【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

風の行方

2011-09-03 18:43:43 | Weblog

 台風はつまりは低気圧ですから、その中心に向かって風が吹き込みます。そこで素朴な疑問。その吹き込んだ風(空気)はどこに行くの?
 もしどこにも行かなかったら、中心に空気が貯まりますから気圧は上がります。おそらくほとんどの低気圧はそうやって消滅していくのでしょうが、台風に限っては、ますます発達することがあるわけで、だとすると私に思いつく“排出ルート”は、中心部での上昇気流です。対流圏だか成層圏だかは知りませんが、「宇宙に行ってしまえ」といったすごい勢いで「上」に空気を捨てている。だから「低気圧」が維持できる、という仕組みです。
 それが正しいとしたら当然次の疑問が生じます。それだけの激しい上昇気流を維持するメカニズムは? 最初(台風の発生時)は太陽で温められた海水温で上昇気流が生じるのでしょう。私が知りたいのはその後の「維持」の方です。何らかの形でエネルギーが投入されないといけないはずですが、さて、太陽がぽかぽか照らすだけで十分なのかしら?

【ただいま読書中】『津浪と村』山口弥一郎 著、 石井正己・川島秀一 編、三弥井書店、2011年、1800円(税別)

 著者は、田中館秀三に地理学を、柳田国男に民俗学を学び、三陸海岸の集落を実際に歩き続けることで津波研究を続けました。柳田の「論文だけではなくて、漁村の人も親しく読める物を書いてみてはどうか」と勧められて昭和18年に発表したのが、本書です。
 過去の経験を忘れて同じ哀話を繰り返すのをやめるためには、同様に先人の業績を忘れてしまうのではなくてそこから学ぶべきだ、というのが、本書復刊の目的です。そのたびに“リセット”がかかるのでは、過去は教訓にはなりませんから。
 三陸には、明治29年と昭和8年の2回、ほぼ全滅した集落があります。一度高地に移転しましたが、浜を離れては不便なため結局また浜に戻ってしまったのです。高地が安全なことはわかりきったことなのに、なぜ浜に戻るのか、そこには経済だけではなくて民俗学的な要因もあるのではないか、という疑問が著者の調査の動機です。
 宮城県は昭和8年の津波直後に「宅地造成は、明治および昭和の海嘯以上(津波が到達した高さ以上)にすること」と定めました。しかし、住民の抱える事情は様々です。たとえば「氏神」。高地に移転した人も、旧屋敷跡の氏神に祭日ごとに参ります。あるいは「墓を守る」「先祖伝来の土地を捨てられない」。これらは浜に戻る大きな動機になります。高地は水利が不便です。商業は地理的位置が重要です。繁盛しないところに店を構えたくはありません。山間に農地をもつ者は、それが宅地で潰されることを嫌います。漁民はもちろん、水産物の水揚げや加工は浜に近くないと商売になりません。さらに、新しく移転してきた者は、とりあえず“空いている場所”に仮屋を建ててしまいます。
 高地移転が成功したもあれば失敗したもあります(「3・11」で、港湾施設はともかく、宅地はほとんど無事だったもありました)。その原因は様々ですが、読んでいて私が感じるのは、今月1日に読書日記に書いた『日本の対外行動』でも上げられていた「危機感」の有無です。巨大津波が、何もかも根こそぎ破壊してしまうことについては、意見は誰もが一致するでしょう。で、その津波が「一生涯に1回来るかどうか。ままよ。もし来たら、運命だ」と思うか「明日来てもおかしくない、対策を立てなければ」と思うかで、そのあとの行動が変っていきます。(さらに、私財を投じてでも、の覚悟を固めた強いリーダーが現場に存在するかどうかも重要です)
 一つ一つのを尋ね歩き、そこの家に泊めてもらい、詳しく話を聞き続ける著者の努力は半端ではありません。そういった現場を歩いた人にしか語れない話も本書にはたっぷりあります。たとえば「大損害を受けたでは、生存者が少ないため、かえって“教訓”が語り継がれない」。極端なことを言えば、全滅したらでの体験談は誰も知らないわけです。未来の損害を減らすために教訓を語り継ぐためには、誰かが生き残らなければならないようです。
 実は柳田国男も大正九年に三陸を歩いて明治大津波の惨状とその後の復興について調査をし昭和三年『雪国の春』に「二十五箇年後」を収録しました。そこにはこうあるそうです。「元の屋敷を見棄てて高みへ上がった者は、其故にもうよほど以前から後悔をして居る。之に反して夙に経験を忘れ、または其よりも食うが大事だと、ずんずん浜辺近く出た者は、漁業にも商売にも大きな便宜を得て居る」。
 「歴史に学ぶ」と言うのは簡単ですが、それだけで人の行動を変えるのはなかなか難しいもののようです。「背に腹は代えられない」と言われたら、それに返す言葉はないでしょうから(たとえ言葉を返しても、それで腹が膨れるわけでもありませんし)。もしどうしても海辺に住むのなら、建物はすべて高層建築にします? これなら助かる人は増えそうな気はします。あのような地形の所での高層マンションが、快適かどうかは私には判断できませんが。