非国民通信

ノーモア・コイズミ

「制裁」の心理

2007-09-26 23:15:56 | ニュース

「3回目は制裁」元店長供述=万引き暴行死で起訴-千葉地検 (時事通信)

 千葉県船橋市のスーパーで万引きした男性が暴行を受け死亡した事件で、逮捕された元店長の岩沢雄一容疑者(40)=懲戒解雇=が「3回目の万引きには制裁を加えていた」と供述していることが25日、分かった。千葉地検は同日、傷害致死罪で岩沢容疑者を起訴した。

 岩沢容疑者は、同店で万引きした人の氏名や顔写真などを記録したリストを作成。万引き回数を確認した上、3回目の万引き犯には制裁と称して暴行を加えていた。死亡した男性以外に対しても暴行した事実を認めているという。 

 大局的に見れば凶悪犯罪は減少傾向にあるわけで、そういう面では遵法意識が高まっていると言えそうです。しかるに一方では自分達に都合良く憲法を作り替えようとする政府与党、同じく自分達に都合良く法律を作り替えようとする、ハナから守る気すらない経団連、法の定めるところを越えて他人を罰せよと熱狂する一部の国民など、また一面では遵法意識の著しい低下を見ることも出来ます。そして今回は制裁と称して暴行を加えていた、要するに私刑を繰り返していた人の話です。

 以前にも書きましたが、一時期店員をやっていたこともありまして、当然のように万引きもある訳なのですが、これを真面目に警察に届けていると時間が掛かる、店長など責任者が半日連れ出される羽目になって業務に支障が出ることもあるわけです。そして問題になっている事件で被害者は缶ビール2本を盗もうとしていたとか。缶ビール2本ごときのしょぼい万引きのために店長が警察の事情聴取のために連れ出されたとあっては、もう確実にそっちの損失の方が大きい、警察の前で証言するために店長が店を留守にしたり、その間に溜まった事務処理のために残業が長引いたり、そうなった場合の損失の方が万引きの被害よりずっと大きいのは確実です。だから、面倒くさがって警察に届けなかったというなら大いに理解できるのですが……

 逮捕された店長の場合、わざわざ万引き犯の顔写真付き名簿まで作って(この時点で個人情報保護の面で違反がありそうです)独自に犯行回数をカウント、3回目の万引き犯には制裁と称した暴行と言うことですが、死人が出るくらいですからこれはもう「ケツを蹴り飛ばして放り出す」というレベルではなく、かなり念の入った、ある意味では手間暇をかけた私刑が執行されていたようです。そんな暇があったら仕事をした方が良いのではないかと忠告したいところですが、たぶんこの店長にとって「制裁」は仕事を滞らせてでも実行したい事だったのでしょう。

 人を殺せと主張したり、人に暴行を加えたり、そういうことはもちろん今でも決して歓迎されることではないのですが、ただ昨今はそれが正当化される機会に人が飛びつくようになったような気がします。つまり相手に非があるとき、その非が重いものであれ軽いものであれ、いずれにせよ何らかの罪を犯した人を見つけたとき、これぞ好機とばかりに嬉々として飛びつく人が増えているのではないでしょうか。相手に罪があればそれを罰することが正当化される、そんな機会を待ち望む心理が強まっています。

 犯人と被害者のどちらが悪いかは揺るぎようもないわけですが、ともするとその関係を良いことに裁く側がエスカレートしがちです。相手が悪いのだから、何をしてもいいと、そんな錯覚も生まれるのでしょうか。それはもう万引き犯の方が悪いのは天地がひっくり返っても変わりませんが、だからと言って何をしてもいいというものではありません。ですが、こうなったのは相手が悪いのだと、常に相手に責任を負わせ続け、自らが振るう暴力を免責しようとする人もいるようです。店長が万引き犯を殴る、そうなったのは相手が悪いことをしたから、万引きをしたからいけないのだと、そうやって私的に暴行を加えることの責任を相手に負わせ、暴行犯としての自分を免罪する、こういう精神構造があるように感じます。

 ともすると相手の「悪さ」を主張していれば、自分を免責できる、相手の「悪さ」を周囲に認めさせれば、自分を「正義」の側に置くことができる、単なる暴行傷害も相手の「悪さ」を周囲に認めさせれば、それは途端に勧善懲悪の物語になるのかも知れません。相手が「悪いことをしたから」という事実を免罪符に使って人が人を傷つけることを正当化している、そんな時代です。

 

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6 コメント

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Unknown (Bill McCreary)
2007-09-27 00:36:06
>万引き回数を確認した上、3回目の万引き犯には制裁と称して暴行を加えていた。死亡した男性以外に対しても暴行した事実を認めているという。 

暴行が続いていたということは、つまりは暴行されていた人たちは警察に届けていなかった可能性が高いですね。この辺事実関係を知りたいですが、犯行がエスカレートした背景は、殴っても警察沙汰にならないということも大きかったのでは。まさか警察が相手にしなかったなんてことはなかったと思いますが・・・。

ついでながら、本社の人や他の店員の人は、やはりこの暴行を見て見ぬふりをしていたのでしょうね。それも重大な問題です。
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同じ店で三度が異常 (tatu99)
2007-09-27 10:55:25
コンビニ側(従業員)としては、万引き犯には二度と来店してもらいたくないのだと思う。
恥ずかしげも反省もなくバレタ過去があるのに三度目の万引きではその店だけでなく何時でも何処でもの常習犯でしょう。
むしろ法的対応、組織としての警察の対応がいい加減で店長に過大な負担を強いています。

過去の万引き犯に対して入店拒否したら良いのですが(どうせたいした買い物もしないだろう)これこそ人権侵害と騒がれそうです。
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みせしめ? (una)
2007-09-27 11:08:40
先日の、”コンビニの電気代1円万引き”した
中学生の書類送検(だったか?)も、
裏事情は分かりませんが、
教え諭す・程度で済んだのでは?と思いました。

裁判の量刑も、最近では、庶民感情を取り入れているのかな?という感じで、重くなっているような気がします。

悪い事は、”事実”としても、
だから、何をしてもよい・とする世間の風潮は、
とても危険ですね。
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Unknown (非国民通信管理人)
2007-09-27 23:10:08
>Bill McCrearyさん

 暴行を受けた側としても、万引きをしたという負い目があるだけに被害届は出しにくかったのでしょう。逆に言えば、相手が被害届を出せないであろう弱みにつけ込む形で暴行を加えていたのではないかとも推測されますね。そんな状況を他の店員はどういう思いで眺めていたのでしょうか?

>tatu99さん

 基本的に万引きの被害よりも万引きを防ぐためのコストの方が高くつくものですが、往々にして経営層はコスト意識に乏しく現場に防犯活動の徹底を命じ、万引き被害の責任を厳しく追及する、店長の負担が増える理由としてはこんなところですね。それはさておき、過去の侵略者に対して「日本人お断り」などと入国拒否をしたらどうでしょうかね?

>unaさん

 今回の被害者となった万引き犯は56歳で職業不詳だとかで、社会的、経済的に非常に厳しい立場に置かれていたような気もします。万引きされる側としては堪ったものではないかも知れませんが、だからと言って私的な暴行が許されて良いはずもありません。「相手が悪いのだ」と主張して闇雲に相手を罰しようとするのではなく、何故こんな事になってしまったのか、それを顧みられるようだと良いのですけれど。
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困ったもんです (kuroneko)
2007-09-29 12:15:36
自分の家の前に違法駐車され、タイヤをパンクさせたら、パンクさせたほうが悪いでしょうねえ。
警察に通報しても、すぐに来るか、わからないし。

自分の過ちは開き直るでしょうし。他罰的な人は。

入店拒否、ってのは、やれば出来るんじゃないかな。過去の万引き事例を証拠立てれば。(警察に届けるのは面倒でも、当人に警告することは可能でしょう)
ともかく、私人間の争いでもいきなり暴力はよくない。

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Unknown (非国民通信管理人)
2007-09-29 17:56:32
>kuronekoさん

 警察も今ひとつ頼りにならないですからねぇ。トラブルに巻き込まれなければいいのですが、どうあっても向こうからやってくる場合もありますし。万引き犯の場合はどうでしょう? 「一見さんお断り」がOKなら「万引き犯お断り」もOKでしょうけれど、それもまた手間が掛かりそうです。この事件の店長のように執念深く顔写真付きリストを作っている人なら楽勝かもしれませんけれど。
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