野田内閣の発足を受け、読売新聞社は2日夜から3日にかけて、緊急全国世論調査(電話方式)を実施した。
新内閣の支持率は65%で、内閣発足直後の調査(1978年の大平内閣以降)としては5番目に高く、不支持率は19%だった。
野田首相が内閣や民主党人事で、党内各グループの議員を幅広く起用したことについては「評価する」が71%に上り、挙党態勢を目指す首相の姿勢が高い支持率につながったようだ。
政党支持率をみると、民主は28%で、前回調査(8月27~28日実施)の21%から回復し、自民23%(前回23%)を逆転した。内閣を支持する理由では「これまでの内閣よりよい」48%が最も多かった。「首相が信頼できる」17%、「政策に期待できる」12%などが続いた。
さて、野田内閣が発足しました。読売調査によると支持率は65%とのことで、好調な出足です。ただ歴史修正主義者でもなければ、わざわざ野田を支持する理由なんてなさそうにも思えますし、往々にして歴史修正主義者は民主党所属と言うだけで極右系議員までもを毛嫌いしているのですから、なおさら野田を支持する人のイメージが浮かびません(石原慎太郎は「評価する」と語りましたが - 「自分の言葉を持っている」石原慎太郎知事が野田首相を評価(産経新聞))。不況期に増税しようなんて考え方は、電力不足の時期に原発を止めようなんて言う人々の発想に相通じるものがあるのかも知れませんけれど、まぁネット世論からは窺い知れないものがあるのでしょう。
どちらかと言えば注目すべきは65%と言う絶対的な支持率の高さではなく、このスコアが史上5番目という相対的な高さの方です。ちなみに野田より上にいるのは小泉、鳩山、細川、安倍、そして6位に続くのが菅です。細川は長年続いた自民党支配の切れ目に当たったと言うことで別格とすれば、残る上位者は全て21世紀の首相、小泉以降の内閣ですね(引用元記事では触れられていませんが福田内閣が7位と続きます)。どうも小泉以降、日本の政治は新内閣に対して妙に高い支持率を出すようになってしまったようです。もっとも小泉を別とすれば細川も含めた5名は支持率が落ちるのも早かったわけです、おそらく野田も同様の結末を辿るであろうことは想像に難くありません。
何かと政治否定の気運が強いかに見える昨今ですけれど、それとは裏腹に新内閣発足時の支持率は20世紀のそれに比べると格段に高い値を示しています。昔の内閣では得られなかったような高い支持を、小泉以降の新内閣は得ているわけです。ことによると現代の世論は、むしろ政治に極大の期待をかけるようになったのかも知れません。日々政治家を罵倒しつつも悪い奴をやっつけてくれるヒーローを待望し、新たに発足した内閣に最初だけは期待をしてしまう、そして速やかに落胆する――これが21世紀の有権者像なのでしょう。こうした有権者に振り回された結果として今の政治があります。
一川保夫防衛相は2日、正式に就任する直前に一部の記者に対して「私は安全保障の素人だが、それが本当のシビリアンコントロール(文民統制)だ」と述べ、朝日新聞の取材にもそう発言したと認めた。これに対し自民党の石破茂政調会長(元防衛相)は「閣僚解任に値する。任命した野田佳彦首相の見識も問われる」と批判。国会などで追及する考えを示した。
文民統制は本来、国民から選ばれた政治家が軍隊を統制するという考え方。一川氏は朝日新聞に「私は軍事の専門家ではないし、銃器を扱ったこともない。国民目線で判断しながら、国民に防衛政策や安全保障を理解してもらったうえで政策を推進しなければいけない、という気持ちで言った」と説明した。
さて、野田内閣の人事を見ると相変わらず女性閣僚の少なさが目立つところで、この辺は自民党時代からも政権交代直後からも一貫しているわけですが、不思議と自民党時代の女性閣僚の少なさを批判していた人が民主党政権下の女性閣僚の少なさを批判しているケースは非常にレアなように思われます。まぁ、その辺は偶々私が見る機会がなかったということで、今回は防衛相の発言を取り上げてみましょう。曰く「私は安全保障の素人だが、それが本当のシビリアンコントロール(文民統制)だ」と……
言うまでもなく、引用元の記事でも指摘されているようにシビリアンコントロールとは素人が統治するという意味ではありません。軍事ではなく、政治の専門家が統治してこその文民統制なのですが、しかるに一川氏は「素人」「国民目線」辺りをアピールしたがっているようです。この辺もまた昨今の世論に媚びた結果でもあるのかも知れません。往々にして「専門家」よりも「素人」の方が、政治家の目線よりも「国民目線」の方が正しいものと扱われがちなだけに、前者ではなく後者に近い風を装った方が得だと判断する政治家は少なくないでしょうから。
確かに専門家の言うことさえ聞いておけば済むかと言えば必ずしもそう上手くは行かないもので、時には外部の視点が加わってこそ多面的な対処が可能になる場合も多いわけです。ただ、この頃は単に大学に籍を置いているだけでマトモな論文を出したこともなく学会では相手にされていない人とか、市民団体の中でブイブイ言わせているだけでやっぱり学会からは相手にされていない人、あるいは写真週刊誌報道や諸々の「ジャーナリスト」の語ることが幅を利かせていることの弊害を目の当たりにすることも多いだけに、むしろ現代の日本ではもう少し「専門家」の言葉に耳を傾ける方向にバランスを取っていかねばならないのではないかと強く感じるところです。素人考えや国民目線で政治を混乱させるのは、もういい加減にお終いにしてほしいと願わずにはいられません。
(追加)
武器輸出3原則「検討あっていい」…一川防衛相(読売新聞) - goo ニュース
一川防衛相は5日の記者会見で、武器輸出3原則の見直しについて、「平和国家の理念と目標を曲げない中で、検討することはあっていい」と述べ、検討していく考えを示した。
さて、問題の一川氏はこのように発言したそうです。とりあえず一川氏にとっての「国民目線」の結果として、武器輸出3原則の見直しがあるということなのでしょう。素人に検討させるのは不安で仕方がありませんが。