【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

テレビの威力

2011-09-22 18:57:43 | Weblog

 「巨人大鵬卵焼き」の時代に、私はどうして全国にジャイアンツファンがいるのか、不思議でした。もちろんマスコミの影響ですよね。毎日テレビで観ていたら、親しみを持つのは当然ですから。ただ、野球場に観戦に行ったこともないチームのことがそんなに好きになる、という心理はやはりわかりません。ヴァーチャルとリアルの区別はつけた方が良いように思うのですが。
 同様にマスコミが“後押し”をしているものと言ったら、高校野球や大相撲ですね。これもテレビであそこまで放送されなかったら、あんな人気が出たのかなあ、と私はちょっと不思議な気分で見ています。皆さん、高校野球や大相撲を実際に観戦に行ったことが、どのくらいあります?

【ただいま読書中】『アト・ランダム ──ランダム・ハウス物語』ベネット・サーフ 著、 木下秀夫 訳、 早川書房、1980年、2700円

 貧しいが幸福な少年時代を過ごしていた著者は、16歳の時に母を失うことで少年時代の終りを知ります。著者は自分の考えで、進学校のハイスクールを辞め商業学校に転じます。公認会計士の事務所でバイトもし、著者は「社会」について実地に学びます。コロンビア大学では学生新聞の記者になりますが、著者のコラムは人気を呼びます。第一次世界大戦、文学との出会い、禁酒法……まるで古いミュージカル(三つ揃いを着た“スター”がタップダンスを踊りながら歌うタイプのもの)のように、著者はとても信じられない“ストーリー”を生きています。最初の就職もダブルだし、初めて就職した出版社(リヴライト社)には(祖父の遺産を投資として持ち込んだ、という事情があるにしても)最初から副社長です。そこで著者は、出版業界について多くを学びますが、一番大きかったのは「何をしてはならないか」だそうです。私から見たら、もちろんそれもあるでしょうが、様々な人とのコネクションを得たことがとても大きいのではないか、と思えます。やがて、リヴライト社の「モダン・ライブラリ」部門を買い取って独立させてしまいます。仲間と共同経営したのですが、これが大当たり。出版社は大躍進を始めます。
 タイトルを見たらわかりますが、本書はランダムハウスの創始者の自叙伝です。軽妙な口調で語られるその人生は、客観的には波瀾万丈なのですが、著者は本当に楽しそうです。人生を楽しく生きる、がモットーだったのかな。たとえば戦争での用紙不足。これは出版社にとっては死活問題のはずです。ところが著者にかかるとそのトラブルでさえ抱腹絶倒のエピソードになってしまいます。なにせ紙が絶対的に足りないことで怒鳴り込まれたトラブルが、最後には「聖トマス・アクィナスは、私の守護聖人と」なってしまうのですから。
 本書は「時代」(第一次世界大戦から第二次世界大戦後まで)を描いたものでもありますが、印象的なのはそこに様々な「生きた人」が登場することです。出版社ですから作家も多く登場しますが、それぞれの人のユニークな言動が活写されています。著者は、日時とか会った場所とか買ったものの値段とか、細かいデータをゆるがせにしていません。詳しい記録を大量に残していたそうですから、そういったものを参照しながら書かれているようです。私自身が自分の人生を描くとしたら、記憶が頼りになってしまうのでここまで詳しくは書けません。まあ、私の人生を書いても最初から面白いものにはなりませんけれどね。