非国民通信

ノーモア・コイズミ

they don't like their constitutions

2007-09-02 21:56:36 | 非国民通信社社説

 Bundesamt für Verfassungsschutzなる国家機関がドイツに存在します。これが「憲法擁護庁」と訳されるのが通例なのですが、このように訳してしまうとイメージの湧きにくい人もいるかも知れませんね。字面から察するに、文字通り憲法を守るための機関なのでしょうか。そうだとすると、ちょっと日本では考えられない不思議な組織に見えてきます。

 言論の自由を履き違えている国、ヘイトスピーチを野放しにしている国がある一方で、公の場での歴史修正主義や差別的言動を禁じている国もあります。そして前者になくて後者にあるのが「憲法擁護庁」なのでしょうか?

 憲法擁護庁とはドイツにおける自由民主主義体制の擁護を目的として設立された機関です。設立の理念としては公安調査庁に近いものですし、活動の内容も似通ったところが多いわけです(矛先を向ける対象に違いはあるかも知れませんが)。ならば「憲法擁護庁」などと言う不思議な日本語訳を当てずに「公安~」と訳しても良かったのではないか、そうも思うのです。

 おそらく「憲法」の位置づけが日本とドイツを含む諸外国では異なっているのでしょう。憲法擁護庁Bundesamt für Verfassungsschutzの“Verfassung”の部分が憲法を意味するのですが、この“Verfassung”の意味するところは憲法だけに止まらず、調子、状態、コンディションの意味も含まれます。すなわち“Verfassungsschutz”とは憲法を守るだけではなく国家のコンディションを保つ意味もあるわけです。しかるに和訳されて「憲法擁護庁」となると途端に限定されたイメージになってしまう、“Verfassung”を守ることと憲法を守ること、この両者のイメージにズレがあるわけですね。

 ドイツ語よりも英語の方がよりイメージが湧きやすいでしょうか。英語で言うところの憲法は“constitution”ですが、この“constitution”が意味するところは憲法に止まらず、構造、組織、性質、成り立ち、国体、政体なども含まれます。ですから“constitution”を守ることと、日本で言う「憲法」を守ること、この両者が意味する範囲には少なからぬ違いがあるのです。

 “constitutionを守れ”と言ったらそれはたぶん、その国の政治体制を守ることを意味するでしょう。ところが「憲法を守れ」といった場合は、その守る対象が随分と限定されるように感じられます。どうしてでしょうか? そこはやはり“constitution”が意味するものと、その翻訳語である「憲法」の意味する範囲が大きくずれており、「憲法」の存在が“constitution”に比べて著しく矮小化されて受け止められているからかも知れません。

 “constitution”と言えば、その国の成り立ち、政治体制そのものですが、少なくとも日本語で言う「憲法」はそれに比べて随分と軽いものです。“constitution”を転換すると言ったらそれは国家の転覆であり、憲法擁護庁のような公安機関としては全力で阻止に当たらねばならないものになるわけですが、日本では体制側が憲法を変えると主張しています。日本では体制が体制を打倒しようとしているのでしょうか?

 おそらく日本では憲法と“constitution”が、「憲法」と「国体」が結びついていないのでしょう。日本においては“constitution”に基づいてその国の成り立ちが規定されるのではなく、“constitution”とは別の何かによって日本を規定しようとしている、“constitution”を柱とするのではなく、それとは別の何かを拠り所とする人々が政治の実権を握っています。

 要するに“constitution”とは国の体制そのものであり、その国の在り方を規定するものですが、こと日本語の「憲法」にはそこまでの意味が認められていないようです。政府与党や治安機関は“constitution”が変わっても自分達の体制は変わらない、そう考えて自ら“constitution”の転覆に走ります。たぶん彼らにとって日本の成り立ちや政治体制を規定するのは自民党の一党支配や単一民族神話と言った代物なのでしょう。

 そこで主張することが職務である政治家はさておくとして、では公務員の場合はどうなのでしょうか? 公務員は何に使えているのでしょうか? 所轄の官庁に仕えているのか、それとも政府与党に仕えているのか、あるいは“constitution”に仕えているのか、どれなのでしょうか? 例えば国民投票法案の規定では公務員の地位利用云々を口実に、公務員が自分の判断で意見を出すことが禁じられていますが、ならばどう振る舞うべきなのでしょうか?

 公務員は、政府与党に仕えているわけではありません。確かにこの国では僅かな例外はあったにせよ何十年も同じ政党が政権政党として君臨してきました。そうなると、その常に政権を担っている政党が国の体制、すなわち“constitution”そのものと錯覚されてくるのかも知れません。しかし公務員の給与を払っているのは国家であって自民党ではありませんし、国家が消えたならいざ知らず自民党が政権を追われたからと言って運命を共にしなければならないような立場でもありません。公務員は政府与党の従業員ではないのです。

 だからもし、特定の政党が憲法を変える、“constitution”を変えると主張してその法案を動かしたときに、公務員が従うべきは何なのでしょうか。特定政党の改憲案に黙って付き従い、それに異論を差し挟めば公務員の地位利用に当たるとして罰せられるとしたら、それはおかしなことです。公務員は特定の政党に仕えているのではないのですから。むしろその職務として求められるのは、彼らが仕えている“constitution”のために動くことではないでしょうか。

 そこでもし、公務員が“constitution”に仕えることを阻もうとする、逆に“constitution”を曲げようとする特定政党の意向に従わせようとするならば、それはすなわちこの国の骨格が“constitution”にではなく特定政党にあると言うことを意味するでしょう。日本とは党が所有する国家なのか、それとも特定政党には属さない“constitution”によって定められた国家なのか、それが問われるところです。

 

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