少し前からおばあちゃんの部屋の冷蔵庫の電源を切った。
冷蔵庫開けっ放し、というのが続いたし、食べ残した総菜などが山のように入っていた。
時間が経ってカチカチなったものや、カビが生えたもの等、
時々出してはそれらを食べていたりするようだった。
何度も、注意したけど、分かってない。
冷蔵庫はもう使えないからね、と口を酸っぱくして繰り返した。
ところが、おばあちゃんはどこに隠すのか、時々前日の食べ物等食べているような気がした。
おかしいどこに置いているのか、テーブルの周囲を見回しても分からない。
時々点検していた時には冷蔵庫には入れてなくて安心していた。
ところが来客等でおばあちゃんの部屋を覗く時間が無かったりする事もあり、
間を置いて冷蔵庫をのぞくと、カビの最悪系黒カビが食べ物を覆い尽くしていた事があって
思わず悲鳴を上げてしまった。
何度おばあちゃんを脅しただろうか。しかし脅し続けなければ、おばあちゃんは忘れるようだ。
2日前の事である。
朝ご飯を食べて、薬を飲み、ソファに坐ってラジオを聞いていた。
パタンとドアが開いておばあちゃんが出て来た。
そのまま、すうっとトイレに行ってくれる事を秘かに望んでいる自分がいる。
しかし、おばあちゃんは洗面器を持って洗われ、
「これなんとかして」とわたしの前にその洗面器を差し出した。
みると、上下の入れ歯が入っていた。
「それくらい、自分でできるでしょ」と突き放す。
おばあちゃんにとって、緊急事態である事はわたしはその時ピンと来ていなかった。
洗面器に水を入れて、入れ歯にたまっている食べカスを洗い落とした。
そして、入れ歯をコップに入れて、おばあちゃんの部屋に持って行った。
昨日、買い物に出て、巻寿司を買って来ていて、巻寿司とミニトマトを出していた。
おばあちゃんはミニトマトを食べたら変になったと主張する。
わたしそんな筈はないと思った。
しかし、おばあちゃんはげえげえと食べたものを小さなゴミ入れに吐いている。
胸元も吐いた食べ物でびしょびしょだ。
わたしは、おばあちゃんが古い腐ったものを食べたと思っている。
それにしても、おばあちゃんの身体の作りは、かなり健康だと実感した。
身体が拒否反応したものを、身体から出しているのだ。
しばらくその様子を見て、出すだけ出せればいいと思っていた。
嘔吐が収まってから、着替えさせ、身体を拭いて、水を飲ませた。
食べ物が喉に引っ掛かることもなく、落ち着いた。凄い、と内心思った。
もしかして、下痢が続くかも、と思ったけれど
最悪の状況は免れた。
主治医の先生に貰っていた胃の薬を飲ませ、この時とばかりに
冷蔵庫を使わないようにと、言い聞かせた。
おばあちゃんも懲りただろうけれど、忘れるからね。
今朝、収穫したさつまいもを新聞紙に包んで、穴を開けた発砲スティロールに収めていたらおばあちゃんが出て来た。
昨日はご飯を食べたがらなかったので、食べない方がいいと無理に食べさせなかった。
今朝はお粥を食べさせ、部屋から出て来てバナナを食べると言う。
天井を見上げて、何か考えているのか、何も考えていないのか。
しかしなあ、何も言う事ありません。生きているという事実があるだけだ。
これで良いんだと思う。
今年、新たに介護認定の為、前回と違うケアマネージャーさんがやってきた。
おばあちゃんは良い顔をしてますね、と言う。
わたしはおばあちゃんの暮らしのスタイルを尊重していると思っている。
おばあちゃんは自分のものを触られるのは嫌だし、
永々と続けて来た自分の暮らしのパターンがある訳で、
そこはおばあちゃんが譲れない所だろうと思うのである。
自分なりに、朝窓を開けたり、夜になればカーテンを閉めたり、
滅茶苦茶だけど、半分お尻を出して、衣類を触ってはあっちにやったりこっちにやったりしている。
これがおばあちゃんの暮らしなのである。
我等の価値観を強要しないで、
臭いの汚いのを我慢している事がおばあちゃんに良い事なんだと気が付いた。
今年、介護認定は介護3から介護4に上がった。
今のところ、何も必要としないけど、いざ、という時の為である。
人間てなんなんだろうね。