時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

MacSE/30~この長いつき合い

2006年04月11日 | 雑記帳の欄外

 届いたばかりの『考える人』(2006年春号No.16)を見ていたら、「特集:直して使う」の中で、「あれっ?」と思う写真が目についた。堀江敏幸氏(2001年芥川賞)「日々を取り繕う」の冒頭に掲載されていた。今ではほとんど目にすることがなくなったマッキントッシュのSE/30である。実は、その仲間?が、私の仕事場でも働いている。混み合って居場所がなくなった机の上から机下に移ってはいるが、今でも立派に現役である。

  振り返ると、パソコンとの縁もずいぶん長くなった。最初はローマ字入力し、スムーズに漢字に変換されるだけで大変感動した。手動のレミントン・タイプライターで論文を作ることからスタートしているので、当時は日本語でこれまでできる時代が来るとは思ってもいなかった。一時はすっかりのめり込み、今思えば計算するのも怖くなるくらいの投資もした。とても回収できたとは思えない。

  インターネットにいたるその後の変化は驚嘆すべきものだが、この機種とのつき合いは、ひとしお格別なものがある。マッキントシュとの出会いの最初が、このSE/30であった。それまでは国産機種を使っていたが、暗号文書のようなマニュアルと悪戦苦闘し、やっと動いてくれるMS-DOS系の機械と違って、最初から「ユーザー・フレンドリー」を標榜したマックには親近感があった。しかし、とにかく高価であり、SE/30については初期には日本へは輸出されないという話だった。

  1991年だったと思うが、会議で出張したハワイ大学のCOOPで対面し、即座に購入を決意した。アカデミック・ディスカウントでも50万円以上したと記憶している。持ち合わせではとても足りなくて、大学の友人から融通してもらって別送品扱いで大事に持って帰った。成田税関でパソコンは関税はかかりませんよと言われて、一寸得をしたような感じだった。最近のような簡易包装ではなく、小型冷蔵庫が入るくらい大きく頑丈な段ボール箱詰めで、車のトランクが閉まらず苦労した。

  筐体はマレーシア製、9インチの一体型モノクロ・ディスプレイである。メモリーは当初40メガバイトだったが、後に100メガまで増強した。ソフトウエアでは結構苦労したが、ハードウエアはしっかりしており、メモリーやハードディスクの増強などの改造はしたが、故障したことはない。
  
  改めて確かめてみると、「漢字トークJ1-7.5.3」が入っていた。「ワード」も「ユードラPro」まで入っている。キーボードもテンキーもついた頑丈なつくりの純正品であり、普通の仕事には十分である。

  これまでにOSがヴァージョンアップするなど、さまざまな理由から使用をあきらめたりで、多くの機種が目の前から消えていったが、SE/30には人生のかなりの時間をつき合ってもらっているので、処分する気にはなれなかった。現に電源を入れると、「ポーン」という独特の起動音で、Welcome to Macintosh と迎えてくれる。最近はデザインも機能も洗練されたものになったが、マック、ウインドウズを問わず、愛着を感じるような強い個性を持った製品が少なくなった。

  今、主として使っている機種はWindows系だが、もう一台、目前で働いてくれているマックがある。キューブと呼ばれるトースターのような形状でデザイン的にも大変ユニークな機種である。しかし、こちらはSE/30と違って、初めから問題山積だった。数年前発売直後に購入したが、半年くらいは故障ばかりでほとんど「入院」状態だった。そのためもあってか、後継機は生まれなかった。ただデザインはきわめてユニークであっただけに、MoMA(Museum of Modern Art, New York)に納められたようだ。これも苦労させられただけに、お役ご免にするのも忍びがたく、今でも目の前に並んでいる。幸いその後は「元気」で、i-tuneでダウンロードした音楽などで楽しませてくれる。

  パソコンのような機械でも、長年にわたって使っていると不思議と愛着が生まれてくる。今日までよくがんばってくれたなあという思いがする。技術進歩の速度が速く、製品の陳腐化もめまぐるしい日本だが、「物を大切に」、ゆっくりと生きることの大切さを改めて考えさせられた。
  

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