非国民通信

ノーモア・コイズミ

デマやヘイトスピーチを退ける人と、中立を装う人

2012-04-12 23:32:15 | 社会

 こちらは千葉市市長の熊谷氏による発言です。まず背景として、被災地のガレキ受け入れに前向きな市長に対し、一部の人が執拗に噛みついている、それを市長が個別に(twitter上で)回答している状況がありまして、市長側に「初めから聞く耳を持たない相手に、そこまで対応しなくても……」みたいな意見も寄せられたわけです。それに対する市長の書き込みが上記ですね。千葉市という、割と規模の大きい自治体の首長が特定の「個人」に対して時間を割きすぎるのはどうかと思わないでもありませんが、ともあれ一部の危険を煽り立てる人の言動によって「不安に思う方がそれなりにいらっしゃることは行政として無視できない」との立場から「公開して反論」しているとのことです。

 まぁ、市町村とか自治体の広報と、こうしたtwitterの類となると読者層はたぶん異なるのでしょう。市の広報とか意外に色々なことが書いてあったりするものですが、全く目を通さず関心を持たないまま、それでいてネット上では政治について高説を垂れる、そんな人も多いのではないかと思います。国政については新聞報道で知っていても、身近な市政とかは意外に知られていないもの、地方の政治家にとっては自治体の公式な発表を通じて住民に告知していくだけでは間に合わない部分も多いのかも知れません。だから、twitterなどネット上での活動に一定の重心を置く人も出てくるのでしょうか。もっともネット上の支持を過大視して痛い目を見た例も色々と頭に浮かびますけれど……

 ここで注目したいポイントは、市長が「反論相手自体は殆ど説得不能だと理解しています」と述べている点です。この辺り、どう評価されるのでしょうか。対象が「放射能」の問題となると、いい顔をしない人も多いのかな、とも思います。一方で私は、これと似たような主張を歴史修正主義批判の文脈で何度となく見たことがあります。歴史修正主義者当人の考え方を改めさせるよりもむしろ、歴史修正主義者による珍説の拡散を防ぐことに力点を置いている感じの人は、決して少なくないのではないでしょうか。反論相手を「論駁」ではなく「説得」可能と考えて歴史修正主義を批判している人って、あんまりいないような気がするのです。

 一言で括ろうとするとどうしても乱暴になるので難しいのですが、それでも敢えてフレーズを設けるなら「トンデモ一蹴派」とでも呼ぶべきでしょうか。原発や放射線の影響だったり、あるいは歴史認識の問題だったり、いずれにせよトンデモとしか言いようのない珍説が世に溢れている中で、そうした妄論の何がどう誤っているのかを説明し、きっぱりと否定する人もいるわけです。そして意味合いとしては上述の千葉市市長同様、トンデモを信奉している人そのものを説得すると言うより、その手のトンデモが世間に広まるのを防ごうとしているケースが多いように思います。

 ところが、こうした「トンデモ一蹴派」に否定的な人もまた少なくありません。こちらはどう呼ぶべきでしょうか、強いて言えば「(自称)中立派」みたいなのが当てはまりそうです。「自称」の部分を除けば、当人にも歓迎されそうな気がしますし。具体的にどんな層を「(自称)中立派」として想定しているかと言いますと、「中立的な立場を装い」「その実は専らトンデモ一蹴派の批判に終始し」「トンデモに関しては実質的に容認」する人々ですね。これもまたネット上で賑わしいですけれど、現実世界にも決して珍しい存在とは言えないわけです。

 結局のところ、千葉市市長がそうであるように、歴史修正主義批判者も大半は、巷に流布するトンデモの誤りを指摘することはできても、そのトンデモを「真実」と信じて疑わない人たちを説得し、考えを改めさせることにはほとんど成功していないように思います。むしろ、それを諦めている、不毛に感じているケースもあるのではないでしょうか。それどころか、かえってトンデモ信奉者を意固地にさせる場合さえ見られます。このような現状を前に、コミュニケーションの失敗であると批判する人もいるわけです。確かに、そういう側面は否定しません。とはいえ、いかに誤りを指摘されようとも自身の信仰にしがみつくばかりの人々を前に、いったいどうしろというのかと嘆息してしまうところもあります。

 放射能にせよ歴史修正主義にせよ、それぞれトンデモを「真実」と称揚している人の言うことを真っ向から否定するな、彼らの言うことも尊重してコミュニケーションを図れと、そう説く「(自称)中立派」が結構いるのではないでしょうか。まぁ、それでトンデモ信奉者を社会復帰させることができるのなら、理想的なことなのかも知れません。とはいえ、そんなトンデモに居場所を与える「コミュニケーション」に労力を費やすより、何かを信じたがっている人は放っておいて、その盲信が世間に広まらないように、社会に害を及ぼさないように努めた方が、広い目で見れば建設的なのではないかと思うところです。

 ともあれ、こうした「(自称)中立派」の類型として、歴史修正主義に関してまず頭に浮かぶのは東浩紀です。どの程度まで一般に知られている人なのかは微妙ですが(デビュー当時は、学会では期待される逸材でしたね。今は何とも言えません)、上で書いたように歴史修正主義者の主張を真っ向から否定する歴史修正主義「批判」の態度を、これまた真っ向から否定して一時期はネット上で話題に上ったものです。本人は、自分は歴史修正主義に与するものではないと弁明しつつも、その実は歴史修正主義「批判」のみを専ら批判していました。これが大方の歴史修正主義批判者の強い反感を買うところとなったのは言うまでもありません。

 皮肉なことに、その当時は東浩紀の自称中立的な歴史修正主義への態度(事実上の容認)を強く批判していた人が、原発や放射能を巡る問題となるや、自らもまた東浩紀的な態度に終始していたりします。別に全員が全員とは言いませんけれど、歴史認識に関するトンデモを一蹴しては、その態度を否定する東と対立していたかに見える人々が、こんどは原発/放射能に関するトンデモを一蹴する科学者や専門家を御用学者と呼んで罵倒していたり、得体の知れないトンデモ(差別や偏見を含む)を広めようとする人々を一概に否定すべきではない云々、どっちもどっちなのだ等々とむしろ擁護に回っていたりする、そういうケースもまた少なからず目にしてきました。歴史認識に関するトンデモはマトモに相手にするべきではないが、放射能に関するトンデモとはコミュニケーションを図れと主張する人がいたら、まずその人自体が信用できないと思いますけれどね。

 

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7 コメント

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Unknown (言うだけ番長)
2012-04-13 00:50:32
『村野瀬玲奈』による木下黄太擁護が、そういう意味で典型例かと。
http://muranoserena.blog91.fc2.com/blog-entry-2754.html
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Unknown (Unknown)
2012-04-13 06:30:33
「珍説」を唱える人々を、説得するのは、難しい。まして、「放射能」絡みだと、なおの事。私にすれば、話を聞こうとしない相手を説得するのは、最初から諦めて、言わすだけ言わしておけばいいと。どうせそのうちボロが出るのが分かっていますから。とはいえ、放置するのは、自治体の「建前上」難しい。「予防線」張りながら、「説得する」しかないのでしょう。ま、無駄ではあるが。(ここが、民主主義の、「難義な」部分。独裁政治なら、楽なんです。なにせ「黙らせば」いいのだから。)
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Unknown (プチ左派)
2012-04-13 20:49:12
東電バッシングのうち理不尽なものがあっても、読者はそちらばかりを鵜呑みにし、現状を確認しようとしません。バッシングに使えるものは信じたいから信じるという、科学の基本すら無視したブログが多すぎるのが現状です。
下にあげたのは、マスコミによる悪意に満ちた間違い・誇張・つまみ食い報道でありますが、ちゃんと東電のHPでその事実関係を確認している人が扇情的なブログを書いている人たちの中にどれだけいるのでしょうか?
信じたいものしか信じないという姿勢は歴史修正主義と根が同じように思います。

3月13日付朝日新聞朝刊社説「東電値上げ 燃料費下げる努力は?」について
http://www.tepco.co.jp/cc/kanren/12031301-j.html

4月6日放送 テレビ朝日「モーニングバード」における「清掃工場から“買いたたき”」報道について
http://www.tepco.co.jp/cc/kanren/1201723_2005.html

週刊ポスト4月13日号(44~47頁)「東京電力は大企業だけ『裏値引き』している」について
http://www.tepco.co.jp/cc/kanren/1201617_2005.html
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Unknown (非国民通信管理人)
2012-04-13 23:38:52
>言うだけ番長さん

 反原発のためならデマを撒き散らすことを厭わない人は枚挙にいとまがないですけれど、木下黄太なんぞを持ち上げるようでは、お里が知れるというものですよねぇ。ヘイトスピーチに荷担しているに等しいと思うのですが。

>プチ左派さん

 結局のところ、自分の政治的な主張をごり押しするのが最優先で、事実関係なんてどうでもいいのでしょうね。歴史修正主義に関しては史実を説いて自分好みに歴史を歪曲する人々を糾弾しつつも、その一方で原発問題に関しては自分好みの陰謀論やエセ科学を擁護し、実情や科学を説明する人を罵倒する等々、根本的に知に対する誠実さを欠いているとしか言い様がない人々が目立つようになりました…… まぁ、馬脚を現しただけなのでしょうか。
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Unknown (不肖の弟子)
2012-04-13 23:41:07
東浩紀は橋下の太鼓持ちに成り下がっている感がありますね。
彼だけでなく橋下信者に対して説得よりも「珍説の拡散防止」を徹底させないというのが当てはまります。

東電の問題は批判する側の言動が色々と酷く思います。
「社宅から自転車が消えているからどこかに避難した。けしからん」と言って社員のプライバシーに平気で踏み込む手合いがいます。
賞与が出ることに難癖をつけていることはご存じのとおりかと思います。

日経上がりの町田徹も然りということで。
郵政民営化とJAL問題もそうですが、東電でも「徹底的なリストラや資産の売却をしろ」と煽りが相当なものです。
その一方で「労働者に分配したり、外資を誘致するために法人税を引き下げろ」と頓珍漢なことを言っています。
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Unknown (くり金時)
2012-04-14 05:11:48
すいません。二番目のunknownのコメントは、私が書いたものです。名前を打ち込むのを忘れたまま、送信してしまいました。これから気を付けます。ご迷惑をかけてすいません。
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Unknown (非国民通信管理人)
2012-04-14 18:53:25
>不肖の弟子さん

 原発や電力会社に対しては、それを非難している側のひどさが目立ちますね。それはやっぱり「犯罪者に人権はない」と公言するような連中と似たような振る舞いだと思うのですが、日頃は人権を慮る風を装う人でも電力会社は例外扱い、歴史の歪曲には厳しい態度を取る人でも科学の歪曲には賛同するみたいな、筋の通らない人が多いです。

>くり金時さん

 上のコメントについてですが、結局ガレキ受け入れを最初期に表明できたのが、傲岸不遜の石原慎太郎であったのが皮肉と言えますね。民主的に振る舞おうとすれば、珍説や偏見、デマの類にも付き合わなければならない、つらいところです。
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