非国民通信

ノーモア・コイズミ

『ニート』『フリーター』、『予防授業』

2006-07-16 16:46:11 | 非国民通信社社説

『ニート』『フリーター』 厳しい将来小学校でも『予防授業』 仕事を持たないニートや定職に就かないフリーター。背景はそれぞれ異なるが、正社員に比べて生涯の経済的な格差は大きい。そうした彼らの現実を知り、将来を考えてもらおうという授業が小学校で始められている。  ■文科省が委託事業 ~(以下、リンク先を参照)~

 巷で微妙に話題のこのニュースですが、とりあえず『予防授業』という言い方はおかしいですね。玄田有史は「社会に出れば、税金や年金の支払いなどの義務を負う。早いうちからリスクの感覚を知り、学んでもらうことは役に立つはず」と件の差別用語の発明者らしいコメントを残していますがこれがいったいどう役に立つものなのでしょうか?

 一つの問題はニート、フリーターにはなろうとしてなるものではなく、結果として陥るものであるという前提が欠けていることにあります。イギリスにおけるNEETとはそもそも一般的な用語ですらありませんが、その対象範囲は10代後半、高校にも行かず働いてもいない子達を指します。一方で日本で大いに普及しているニートとは15-34歳とその対象範囲は非常に広いです。そして、求職活動中でも、或いは在職中でも、低収入の男性であればニートと呼ばれます。無職でも富裕層であればニートとは呼ばれませんし、女性もニートとは呼ばれません。日本におけるニートとは概ね、低収入の男性に対する蔑称と定義されるべきでしょう。

 さて、人はいかにしてニートになるのか。大手メディアが絶対に触れないのはこのニート層の大半が求職活動中であることです。そこで彼らをニートと非ニートに分ける決定を下すのは誰でしょうか? 求職者は正社員に採用されれば非ニートです。そして不採用であれば彼はニートとなります。ニートと非ニートの違いは企業に採用されるかどうかにかかっているのです。そして正社員の椅子の数が決まっている以上、いくら「予防授業」で企業好みの人間を育てたところで椅子取りゲームが白熱するだけ。結局、椅子の数を増やさない限りニートと蔑まれる人の数は減らないのです。

 とはいえ、正社員をフリーターに置き換えれば一人あたり平均で約二億円の給与格差が出ます。そしてこれがそのまま企業の利益になる、味を占めた企業がこれを止めるわけがありません。しかも、正社員をフリーターに置き換えても、非難されるのは企業ではなく労働者の側なのです。これほど企業にとってやりやすいことはありません。黒人奴隷の使用で利益を上げ、しかも社会的な非難の矛先が奴隷労働ではなく奴隷本人に向くとしたら事業主にとってこれほどありがたいことはないでしょう。

 しかも挙げ句の果てには「年金など社会保障の支え手が減る」と・・・ この人はいったい貧困層に何処まで期待しているのでしょうか? 2億円もの格差が発生する低賃金で働いてもらっているだけでも感謝しなくてはいけないのに、その上で社会保障まで支えさせようなど。何処まで絞り上げれば気が済むのでしょうか。そもそも社会保障くらいは一人2億円の賃金格差で儲けた企業が支えればよさそうなもの、持てるものがし払うべきであって持たざるものから搾り取るべきものではありません。しかるに軽蔑すべき貧困層こそがより多くの荷を担うべきとの考えが根強いようです。今回の文科省の委託事業はすなわち、社会的背景を無視してニートへの人格攻撃を続け、「親の甘やかし」と貶めることで差別感を若いうちから植え付け、貧しい層こそ多くを担うのが当然である、そう考える子供を育てようとしていると推測されます。

 最後に、「会社員は満員電車に揺られて、くたびれた中年のイメージしかない子が多い」ともありますがこれもまた外れてはいません。経済上はそれほど問題なく、社会的に蔑みの対象から外れているとしても、正社員もまた厳しい環境に置かれています。ニート、フリーターだけが問題であるかのような語りに覆い隠されてはいますが、正社員の置かれた境遇もまた問題だらけなのです。「正社員でもボーナスがない」は珍しくありませんし(ビジネス専門学校講師の鳥居さんは知らなかったようですが)、私が前に勤めていた会社は「退職金がない」。ついでに残業代もない会社でした。非合法ですが、証券取引法と違って労働基準法は守らなくても特に罪に問われたりはしませんので。


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