石原延啓 ブログ

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シュバルツハイデの向こう

2011-09-16 23:54:27 | Weblog


先日珍しくギャラリーを歩いた時にワコーさんのところで衝動買いした「リュックタイマンス シュバルツハイデの向こう」を読む。
90年代の終わり頃だったかNYで画廊をやっている友人のクリストフが「アートンシーンにまたペインティングが戻ってくるよ」と言われて見せられたのがタイマンスのカタログだった。
ぼやーっと言うかあっさり描かれたというか、とにかく当時の私には彼の作品に上手く入り込めずになんだか脱力させられるような気がしたものだ。
下手うまではないが確かな技術を感じつつもシンプルな構成はいかにもヨーロッパのコンセプチュアルなペインティングだなあと思った。
ところが2006年にワコーワークスオブアートで観た「Restoration」展で目から鱗が落ち、2008年にニューヨークのDavid Zwirnerで偶然観た「Forever, The Management of Magic」展で、その脂の乗りきった画力にはガツンとやられました。

本書を読んで印象的だったのがタイトルにも引用している「シュバルツハイデ」という作品中に観られる縦縞について。
アウシュビッツの囚人の中にはその思いを絵に描いた人もいたが、処罰を恐れ、それらのドローイングは数片に寸断されて隠されなければいけなかった(縦縞は再び繋ぎ合わせた跡)とタイマンスは述べているが、批評家のウルリヒ・ルークによるとこの絵のもとになったのは収容所から生還した美術家・アルフレット・カントルの絵を元にしている(縦縞はドローイングが描かれたノートのもの)という。
ことの正否で言えばタイマンスに分がないようだが、重要なのは彼は嘘をついてのではなく、実際にあった二つの話をまぜて作品を構成しているところ。
画家曰く「絵とは偽らなければ絶対に接近できない何かの偽りである。」
納得。

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