【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

違う地図

2011-09-21 18:49:01 | Weblog

 日本から見たら、ソ連とUSAは随分遠い国だと思っていましたが、ある日地球儀を上から眺めてみて、「まるで地中海のようだ」は言い過ぎかもしれませんが、北極海をはさんでお互いがずいぶん近い存在であることに気づきました。だから「ICBM」の意味も当時の日本人とは随分違った感覚で使っていたのでしょうね。ガンジーの伝記で「イギリスで使われる世界地図はイギリスが中央に位置していてインドが中央ではなかったことにガンジーが強い印象を受けるシーン」があって、私は「世界地図で日本が真ん中とは決まっていないんだ」と驚いた記憶があるのに、それでもどうしても私は「地球」を見るときに「日本」を「中央」に置く癖がついているようです。

【ただいま読書中】『南極・北極の気象と気候』山内恭 著、 成山堂、2009年、1800円(税別)

 北極海には、ユーラシア大陸や北アメリカ大陸から大量(地球上の河川水の10%)の淡水が供給されています。この淡水は北極海の表層の塩分濃度を下げ結氷しやすくします。さらに表層の密度が下がるため深層と混ざりにくくなり、海氷はますます成長しやすくなります。海氷は熱伝導が低く、海水の熱を遮断し、反射率が高いため光を高率に反射します。このことが極地を寒冷に保つ一つの要因です。
 地球はその断面積分の太陽エネルギーを受け取り反射しない分を取り込みます。また、その温度に応じた放射を表面積分放出しています。そのバランスを求めた「放射平衡温度」(宇宙空間から見た地球(地表面および大気全体)からの放射に相当する温度)は摂氏マイナス18度。それに温室効果が加わることで地表面温度が決まります。大気が日射に対しては透明なのに地球からの長波放射には不透明なためその差で地表温度が上がることが温室効果です。さらに、緯度によって日射が異なり、反射率が異なります。それによって生じる熱エネルギーのアンバランスが、大気と海水の流れを生みだします。両極地は地球を冷却する領域で表面積はほぼ同じですが、北極は海抜0mなのに対し南極は標高が非常に高い、という差があります。これまた地球環境に影響を及ぼしているのだそうです。
 二酸化炭素濃度は、北半球でまず増加してそれが南半球に数年後に波及するパターンで動いているそうです。となるとやはり人為ですね。そして海水の動きがそれに影響を与えます。たとえばグリーンランド海では北大西洋の海流の沈み込みが起きる海域として有名ですが、そこでは二酸化炭素も深海に取り込まれているのです。
 オゾンホールは南極で確認されましたが、それに昭和基地での地道な観測が大きな貢献をしていたことは本書で初めて知りました(もうちょっと論文で頑張っていたら、「日本が発見した」となっていたはずだそうです)。みずほ、あすか、ドームふじ、といくつも基地が増えていたことも本書で知りました。日本は頑張っているじゃないですか。
 雪が長年降り積もってできたものを「氷床」といいます。南極の数千メートルの分厚い氷床は、過去の情報の宝庫です。有名なのはボストーク基地で、1980年に2083メートルまでの掘削で16万年の気候を明らかにし、その後3623メートルまで掘りましたが、その下に大きな氷床下湖が発見され、100万年間地球大気と隔絶された環境の水を汚染せずにサンプリングする新技術の開発まで掘削は中断されています。日本はみずほ基地で掘削を開始しましたが、ここの氷が流れていて複雑な“地層”のため解析は断念し、新たにドームふじ基地(標高3810m、氷床の厚さは3100m)が作られました。昭和基地から1000km離れていて準備は大変ですが(1回の越冬掘削のためには2年間輸送に専念する必要があるそうです)1995年から掘削が開始され96年には2503m(約32万年分)のコア掘削に成功しています。その結果も面白い。「氷期」と「間氷期」のサイクルが10万年ずつ3回あり、前の間氷期は現在より摂氏6度も高いことがわかったり、古代の大気成分が分析できたり(温度と二酸化炭素濃度には相関があるそうです)……南極の地下、というか、氷表面の下は、情報の宝庫です。さらにグリーンランドでの深層掘削の結果と南極のコアとを照らし合わせると、“グローバル”な気候変動がわかってきます。ここでのグラフの一致ぶりには見た人は驚くはずです。ぜひ、実際に見て驚いてください。
 現生人類は、アフリカを出てから1回氷期を経験しています。そして、今の間氷期が終わればまた氷期がくることはまず確実です。さて、そのとき人類はそれにどう対応するか、の前に、現在の“温暖化”に対処する必要があるんですよね。本書を読んでいて面白かったのは、生命が気象にけっこう大きな影響を与えていることでした。地球環境は、気象さえも単なる物理学のお話では終わらないのです。どうか南極での観測が「仕分け」でひどい目に遭いませんように。これは「人類の未来のための研究」なのです。