方針が変われば件数は変わるものなのです。

 同局は、〇六年度に一台、〇七年度に二台、救急車を増やしたが、出動から現場到着までの平均所要時間は五年連続で五・七分。九七年に比べて〇・一分延びている。

 この記述から引き出せる範囲で、各年度の平均所要時間を整理してみましょう。

   平均所要時間
97年 5.6分
03年 5.7分
04年 5.7分
05年 5.7分
06年 5.7分 救急車1台追加
07年 5.7分 救急車2台追加

 どうですか? モラルに欠ける利用者が激増していると言いつつも、現場到着までの平均所要時間には全く影響を与えていません。5.7分という平均所要時間に対して0.1分という増加幅は誤差のレベルであり、有意な変化とは呼べないでしょう。同時に、救急車を増やそうが増やすまいが、到着までの平均所要時間には影響がないこともわかりますね。そして言うまでもなく、「緊急性なし」と判断されるケースの増加が救急車の到着時間を損ねているわけでもないことが、一目でわかります。

 たぶん記事の意図としては、あたかも不心得な利用者が増えたから、それで救急車の台数を増やす必要に迫られた、そして救急車を増やしたのに到着までの時間が増えたと、そう見せかけたいのでしょう。しかし、どこの自治体でも高齢化が進み、医療費の増加が頭痛の種になっているはずです。当然、救急車のお世話になる高齢者だって増えているわけで、救急車を増やしたのは、もっと現実的な問題、高齢化に対応するためでしょう。それなのに別の要因にすり替えようとする、悪質です。でも、こうでもしないと救急車のタクシー利用は語れないのでしょう。

 

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13 コメント

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Unknown (GX)
2008-12-24 23:56:23
 そういえばこれと似たようなお話以前も取り上げられていましたね。実はあのエントリーを読んだ後タイムリーにも私の住む地域の回覧板にも同様のことが書かれていてうんざりした記憶があります。もし、素人で救急車を呼ばなくてもいいと判断したものが実は大事に至るようなもので、その結果死亡したなんてことになったりしたら、どなたが責任取るんでしょう。医療側?報道したマスコミ?ともかくこの流れで「自己責任」だけは勘弁して欲しいです。本当に出動が必要かを素人でも判断できるようにするにはどうすればいいのでしょうね。素人にも分かる医療講座を開くとか。知識が増えるにこしたことはないかもしれませんが、そのための費用の方がかかるような気も・・・。やはり、今求められるのは「なるべく救急車を呼ばず、自分たちで何とかすること」ということでしょうか。
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Unknown (不備)
2008-12-25 00:42:01
 モラル崩壊、と聞く度に、若い人たちの過剰なまでのモラル意識にうんざりさせられている現実を思い出します。礼儀正しく、規則正しく、他人の失敗や不行状にはやたらと厳しい(それでいて自分のヘイト言説には鈍感だったりしますが)モラル意識の厳格な現状である気がするのですが、一体だれがこれ以上厳格で住みにくい社会を望んでいるんだろう、と不思議に思わざるを得ません。この煽り方、ファシズムの扇動に似ていて恐ろしい。

 素人じゃ分からない、もしかしたら何か重大な病気が潜んでいるかも、我慢してきたけどついにどうしようもない、「だからこそ救急車を呼ぶ」、という人が大多数なのであって、そうした人々に危機感を植え付け、医療制度不備のツケを負わせるよかのうに、モラル崩壊警告を連発する報道側の無責任ぶりには非常に腹が立ちますね。

 そんなことより、派遣・期間労働者の人権を蹂躙する企業や、国民を助けるのが仕事のはずが何もしないで共犯となっている政府のモラル崩壊をこそ、メディア側は強く糾弾すべきだと思います。
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Unknown (ノエルザブレイヴ)
2008-12-25 10:14:28
以前管理人さんは「サムライとは良いものである」という考え方について話されていましたが、同じように「日本とは良いものである」という単純な方程式を自虐現代観を持つ人はやみくもに信じているのかもしれません。
しかし、現実はそうは行きません。日本人だけで一億をこえるのですから良い面悪い面が共存している、そんなもので、そしてそれはいつの世も変わらないはずです。しかし、「日本とは良いものである」という単純な方程式に凝り固まっている人は悪い面があることが許せないのでしょう。
ただ、それではなぜ代償として例えば戦前賛美に逃げ込むのかまでは私には分かりません。
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Unknown (ふみたけ)
2008-12-25 21:38:30
>ただ、それではなぜ代償として例えば戦前賛美に逃げ込むのかまでは私には分かりません。
自虐史観やネトウヨの人達が安直に強い国家観を求めたがる傾向が関係していると考えます。
彼らが敬慕しているのは、失われてた『大日本帝国』ですしね。
ただ、忘れてはいけないのは今日でそれを求めるのはあまりに時代錯誤であり、日本を取り巻く環境も激変している事実を認めるべきです。
もちろん過去を顧みて、そこから今に生かす何かを学ぶのはもちろんいいのです。最近では『蟹工船』が正にその好例ですが、現状も直視せず過去礼賛と現代を嫌悪する愚かな思想については、誰も幸せにしないと自信を持って言えます。
そう言えば放置されたままの医療負担やサービス自体が低下しつつある地域医療の状況についても、誰の都合だったのか?を考えれば、救急車の話と合わせもっと深刻になって考える必要があると常々思うところです。
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Unknown (非国民通信管理人)
2008-12-25 23:58:08
>GXさん

 私の場合ですと、勤務先の最寄り駅から会社までの通勤経路に、やたらとポスターが貼ってあります。救急車利用の自粛を訴えるヤツです。救急車を呼ぶべきか呼ばないべきか、素人判断で無駄に救急車を呼ぶこともあるかも知れませんが、同様に素人判断で救急車不要と判断し、緊急を要する症状だったのに手遅れになってしまう、そんなリスクも高いわけですよね。その点ではリスクを高めているはずなのですが、徒にモラル運運を焚きつける論調が多い、実に不毛です。

>不備さん

 そう、政財界の人権意識の希薄さ、そして他人の些細な過ちを大仰に咎め立てする不寛容、モラルの低下を考えるならこっちでしょうね。それなのに、より深刻さの低い、というより罪のないものを叩こうとするのは、本当の問題から目を逸らしたいところもあるのでしょうか。

>ノエルザブレイヴさん

 「こうあるべき」「こうあらねばならない」という思いが強いのでしょうか。自分の思い描く「脳内日本」と、現実の「日本国」の違いに苛立っているのかも知れませんね。そんな彼らが「大日本帝国」に親近感を持つのは、現前に存在しないものだからこそ、自分の思いこみを直接否定してこないからでしょうか。

>ふみたけさん

 でもそこで、現実を直視しない、自分の理想世界(修正済の大日本帝国とか)に逃げ込むからこそ、ネトウヨの今があるのかも知れませんね。現実の問題に立ち向かうよりも、自分の思い通りになる範囲で屁理屈をこねていた方が心地よいのでしょう。きっと。
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Unknown (daimong)
2008-12-26 02:36:58
正直管理人様の見方が偏っており、安易な要請が増えていないとは言い切れないと思ったので調べてみました。

救急搬送の内容変化については、まず件数全体の増加で見るべきでしょう。以下のサイトによると
ttp://www.scn-net.ne.jp/~shonan-n/news/050416/050416.html
平成6年から15年で全国で1,5倍に増えているそうです。中々の変化です。この文章ではその原因として
> 平成15年の全国における救急出動件数は約483万件で、平成6年の約1・5倍。

>「救急車を要請し、救急隊が現場に駆けつけると大した症状ではなかったというケースはよくある」とある救急隊員。「救急車をタクシー代わりに使う人がいるから、件数が増えるのでなく、老人の急病が多くなっていることも一因だ」という。

を挙げており、老人比率の増加と今話題の不要な利用について述べています。また
>出動要請の増加に交通渋滞も加わって、要請を受けてから現場到着までの時間が長くなっている。平成6年、全国平均は5・8分だったが、15年は6・3分と長くなっている。
と、長い目で見ると、到着時間も延びているようです。

ttp://www.city.kure.hiroshima.jp/~119/saigai/riifu.pdf
>また,救急車による搬送人員は9,743人。
>この中で,高齢者(65歳以上)の方が,5,737人と,全体の58.9%と年々高齢者の割合
が増加しています。
これによると、確実に高齢者比率が増えている一方、平成9年の全搬送が6080人ですから、第一に高齢者の増加が最大要因であり、第二として高齢者の増加だけで全てを説明できないことがわかります。平成9年の老人比率を50%と仮定した場合
老人以外の搬送は H9. 3040人 → H18. 4006人 で約32%の増加で、到底無視できない数字です。これを探るため、以下の資料を利用しまして(自治体が小さいですが)
ttp://www.city.numazu.shizuoka.jp/kurashi/fdn/kidsroom/syakaika/kyuukyuukazu.htm
目に付くのは
1.急病の増加が最大の要因(当たり前)
2.転院搬送が、全体の12~15%と大きいこと
3.交通事故と労働災害の出動が減っていること
  1.は特に言うこともなし。2.は、昨今の医師不足など医療体制の悪化が考えられる。3.は小さなことですが、増えていそうなこれらが減っているのは不思議でした。

長々と調べましたが、結局安易な要請の増加を肯定も否定も出来ませんでした。そのような統計の取り方が為されていないので難しいです。ただいえるのは最大要因が高齢化であり、これを全く報じないメジャーなマスコミは無能ないし悪質です。(地方では、上記のように報道があります。しかし、広く知らせてはいないかもしれません)また逆に、管理人様の出したデータも、安易な要請が増えていないことの証明にはなっていないと考えます。高齢者以外の搬送機会は明らかに増えているようです。
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Unknown (Gl17)
2008-12-26 11:46:31
>自虐史観やネトウヨの人達が安直に強い国家観を求めたがる傾向が関係していると考えます。
>彼らが敬慕しているのは、失われてた『大日本帝国』ですしね。

その通りだと思います。でも、その大日本帝国ってあまり強くないんですよね実態として、少なくとも今の日本と比べたら。
GDPにしろ技術水準にしろ、軍事費や装備水準だって、世界列強レベルに伍している現状の日本国と違って、当時は明らかに二線級です。
周囲と比べてマシになったので一等国と自称はしていましたが、山本五十六が恐れたように欧米とは格段の差だったわけです。
そりゃ部分的に優れた技術も沢山ありましたが、国家としての地力はケタが違いました。

結局彼等としては、今でなければ何でもいい、その仮託先として他に適当なものがないってことですか。
あと、自分より下のものを捜したいという欲求から旧来的な中韓蔑視が飛びつき易く、それと親和的という理由。
それと「負け組み」的なコンプレックスを内心に抱く層にとっては、連合国からボコ殴りに負かされた旧軍の恨みが自分のことに思えてしまうとか。
(それでいて緒戦だけは勝ったというのが、本当は強いんだ!負けたけど、と言い逃れさせてくれる。)
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追加して思うこと (ノエルザブレイヴ)
2008-12-26 13:30:40
そもそも、こうして何かあるたびにモラルがどうだと騒ぐ人がどんどん沸いてくることこそがこの国が世界に冠たる道徳家の国であることを証明してはいませんか。本当に「終わってる」ならばそもそも気にもされないでしょう。それに、要求水準が上がれば不満も多くなるというものです。
しかし、そういう現状は果たして私たちを幸福にしているのでしょうか…?
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呼び難くなっても困ります (kurosuke)
2008-12-26 20:11:47
救急車を呼ぶか呼ばないかは素人判断では難しいことも多いです。

私もかなり前にツアーで行ったスキーで転んで頭を強打し、宿に戻ってから急に眩暈がして、ろれつが回らなくなってしまったことがありました。間もなく症状は治まったのですが、ツアーの責任者に相談すると、救急車を呼ぶように勧められました。自分で電話をかけて救急車を呼び、大雪の中を友人に付き添ってもらって麓の病院へ。CTを撮って貰ったのですが、結局、異常無しで返されました。その後、特に問題はありません。大雪の中を麓の町からスキー宿まで登ってきてくれた救急隊の皆さんには申し訳なく思いましたが、万一のことを思うと、やはり来てもらって良かったのだろうと思っています。

「にきびがつぶれた」で呼ぶのは確かに非常識でしょうが、あまり「呼ぶな呼ぶな」と言われると、気の弱い人は呼びにくくなってしまうのではないかと心配です。
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更に追加して思うこと (ノエルザブレイヴ)
2008-12-26 22:21:01
そりゃ確かに不届き者は存在するでしょうし、救急の修羅場で不届き者と会ったら腹も立つことでしょう。しかし、それが問題の全てであるかのように語るのは卑怯ですし、問題解決を放棄しているように思えもします。モラル一つで解決するほど救急医療は単純ではないでしょう。
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