非国民通信

ノーモア・コイズミ

日本人はゲームが嫌い

2007-03-15 23:17:16 | ニュース

【知はうごく 文化の衝突】第2部 コンテンツ力(3)日本ゲームの反転攻勢は…(産経新聞)

 「海外のゲームソフト市場は急成長しているのに、日本はそこに食い込めていない」。経済産業省メディア・コンテンツ課の井上悟志課長補佐は、ゲームソフトの輸出拡大の必要性を強調する。

 家庭用ゲームソフト市場は2001年からの5年間で、欧州では1798億円から約3倍に、北米でも3385億円から2倍に膨らんだ。しかし、日本製ソフトの海外出荷高は01年の2532億円から一進一退の状態。シェアは6割から3割に半減した。

 日本のゲームソフトが海外に食い込めていない、かつては家庭用ゲーム機を世界に広めたゲーム大国であり、今なお任天堂やソニー製のゲーム機が世界中で使用されているにもかかわらず、ゲームソフトの面では芳しくない、そんな状況があるわけです。リンク先の記事ではこれを説明するべく色々と書いてあるわけですが、私なりに付け加えたいことがいくつかあります。

 まず第一に、日本人はゲームが嫌いだ、ということです。ゲームに本気になることは良くないことである、ゲームなど大人がやるべきものではない、そんな社会的合意が日本では非常に強固であり、ゲームをあくまで子供の(不健全な)遊びの域に押しとどめておこうとする、日本人はゲームが嫌いであり、ゲームを軽蔑しているのです。

 そんな日本人のために、例えばソニーのPS3、これはただのゲーム機ではない、ゲーム機の枠では扱わないで欲しいと、ゲーム以外の要素を強調して宣伝してきたわけです。そして圧倒的に売れているニンテンドーDSですが、この売り上げを牽引しているのが「脳トレ」や「漢検DS」などの学習ソフトです。ゲームを嫌う日本人に受け容れられるために、ゲーム機の装いを捨てる、これはゲームではないと見せかけることによって、日本人に訴求しているわけです。

 それから日本製のゲームの場合、主人公は原則として子供です。大人が主人公になることはまずありません。あくまでゲームを子供の遊びとみなす日本では、ゲームの対象年齢は子供でなければならず、そこに登場するヒーローもまた対象年齢に近い――すなわち子供でなければならない、そんな固定観念があるような気がします。これが海外のゲームソフトとなると、大人が主人公であるゲームの方が多数派になるのですが・・・

 高橋名人を覚えている人はいるでしょうか? 最近では某紀子氏に子供が生まれた際にテレビ東京からインタビューを受けたことで話題になった、あの16連射の高橋名人です。彼は私の世代の子供達のアイドルでした。しかし高橋名人はあくまでハドソンの社員であり、購買対象とされた子供達のアイドルを演じる広告塔に過ぎませんでした。翻って海外では、プロゲーマー、ゲームの腕を披露することによって賞金を獲得して生きている人たちがおり、プロスポーツ選手同様の社会的な尊敬を集めてもいます。

 海外ではゲームは大人が真剣に取り組む趣味の一つであり、それはおそらく日本人が将棋や囲碁に対して向けるの同様の敬意を持って受け容れられています。日本の大人が囲碁や将棋に血道を上げることが決して非難されないように、海外ではゲームに血道を上げても日本のようには非難されない環境があるわけです。これは漫画も似たようなもので、日本ではサラリーマンが電車の中で漫画を読むのを恥ずかしい行為として糾弾するような、漫画に対する軽蔑がありますが、これが海外となるとポップカルチャーの一つとして敬意をもたれており、漫画を読むことが恥じるべきこととは見なされていません。

 そんな訳で日本では子供の遊びとして位置づけられているゲームですが、海外では大人の趣味としての側面も強い、その辺りの温度差が、日本製ソフトが海外で苦戦する原因の一つになっているのではないかと常々思うわけです。日本でも大人が本気になって遊ぶためのゲームを開発の中心に据える、それが商業的な成功を収めて継続的に開発が続けられる、そうならないといつまで経っても日本のゲームは子供向け中心のままであり、海外の大人達に訴求することはできないのではないでしょうか。今のように子供向けのゲームを造る一方で、これはゲーム機ではないと装って売ろうとしている限り、大人が本気で楽しめるように創ろうとする海外ゲームとの溝は埋められないでしょう。

 日本の国際競争力強化のためには、クリエーターの能力強化はもちろんだが、多業種の業界慣習を理解し、ビジネスとしてのゲーム運営ができるプロデューサー能力を持つ人材が不可欠となる。「ゲームが好きだから」というだけの“オタク”的視点で対応できる時代は終わっている。

 リンク先の記事は上記の引用で終わっていますが、これもまた日本と海外を隔てる根本的な勘違いの一つです。日本のゲーム業界関係者のインタビューなどでは大概、「これからゲーム業界で働こうとする若者にとって求められるのは何ですか?」という質問があり、答えは決まって「やはりコミュニケーション能力ではないでしょうか―――」となります。日本のコミュニケーション能力至上主義はいかなる現場でも徹底されているようですが、これが海外と比べるとどうなのでしょうか?

 翻訳記事で読める範囲のことではありますが、海外の大物クリエイターがコミュニケーション能力云々などと口にしたことなど聞いたことがありません。はっきり言ってしまえば、海外で名作と呼ばれるゲームを創ってきた人たちは、とにかく「ゲームが好きだから」のオタク的な人ばっかりです。別に海外でなくとも、かつての日本のゲーム業界を作り上げてきた人たちは概ねそうだったはずです。それが今や日本ではゲームは子供の不健全なおもちゃへと貶められ、制作現場からはゲームを本気で愛している人が放逐され、代わりにコミュニケーション能力に長けた御立派な社会人が重用される、これでは新時代を切り開けるような特異な発想が出てこなくなったのも頷けます。たぶん、日本のゲーム業界に足りないのは開発力や経営力、コミュニケーション能力云々ではなく、ゲームへの愛、敬意、大人が本気で取り組む姿勢なのではないでしょうか。

 

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4 コメント

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遊ぶことは罪悪だ、と言う認識 (y-burn)
2007-03-15 23:55:01
子供の遊び、大人の遊びと言うことに限らず、普通の日本人の観点としてあるのが、
「遊ぶ=罪悪」
と言うことだと思います。そうなるのは歴史上当然だとも言えます。過去の日本の環境はそれこそ、田畑を耕さないと喰っていけない、と言う状況でしたから。ヨーロッパのように放牧と簡単な作物でどうにかなるというものではなく、食料を作るのに全精力を傾けなければ次の年は生命さえも危機になる、と言う環境では、まぁそうならざるをえないと思います。

で、今の日本の社会は過去のそういう労苦を引きずって現在に至っているわけです。歴史上構築された概念は相当のことでもなければ消えることはないですからね。おそらく世界の民族の中でも遊ぶ、と言うことは一番下手な民族じゃないでしょうか?それがいい大人がサブカルチャーと呼ばれるものを貶す一因でしょうね。遊び、と言うものも巧くやれば世界と競争できる、と言うことは証明されているのにね。

自分のブログで以前書き込んだことですが、「自分の趣味を優先させる職員はクビです」という事をのたもうた施設の主任相談員がいました。遊び心もなく、他人にそう言う事を強要する人間には介護のみならず、社会を語って欲しいとは思いません。でも、その方は現在鹿児島県の社会福祉協議会(要は鹿児島の福祉の総括やってるとこ、と思ってくだされば)のお偉いさんですからね・・・。こんなレベルですよ、福祉の世界なんて。

この件は、もっと考えたいので、今度改めてうちのブログで語りたいと思います。その際はトラックバック通すので、よろしくね。 

 
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この記事 (naka)
2007-03-16 09:03:50
ゲームに関する大人の視線は海外(欧米)でも日本とそう変りませんし、日本のゲーム開発者に愛が足りないなんて何を根拠に言うのでしょうか?
日本ゲームの海外におけるシェア低下は、単純に海外でのゲーム開発能力が上がったことによるものだと思います。「海外の大物クリエイターがコミュニケーション能力云々などと口にしたことなど聞いたことがありません」とありますが、海外のゲームクリエイターの発言をそんなに追っているのですか?
分野外のことに印象だけで書いた記事と言う気がしました。
返信する
Unknown (cyberbloom)
2007-03-16 13:47:47
はじめまして。こちらはFRENCH BLOOM NETという共同ブログの管理人です。記事へのリンク、およびTBさせていただきました。よろしくお願いいたします。
返信する
Unknown (非国民通信管理人)
2007-03-17 00:05:30
>y-burnさん

 日本も江戸時代は案外緩い社会で、特に都市部の町人にとっては遊ぶことが粋でもあったそうです。一方でそれを押さえ込もうとする官製の学問もあったようですが。それが明治以降の富国強兵策の元で遊ぶことは罪になり、勤労の絶対視が始まったようです。萩原朔太郎に曰く「労働の賛美は、近代に於ける最も悪しき趣味の一つである」と。お偉いさんには戦後レジームの克服だけでなく戦前レジームの克服まで視野に入れて欲しいものです。

 トラックバック、お待ちしております。記事との関連は緩く考えてくださって結構ですので適当なところへどうぞ。ちなみにgooブログはスパム対策がかなり過剰のようでTBが通りにくい場合がありますので、24時間以上経っても反映されていない場合はコメント下さい。では。

>nakaさん

 政治・経済については背伸びして書いているだけのド素人ですが、ことゲームに関してはこの道ン十年のハードコアゲーマーでございますので、むしろゲーム事情に関しては自信を持ってお届けしております。左派の常として自国に厳しく他国に寛容に書いていますので、その辺のバイアスは割り引いて読んでいただいて結構ですが。

 ちなみに愛が足りていないのはゲーム開発者ではなくゲーム業界です。この辺は重要なポイントですので誤読されないようお願いいたします。

>cyberbloomさん

 弊記事の参照、ありがとうございます。こちらからもよろしくお願いいたします。う~ん、久々にニューズウィークを買いたくなりました。

 それにしても海外、というより欧米での評価を気にする日本人なら、海外でも高い評価を受けている日本のオタク文化をもっと誇ってもよさそうなものです。しかるに漫画好きで知られる麻生大臣にしても性的な表現を含むとなると途端に規制する側に回る有様、大人の世界に踏み込める、これが日本の漫画が海外の大人から評価される一因だと思うのですが・・・
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