マキペディア(発行人・牧野紀之)

本当の百科事典を考える

安定した電力源を

2011年03月29日 | タ行
        澤 昭裕(21世紀政策研究所研究主幹)

 今回の大震災(東北関東大震災)に伴って実施された「計画停電」によって、私たち日本人は最近忘れていたエネルギー安全保障という問題と真正面から向き合うこととなりました。過去2度発生した石油ショックの時以来でしょう。

 今回、原発で深刻な事故が発生したことから、電源構成を太陽光や風力などの再生可能エネルギーに大きくシフトすべきだといった議論が高まることば必至です。しかし、一時の感情に支配されず、その長短を考慮した冷静な議論が必要です。日本経済を縮小させず、かつ生活水準を回復するために災害からの復興が必要な今、電力の安定供給が最大の課題となります。電源の中核部分を再生可能エネルギーに任せられるかというと、量的にも質的にも現実的ではありません。

 原発1基分の電力量を太陽光発電で得ようとすれば、JR山手線の内側にソーラーパネルを敷き詰める必要があるくらいです。天候にも大きく左石される太陽光や風力をベースとして安定的な供給計画を立てることはできません。

 では当面の電力不足はどうやって解消すればいいか。短期的には、石炭や液化天然ガス(LNG)などの化石燃料による火力発電所を再稼働・増設するしかないでしょう。

 ところが、石炭火力は他の化石燃料火力に比べて、より多くの二酸化炭素を排出します。温暖化対策を進める政府は、現在発電量の約25%を占めている石炭火力を、2030年まで約10%にまで引き下げようと計画していました。それを可能とするのが原子力発電の量的拡大計画だったわけです。その予定を大幅に変更せざるを得なくなった今、化石燃料火力に対して、今までよりも前向きな評価を与えるべきだと思います。

 実は、再生可能エネルギ一に積極的といわれるドイツでさえ、安定供給への配慮は忘れておらず、石炭火力が発電量の約半分を占めているのです。太陽光発電などへの投資は、石炭火力を維持するための「免罪符」のようにも見えます。米国も同様に発電量の半分は石炭火力です。

 日本の石炭火力は世界で最高効率の技術を有しています。日本はむしろ胸を張って石炭火力による原子力の穴埋めを進めていくべきです。また世界に先駆けて日本が活用を図ってきたLNGも今後とも有力な選択肢でしょう。

 火力発電を増やせば、もともと現実性に乏しい政府の温室効果ガス「2020年に1990年比25%削減」構想の実現は不可能になります。被災地の復興や国民経済生活を維持するためには、排出は増やさざるをえません。私は、この非常時、温室効果ガスの削減目標は実情に応じたものに見直すべきだと考えます。

 今回の事故の原因や推移に関する徹底的な情報開示は必須ですし、安全技術の抜本的見直しを進めることは当然です。しかし、経済が回復した暁には温暖化対策と経済の両立を再度考える必要が生じます。その際には、原子力を含めて全てのエネルギー源について、安定供給上の課題にも目配りしつつ根本から総合的に検討すべきでしょう。

 (朝日、2011年03月25日。聞き手・山口栄二)

    感想

 「当面の電力不足」対策だけしか論じていないようで物足りません。長期的な展望をまず明らかにした後に、「当面の対策」を論ずるべきです。

 石炭火力だけでなく、LNG火力も支持しているのに、後者の説明が少なく、前者に偏り過ぎています。

 コジェネなら安定供給が可能だと思います。特に「プロパンによるコジェネ」なら電線が要らないので、災害に強いと思います。こういうことへの言及もありません。専門家として物足りません。

 安定供給という点から太陽光と風力に水を掛けただけのように思えます。

     関連項目

風力・太陽光発電の否定面